それでも嬉しい
空は快晴、波も穏やか
風は優しく吹いて頬を撫でる
平和と言う言葉が非常によく似合う、そんな昼下がりに甲板にいるのはシャチと別世界のロー
周囲の監視兼釣りを楽しんでいるシャチの横で、こちらの世界のローに日光浴を促されてぼうっとシャチを見ているローは釣果の入ったバケツに視線を移した
バケツの中には六匹の魚が泳いでいる
「おっしゃ七匹目!!」
勢いよく釣り竿を振り上げた釣り糸の先には魚が一匹かかっていた
慣れた手つきで釣り針から魚を離してバケツの中に入れる
「そういやローさん、ペンギンから聞きましたよ?口癖」
「え?あ、あぁそうか……何か迷惑ばかりかけて悪い」
「いや、今絶対謝る所じゃないです。ペンギンに言いますよ?」
「や、えっとわる……」
「ローさぁん?」
「……何でもない……」
再び謝りそうになってシャチが制すると、ローはグッと言葉を飲み込んだ
先日、謝罪ばかり言ってしまう事をペンギンから指摘され、それから改善するように努めている
が、いまだこんな調子である
次の魚を釣る為に釣り針に餌を付けて海へと放る
「……情けないなと自分でも思う」
「え、何でですか?」
質問をするがローは口を噤んで黙ってしまう
仲間を守れなかった、心が折れてしまった、本来なら関係の無いこちらの世界に逃げて込んで迷惑を掛けてしまった
どれだけ償っても償いきれない
そんな言葉を吐き出せはしなかった
さざ波の音だけが暫く続いていたが、そんな中口を開いたのはシャチだった
「俺さ、嬉しいんですよ」
「え?」
シャチは海を見つめたまま笑う
「トラファルガー・ローは俺等のキャプテンで親分で、家族で親友で、頭良いし強いから1人で大体何でもやっちゃう人で」
その言葉にローの胸が締め付けられた
自分もかつてそうだった
それなのに今や見る影も無いかつての自分の話が辛かった
「でも、誰よりも仲間思いで自分が傷付く事は何とも思ってない人だから、俺達はいっつも置いてけぼりで」
「……」
「だから、別の世界のだとしても『ロー』って人間に頼られるの、滅茶苦茶嬉しいんですよ!なので存分に頼ってくださいねローさん!」
「……!」
パッとローを見て笑うシャチ、サングラスの向こうの瞳は優しげだった
ローは目頭が熱くなるのを感じてフイと視線をシャチから逸らした
「……ありがとう」
「お!ローさんからのありがとう待ってました!」
その時ピンと釣り糸が張ってシャチは八匹目の魚を釣り上げた