それが運命でなくても 3
注意
・オメガバース要素があります(β×Ω)※正直あんまり詳しくないので結構ふわっとした設定になっています
・恋愛要素があります(あと途中微妙に不穏なところがありますがハッピーエンドです)
・その他もろもろ
1に詳しい注意が載っていますので、そちらから続けてお読みください。何でも読めるぜ!という方はどうぞよしなに。
「はー...」
「3兄さん、いま良いか?」
「ああ、構わん。どうした。」
「いまニュース・クーの配達で手紙が来て...あんた宛だ。」
「私に?」
首を傾げるMr.3に手紙が渡される。
「届けたからな!」
男はのしのしと大股で歩き去っていった。
Mr.3はすぐに封筒の裏表を確認する。
宛名は確かに自分宛てで、表にはミス・ゴールデンウィークと彼にとっては見慣れたサインが入っていた。
「...」
事務作業をする部屋でなくアトリエに入り、扉を蝋で固めて誰も入って来られないようにしたMr.3は椅子にどっかりと座り封を切った。
その中から微かに甘い薔薇の香りが漂うことに気がついた彼は無意識に顔を顰める。
そうしながらも便箋を取り出し少し癖のある丸っこい字に目を通した。
『元気にしているかしら?わたしはこんなに長くあなたと離れるのが久しぶりだから何だか少し寂しいわ。
話は変わるけれど、ザラがすすめてくれた人、背が高くてとってもきれいな女の人だったの。もっと怖い人が来ると思っていたからびっくりしちゃった。』
「...」
険しい顔つきで続きを読み進める。
街を散策したり絵を見せたりした話が綴られていて、その最後に。
『せっかく来てくれたからって一緒に海に行ってくれてとても楽しかったの!写真を同封しておくわ。』
Mr.3は便箋を畳み封筒へ仕舞うと、その後ろにあった僅かに固い手触りのそれを取り出す。
ブロンドヘアで背の高い気品のある女性と彼女と似た顔の男性、ミス・ダブルフィンガー、そしてワンピースの裾を翻して波打ち際で笑うミス・ゴールデンウィーク。
「...幸せそうだ」
この分ならやはりこんなところには戻って来ないだろう、とMr.3は一人頷いて封筒に写真を仕舞って机の引き出しに入れ、途中で放置していた書類を引き寄せた。
「おや、こんなところで飲んでるなんて珍しいねMr.3。」
夜、カライ・バリ島内のバー。
普段はそこに来ることのない珍しい客にアルビダは声を上げた。
彼の手元にはブランデーのオン・ザ・ロック。
飲み始めたばかりらしく氷はまだ丸い。
「...あぁ、アルビダか。ようやく少し息抜きをする時間が出来てな。」
ふうん、とあまり興味の無さそうな声を出しつつ隣に座ったアルビダはワインを注文した。
「で、息抜きだけじゃなくてバギーよりもながーい付き合いの『相棒』を失ったのを自覚してきてひとり傷心中ってところかい?」
ずばりと一刀の元に切り伏せるような言い方をされ、Mr.3は机に突っ伏す。
「...私ってそんなに分かりやすいか?」
「いや、普段はそうでもないよ。腹の底に何飼ってるか分かったもんじゃないし...ただあの子のこととなるとどうも分かりやすくなるねェあんた。」
駆けつけ一杯と言わんばかりにワインを一気飲みしておかわりにベリー酒を頼んだアルビダはくすくすと笑う。
「嫁に出したんだって?」
「(バギー、あいつ言いやがったな...)」
殺気立つMr.3の肩をアルビダが軽く叩く。
「ま、自分で手放す選択をしたんならもうキッパリ諦めて生きなよ。中途半端は誰も得しないからさ。...向こうから自分のとこに戻ってきてくれたとしたら、話は別かもしれないけどねェ。」
「そんな希望を見出させるようなことを───」
ふと自分の口から本音が漏れたことに気が付き慌てて手で口を塞ぐが、隣に居るアルビダに聞こえないはずもなく。
「それがあんたの本心だろ?」
にやりと笑ったアルビダが2杯目になるベリー酒を口に運んだ。
「でさ、なんであんたはあの子を手放したわけ?アタシそれが気になってたんだよ。」
