その重力、予測不可能につき
若干センシティブなので閲注▼
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「……先輩」
「こ、コンちゃん……?」
拝啓、偉大なるお父さん。
ぼくは今、貴方の親友の、最高の後継者に組み敷かれています。
目を逸らそうとしても、あまりにも異質、他の誰にも向けたことのないような瞳の色があまりにも恐ろしくて、じっと見つめることしか出来ません。
ぼくは何か悪いことをしたのでしょうか……確かに某同期と喧嘩したり、眼前の男の子にウザ絡みしたり、まあ世間的にはあまりよろしくないことをしたのかもしれませんが、その結果がこうなるとは予想出来ませんでした。
どうか、どうか、助けてください。
「……なんで怒ってるか、分かります?」
なんて、胸中で無駄な祈りを捧げていたら、ぼくの手首を掴んでいた右手が離れて、顎に添えられる。そのままグイ、と引き上げられて、コンちゃんとの距離が、たぶん、10cmもなくなった。
「わ、分かりません……」
自然と飛び出た声はいつもよりも小さい自覚があるし、反射的に敬語を使ってしまった。
だってそれくらい、その瞳が恐ろしい。
沈黙が数十秒続いて、やがてため息の音と共に手を離される。少々離れたとはいえ、まだまだ近いまま、コンちゃんの手が動く。
「……鈍感ですね。これ」
「ん……これ、今日撮った……」
ずい、と差し出されたスマホに映るは、ぼくのウマッターの投稿。
今日は一線から退いて以来あまり会えてなかったタクトやエフたちに久しぶりに会えた日だった。話したり遊んだりなんだかんだした後に、せっかくだから……と写真を撮って、アップしたんだ。
だけど、それがどうかしたのだろうか。
「……先輩がこの人たちのことを大切に思っているのは分かっています。でも、距離、近すぎません?」
「え……そうかなあ」
普通だと思うけど、と続けようとした言葉は途中で止まった、というか止められた。
近い。
スマホの投げられた音がする。さっきよりも近づいた顔が逸らせない……もう逸らしても無駄だと分かるくらいの近さになったから。
このままもっと近づいたら……なんて恐怖も頭によぎる。そもそもどうしてこうなっているか分からないんだ。ぼくとコンちゃんはただの同室で、まあ周りの想像よりも仲良くはなったけど、決してこんなことをされるような関係ではなかったはずだ。
「駄目です。先輩はお顔も可愛らしいですし、身体もそこまで大きくなくて……だから、こうされたら抵抗出来ないでしょう?」
「……でも」
否定しようとした口に、恐れていたことが起きた。
ぱち、と一瞬まばたきをした間に塞がれていた。抵抗しようとしても両手をガッチリと塞がれて動けない。
どうして、なんで、コンちゃんが、ぼくに、こんなことを?
好いているのはぼくだけだと思っていた。彼は誰とでも仲良く出来るから、同室がぼくじゃなくても仲良くなれていたと。
そもそもぼくが抱いているのは友愛の感情だけで、こんな、こんなことをされたかったわけじゃない、それなのに、そのはずなのに。
(……瞳が、逸らせない)
情欲のにじんだ目、興奮からか薄らと赤らんだ頬、ぼくの顔に落ちてくる髪の毛さえも、どうしようもなく愛おしくなって。
そっか、ぼく、この子になら、こんなことをされてもいいんだ。
永遠とも、一瞬とも呼べる時間が過ぎて、顔が離れた。
コンちゃんは紅潮した顔のまま、得意げに口角を上げる。
「……ね?これに懲りたら、もう……先輩!?」
離れようとした身体を抱き寄せる。
一人用のベッドがぎしりと音を立てる。仕返しだ。丁度耳が目の前にあるから、そっと囁いてみる。
「コンちゃんになら、何されてもいいよ?」
「先輩……エピ、さん」
コンちゃんが顔を上げる。さっきよりもギラギラとした瞳は欲に飢えていて、こちらも興奮してくる。
「……どうなっても、知りませんからね?」
「うん、おいで?」
ふたり沈んだ夜の行方は、カーテンの向こうの月明かりしか知らない。