その日1人の女が“悪魔から人間になった
マキマside
(──政府の直属の命令だ、この男を動向を監視しろ──)
彼との出会いは、そう“任務”だった。彼は自勇軍なる組織を設立してね、それは後に革命軍と言われる程の規模になったしそのメンバーには彼を筆頭に“暴君”と評された【バーソロミュー・くま】、“奇跡の人”とも言われカマバッカ王国の女王も務める【エンポリオ・イワンコフ】と言った錚々たる面子ばかり、万が一の武力行使等を危惧した政府は私を派遣した。自分で言うのもなんだけど当時の私はちょっと…色々過激だったし下手にCPを寄越しても排除されてただろうしね、もっと言えば五老星もその上の人も私と彼と言う不穏分子を潰し合わせるかあわよくば共に消し去りたかったんだろうけど、その結果彼と私は結ばれちゃったんだから笑っちゃうよね。
あぁ話が逸れたね、えっとどこまで話したっけ…そうだ潜入任務の話だったね、私は他の人にはない特別な力があって、それを行使すれば潜入なんて余裕だった、当時の私はその力を使うのに忌避感なんてなかったし、その時の私の認識は彼は“悪”だったからね、痛む心がなかったんだよ。伊達に“悪魔”なんて言われてなかったんだ。
話を戻すね、潜入して暫く経った後の事なんだけどね、彼が革命軍を立ち上げる決定的な事件が起きてね、“オハラ”へのバスターコール決行だよ。あの事件には普段冷静な彼も堪えたらしくてね、めずらしく熱くなっていたよ、まぁ私からすればクローバー博士の研究は事実の照らし合わせでしかなかったんだけど、元々世界政府っていう組織も元々あった大きい組織を押し退けて出来上がった組織だし…ん?あぁこっちの話。それでね、人の心は変わりゆくものって言うでしょ?彼の思想や考えを見聞きして、今回の事件を見て当時の私の中に一つの疑念が出てきてね、【果たして今の“正義”は正しいのだろうか】という物だよ。元々私は私が理想とする世界に近づける為に海軍に入隊したわけだしね、秩序がなければ世界が回らないのはわかってるんだけど、その秩序を荒らす海賊を生み出す原因にもなってる天竜人に疑念があって、海賊が島を荒らすのはダメで天竜人が島を荒らすのは黙認するっていうのはどうなのかな、って思ったんだよ、私からすれば何方も等しく人間な訳だし、彼らが世界を創世したと言ったってそれは彼らのご先祖のお話でしょ?実際に彼らが何かをしたわけでもない、強いて言うなら無駄に金を搾り取って無駄に私服を肥やして無駄に反感を買う…数え出したらキリがないよね、そういうのもあって一度彼に相談したんだよ「天竜人が支配する今の世界についてどう思うか」ってそしたら彼は
『忌むべき事だ、奴らがいる限りこの世界に平和はない。奴らが存在する以上海を荒らす海賊が生み出される。だが本巣を撃とうにも戦力が足りないし、秩序として世界を回す為にも世界政府は“まだ”いる。“まずは”天竜人からだ、その為にも今は少しでも同志を集めねばならない。──このことを本部に報告するか?マキマ』
私は驚愕したよ、堂々と目的を喋る彼も彼だけど私の正体を見抜いていたのも、当然彼に問い詰めたよ、いつから気づいてたのかってそしたら彼はね
『最初からだ、海賊や賞金稼ぎにしては身形が整い過ぎてるし、民間にしては身のこなしが過ぎる、そうしたら消去法で政府や海軍関係者に絞られただけだ』
『私を殺すの?政府関係者だもんね』
『何故お前を殺さなくてはならない、俺たちは自由のために戦う、その過程で血が流れることを良しとしない。例えそれが“支配の悪魔”と言われたお前の血であろうともだ』
『・・・変な事を言うね、私がその気になれば周りの人たちをあなたにけしかけることもできるのに』
