それから

それから

お別れ続き

有馬がいなくなった当日、俺はむせび泣いた。言い聞かせた。兆候は出ていた、声も聞こえなくっていた、嘘だと分からないフリをしていた、これが普通だ、今までが贅沢だったんだと。それでも涙は止まらなかった。何度かこのまま…と考えたこともあったが有馬と過ごしてきた日々を無駄にすることはできないと思い踏み留まった。

そして、4年の月日が流れた。今日は有馬かなの命日だ。

花屋に寄って菊を買う。毎年ルビーやあかねやMEMちょとともに行くが今回は予定が合わず個人個人で行くこととなった。芸能の仕事をしていると合わないことはあるため仕方がない。菊を買った後お墓のあるところまで歩いていると後ろから声をかけられた。

「落としましたよ。」

その人はお守りを持っていた。すぐさまカバンを確認する。すると普段つけてる場所にお守りがついていなかった。

「僕のですね。すみません。ありがとうございます。」

「いえいえ。」

帽子を深く被っていたため、顔はよく見えなかった。ただ、ひどく懐かしい声に聞こえた。

「大切なものなんですか?」

女性はそう聞いてくる。

「はい、大切な…大切な人と思い出のお守りです。安産祈願のお守りなんて男が持ってるのは変に思われるかもしれませんが。」

聞かれてないことまで答えてしまう。

「そんなことないですよ。今の時代、誰がどんなお守り持ってても変じゃありませんよ。」

…やめてくれ

「お墓参りですか?」

…その声で話さないでくれ

「…はい。」

「こんなかっこいい人に花を供えてもらえて相手の方は幸せですね。」

…期待してまうからもうやめてくれ…!

「…大丈夫ですか?」

「…えっ?」

「涙出てますよ。ハンカチどうぞ。」

…情けない。有馬がいなくなってから似た人に勝手に期待して勝手にがっかりしてを繰り返してる。もうない幻想を見ている。さっきもそうだ。声に懐かしさを勝手に覚えて感情が昂ぶった。それもハンカチを受け取る時に手に触れたことで落ち着きを取り戻した。「触れられた」この人は有馬じゃない。もう有馬は…いないんだから…

「落ち着きましたか?」

「えぇ、ありがとうございます。」

お礼を言い、その場から立ち去ろうとした時

「今度は落としちゃダメよ?



 あーくん!」


俺はすぐさま振り返る。帽子を取った女性は太陽のような笑顔をしていた。


Report Page