「何てことない話だ。私の傍に居ても幸せにはなれないと思ったからだガネ。」
「あんたの目節穴だったりする?」
「他の面々からも言われてはないがひしひしと圧で感じていたことを言語化するのはやめてくれんカネ...」
だって、とアルビダはグラスを傾けて言う。
「人のことをよーく調べたり観察するのが苦じゃない筈のあんたが人から逃げてんでしょ。そりゃああんたのこと前々から知ってるMr.1とかクロコダイルとかもなんだこいつ...って思うんじゃないのかい?」
「...返す言葉もない」
「ここまで言われて返す言葉があったらびっくりだよ。それにガードも作って渡したんだろう?そこまでして手放すなんて、矛盾にも程がある。」
「あれは...たまたま革を貰った分が余っていたから作っただけで」
アルビダはグラスの中身を一口飲み下したMr.3の様子などどこ吹く風で手をひらひらとさせてあしらう。
「はいはい、オッサンのそういうのは流行らないよ。」
次ラムをオン・ザ・ロックで、と彼女がバーテンダーに言ったあと、Mr.3の方へ向き直った。
「まあ多分帰ってくるよ、あの子。」
「は」
沈黙の合間にカラン、と溶けた氷が音を立てる。
「ただ、そこであんたが大きく間違えたらその後は本当に二度と帰って来ないだろうね。ただの女の勘だけど、あたしのは意外と当たるんだ。」
ぐい、と傾けたブランデーを飲み干したMr.3が呟く。
「...そうか。ああ、マスター、ライラをもらおうか。」
「(未練たらたらじゃないか)」
その様子を見て瞑目して色々と考えたアルビダは、
「あんたが潰れないように付き合ってあげようか?」
とMr.3に提案した。
「にしてもあんたの作ったあの白いガード...あれ、錠前に海楼石使ってたんでしょ。どうやって付けたんだい?」
「私の身体にそれは効くが、私が出した蝋には効かないからな。蝋を使ってなんとかやったんだ。鍵も海楼石だから危うく彼女の前で脱力するところだったが...」
酔いの回ってきたMr.3の言葉に呆れたような顔でアルビダはラムを呷る。
「それであの時気をつけて摘んでたわけ。ふうん、能力者対策も兼ねてるってことね。」
「ああ。...Ωは生涯に一人のαとしか番になれない。それを棒に振るような出来事があってはならないからな。」
「...そ。(守ることにおいては強いのに、態々手放すんだからタチ悪いわね)」
「...煙草、いいか?」
「どーぞご勝手に。」
Mr.3が煙草に火をつける。
南の海で作られるそれの香りは有名で、東の海出身のアルビダでも知っていた。
だが、普段Mr.3から漂うそれとは違う。
「いつもと違うわね。」
「たまにはな。」
五指の指先でグラスを上から包むように持ち哀愁を感じさせる姿は、頂上戦争から始まり多少の付き合いがある彼女でも初めて見る姿だった。
「ねえ、あんたあの子のことやっぱりめちゃくちゃ好きなんだろう?」
「...」
「沈黙は肯定ってことにするけど」
「...こんなもの、恋ではないさ」
「でもそうだとしても愛はあるでしょ。それがどんな形であれ...やっぱりあんたはバカだよ。」
「急にめちゃくちゃ失礼だガネ!?」
そこから更に憤ろうとして、Mr.3はその資格もないなと自嘲してグラスを持つ肘から上をそのままに再び突っ伏す。
しかし先程の言葉の違和感に顔だけを横にしてアルビダの方に向けた。
「...というかあの時、私が彼女にガードを渡すのを見てたのか?」
「あはは、たまたま見えただけだよ。」
「じゃあ何故見ただけで錠前が海楼石だと思ったんだ?」
「勘だよ、勘。あんたみたいなアホみたいに重い男が使わないわけないだろって思っただけさね。」
「アホみたいに重い...!?」
「あーほらほら、灰が落ちるよ。」
スッと差し出された灰皿に大人しく灰を落とし、再度吸う。
彼が細く吐き出した頼りない紫煙は、今のMr.3の内心を表しているように見えた。