『それだけはない、断言してもいい。お前の目的は俺達の情報を経る事だ、そして危険であれば排除する事…大方俺とお前が潰しあって消耗した方を横から掠め取るつもりなんだろう、権力者の考えることはいつだって同じだ』
『それだけは同意見だね、では何故私をここに置いていたの?私の“本当の正体”には最初から気づいてたんでしょう?』
『ん?お前は悪い奴じゃないからな、だから置いておいた』
『……そんな理由で?』
『そうだが?他に理由がいるか?』
『いや、その、もうちょっとこう、あったでしょう…私の力を利用するとか…』
『俺はそう言う目的で仲間に勧誘することはない』
『そう…仲間…仲間かぁ…ふふ、そう言うことにしといてあげるね』
『報告でもするか?自由にしろ俺は誰かの行動を束縛したりはしない』
『ふふ、しないよ。君の目的の果てに何があるのか興味が湧いちゃった、だから“表向き”は異常なしってことにする、だからこそ…【これは命令です、私を精一杯楽しませなさい、“モンキー・D・ドラゴン”】…やっぱり弾いちゃうよね、分かってたけど覇気が強いと効きにくいみたい』
『…今のが悪魔としての力か、まぁ今のは命令と言うよりはお願いに近いからな、精一杯お前の期待に応えれるよう動くとしよう』
『君はこれを見ても何も変わらないんだね。これを見たら殆どの人は気味悪くするか取り入れようとしてくるのに』
『確かに嫌悪感はある、だがそれだけでお前を気味悪がったりすることには繋がらない、それでは俺が嫌いな奴と同じになる、俺はそいつらと同類にはなりたくない』
『そっ…か…うん、じゃあこれは命令でもなんでもないお願いなんだけどね。』
─貴方だけは私を嫌いにならないで─。
それを口にした時の彼の顔は忘れないよ、ずっとね…
マキマside─Fin
ゼファーside
あいつの異常性を知ったのはかなり早かった、ごまんといる訓練生の中でもやはり強い奴は目立つ、苛烈なサカズキと底が知れないボルサリーノとかは特に顕著だ、最近ではクザンもそう、こいつらは既に化け物レベルの強さだ、それでいてその強さに慢心せず日々鍛え上げ、研ぎ澄ましている。もはや俺に教えれることは実戦以外ないだろう。だがこの3人の強さはまだ人間の理解力の範疇だ、ソイツの異常性に気づいたのは訓練生として演習を受けさせた時だった。それまで将来の有望株や新世界の奴らともやりあえる奴は幾人も見てきた。だからこそわかるソイツの異常性…一目見て分かった“此奴は化物だと”身にまとう気迫、目線、雰囲気と言うかなんというか、それらが人間のものとは思えなかった強いて言うならその体からは“狂気”に満ち溢れていた。これに近い雰囲気を放っていた男を俺は1人知っている。思い出すだけでも忌々しい、あの“支配”を体現したかのような悪魔の如き男、【ロックス・D・ジーベック】、そいつを幻視した、俺は取り乱しこそしなかったが内心穏やかではなかった。この世には悪魔の実がある関係上、死後発動する能力があったとしても不思議ではなかった、ロックス本人が死んで能力が発動し生まれ変わった…なんて与太話に出来んくらいには悪魔の実は出鱈目だ、警戒心を解かずに話に持ち込もうとしたが…
『そこまで警戒しなくても、貴方が思っている人物ではないですよ、ゼファー教官、私は彼の海賊の生まれ変わりではありません、私の名は、そうですね…マキマ、とでもお呼びください』
正直度肝を抜かされた、どこでロックスのことを知ったのかとか心の中を読めるのかとかそんなことはどうでもよかった。見た目の若い…それこそ二十代前半のそれとは思わせられないソレ…嘗てのロジャーやロックスやその残党からも感じることがなかったソレをこの娘は持っていた。異質、災害、上位者…それらの言葉が似合うようなそんな雰囲気を此奴は醸し出していた…確定だ、此奴は危険だ、危険故に手綱を握らねばなるまい、その為にもまずは互いを知らねば。
