それぞれの思惑
鳥籠ガスマスクの少女がアリスの部屋から出てから帰り道を歩いていると声をかけられた
「どこに行ってたんだ、姫」
すらりと引き締まった身体に長い黒髪の少女でアリウスの特殊部隊アリウス・スクワッドのリーダーであるサオリだった
「ごめんなさい。ちょっと散歩してた」
サオリに『姫』と呼ばれた少女は先ほどまで自分のしてた事を誤魔化した。サオリは少女の言葉を疑わずにそのまま彼女を護るように共に歩く
「…………」「…………」
歩いている間2人には気まずい沈黙が流れる
(前までは会話が無くてもよかったのにな…)
会話がない事に寂しさを覚えてしまったのはモモイと出会ってからだろう。スクワッドの面々は幼馴染みのような関係でお互いを大切に思っている。そんな中にあっさりと入って来て引っ掻き回すモモイちゃんの行動は私達の見た事ない表情を引き出してくれた。サッちゃんも心を許してしまうほどに。だけど、ミドリちゃんがいなくなってモモイちゃんが暗くなってしまったあの日からサオリも暗い影を見せるようになった。何か聞いても「大丈夫だ」としか言わない
私はモモイちゃんのようにサッちゃんの言葉を引き出せない
(もしかしたら私の行動はサッちゃんを苦しめてしまうかもしれない。それでも…)
ガスマスクに貼られた『花のシール』を触りながら彼女は戦う覚悟を深める
「…以上がAL-1Sの状態でした」
アリスとガスマスクの少女が話をしていた時を同じくして、Keyがベアトリーチェに昼間の『訓練』での監視の結果を報告していた
「…ではAL-1Sは成熟した人格を持っているという事かしら?」
Keyの報告に対してベアトリーチェは疑問が頭の中を駆け巡る
(いつの間に確立した人格を…最近まではただ命令に従うだけの人形のようなものだったのに?いや、そもそも人格は持てないようにしたはずでは?)
表情に出さないが不測の事態に対して苦々しく思う
「恐れながら気になる点について話してもよろしいですか?」
Keyが発言の許可を求めた事に対してベアトリーチェは黙って続きを促す
『王女…いえ、AL-1Sの最近の行動パターンは今までと比べ大きく異なっています。さらに、アレの言葉には何か別の記憶媒体を持っているように感じました。これは成長というよりも別の人格がインストールされたように思えます」
Keyの言葉にベアトリーチェは最悪の可能性を視野に入れる。AL-1Sは元々無名の司祭達が作り出した物だ。それの乗っ取りを行うということは同等の技術を持っている可能性がある。
「『色彩』がからんでるかもしれませんね。もしそうならあの人格は消さなければなりません。Key頼めますか?」
「時間が要りますが、よろしいですか?」
「構いません。アレが『色彩』ならば相応の準備が必要でしょう」
ベアトリーチェの言葉を最後にKeyはプログラムの海に入る。他にも多くの作業を平行してやってもらっている為、実際に対処するには時間がかかるだろう。静かになった部屋でベアトリーチェは報告書を読んでいると、ある単語を見つけ苦々しい思いを顔に出す
(またあなたの名前を見る事になるとは思いませんでしたよ『モモイ』)