『あぁ、すまない。俺の名はゼファー、今日からお前を鍛え上げる教官だ、海軍として入隊したからには無論優しく、生ぬるい環境に身を置けると思うな、死ぬ気で強くなれ、訓練で死ぬ奴は実戦に立たせられねぇ』
『えぇ、無論そのつもりです、私が理想とする世界の為にも強くならなくてはならないので、どうか宜しく』
そこからの此奴の成長スピードには目を張るものがあった、同期で数少ない女というのもありちょっかいをかけようとした馬鹿共を軽くあしらい逆に捻っていた。(これはまぁ…あいつらの自業自得だが)
おつるちゃんの時もそうだったが、どうやら人間ってのは敵味方問わず“女”ってだけで甘く見る奴が多いらしい、俺からすれば鼻で笑い飛ばしたくなることだ、もしそうならセンゴクやガープがおつるちゃんに頭が上がらねぇって事態が起こるわけねぇだろう、俺も妻には頭が上がらねえからな。いつだって戦う女は強えんだ…本気でキレたお鶴ちゃんに追い回された時は…嫌やっぱり思い出さねえようにしよう、それがいい。
話が逸れたな、それでマキマの奴たが、まぁ実戦でもかなりやる。というか初陣の癖して表情変えずに銃やら大砲やら終いにゃ剣術使うわで、本当に初陣かとツッコミを入れたくなった。問答無用で海賊を殺しにかかった時は流石に止めたが脳天に拳骨をいれ反省を促したところであいつ、とんでもねえ事を言いやがった。
『奴らは海賊です、謂わばこの世界に蔓延るゴミですよ、我々海軍が行うのはそれらの排除、つまりは掃除です、職務を全うしようとしただけですよ、先生』
言葉を失った、それが本当に同じ人間に向ける言葉かと
『私が理想とする世界に海賊なんて塵は必要ありません、全て抹消すべきです。海賊が存在するから罪なき人々が苦しむのです、塵は塵らしくゴミ箱に捨てなくてはならないでしょう?しかしこの塵達は手強い、か弱き市民が捨てるには一苦労です、だからこそ我々海軍が存在するのでは?…私は何か間違った事を言ってますか?先生』
『確かに…奴ら海賊はクズだ、社会のゴミと言って差し支えない『では…』だが‼︎奴らも…命ある1人の人間であるという事を覚えておけ‼︎それに俺はお前が海賊を討伐したことに怒っているのではない、それは海軍の職務だ、職務に私情は出さん、問題なのはだ。お前が無感情に命を取ろうとしたことに問題があると言っているのだ‼︎』
『貴方は、足元にいる虫に一々気をつけながら地面を歩くのですか?『何?』貴方は足元にいる虫に気を配りながら歩くのですかと聞いたのです。私は無理ですね、足元で虫がどれだけ潰れようと私は気にも止めません、私にとって海賊とはそういうものなのですよ、私が無感情で敵を殺していた?結構ではありませんか、それは理想の兵士と言うべきではないのでしょうか、違いますか?』
この言葉で確信した、此奴は海賊を人間として見ていないのだ、サカズキも、いやサカズキですらもここまでいっていない俺はマキマの精神性に人間ではないナニカを感じ取った。
『それでも、だ。俺たちは市民を守る秩序ある軍隊、その軍隊が無感情に命を取るなんてことはあってはならない、申し訳なさそうに命を取れとは言わん、せめて命を取ったという自覚はもて、今のお前にはそれすらない』
『はぁ、そうですか、以後改めます…案外不便なところがありますね“人間”って』
そう言い残し奴は部屋を去った。海軍よりサイファーポールの方が向いてるんじゃないのか…とは口に出せなかった、それこそ心を消して機械になれと言っているようなものだ。そしてもう分かってしまった、俺では彼女を“人間”にしてやることはできないと。誰でもいい
──どうかあいつを“人間”にしてやってくれ──。
心の底からそう思わずにはいられなかった。
ゼファーside─Fin
ドラゴンside
俺が彼女と知り合った時の事は今でも覚えている、俺が革命軍を設立する前に率いていた軍つまりは自勇軍の時に彼女は接触してきた。その時に俺は彼女が政府関係者であると悟った、気配の調整が巧過ぎたのが原因だ、彼女は無意識なんだろうがな。俺に政府関係者にはあまり人脈はない、強いていうならベガパンクと親父くらいか…だが彼女の事は知っている“支配の悪魔”マキマ、とても海軍関係者に付けていい名前じゃないだろう、とは思ったし彼女に気づかれてた原因を問われた時咄嗟にああ言ったが本当は違う、あまりにもそこにいるのが“自然すぎた”からだ、普通人は初めて会う人間にはどこがよそよそしくなる、だがあいつは、それこそ長年飲み歩いた友人のように、幼少の頃から共に過ごした人間のようにそこにいた、その余りの自然さが逆に不自然だった、後から聞けばそれは彼女の能力の一部によるものらしいが、果たしてどこまで本当か…そのことについても今日、問い詰めてみるか…
「おはよう、ドラゴン君。今日も張り詰めてるね、少しはリラックスしなよ」
「…もうおはようというには少々時間が過ぎているがな、まぁいい適当に座れ、今回の件だが…」
「もう、即座に仕事に入れるのは良いことだけだたまには雑談等で息抜きも大事だよ、最近読んだ本でそう書いてあったんだ」
「…それもそうだな、それより今は…」
「大丈夫、この建物及び街の周囲には政府関係者はいない、気配を断っていても少動物と視界から逃れられない、だから安心していいよ」
「相変わらず出鱈目な能力だ、なら少し話そうか…」
そこからは他愛のない話を続けた、最近私生活がどうだのハマっている料理がどうだの、あーだのこーだの。余りにも彼女が楽しく話すもので、つい長く話してしまった、そろそろ本題を切り出すとしよう。
「随分長く話した、ここから本題だが…「新しい軍の件…だね?」そうだ、此処からは少々目立つことが多くなる、今までは細々としか活動できなかったが以前のオハラの件で分かった。もう待ってるだけの猶予がないということが、今動かねばならない。マキマ、お前の力を借りたい」
「それは…“契約”なのかな?」
「違う、マキマという1人の人間に頼んでいる、悪魔としてのお前に力を借りては政府と同じだそのような革命では何も変わらない、人の力で成し遂げなくてはならない」
「そっか…君はそっちの道を選ぶんだね…うん、分かったよ。私も協力しよう、無論これは悪魔としてではなく私個人として協力するわけだから何も代価はいらないよ、やったね」
「…一ついいか、俺はお前の正体を知ってはいたがなぜ“悪魔”たるおまえが人間に協力的なのかまだわからない、お前の目的は何だ?その名の通り人間や世界を支配でもするのか?」
「…そうだと言ったら?」
「禊を分つ必要があるな、少なくとも互いに無事じゃ済まないだろう。まぁそれが政府の狙いだろうがな」
「だろうね、だから私は君とは戦わない、君も襲い掛かっていかない者を襲わないでしょ?それに私は名前に反してそう言うのは興味ないしね」
「それを聞いて安心したが、尚のこと聞いておきたいお前は何がしたい?理想の世界を作りたいと言ってたが」
「そうだね、教えておこうか、私の理想とする世界について…その前にいくつか聞くことがあるんだけど…君は“ビルカ”と言う言葉に聞き覚えは?」
「・・・?何かの合言葉か?聞いたことのない言葉だが」
「これは遥か遠く昔栄え今や月に行ったとされる都市の名前、他にも“此方と彼方を繋ぐ島”、“世界を創造した21番目の一族”、“空白の100年”、“嘗て繁栄しながらも完全に消失してしまった種族”。そして“天上の玉座に座る者”これらを知る人物は数少なくなりました、私は悪魔の力で全てを覚えていますが貴方は覚えていないのでしょう」
「あぁ、今初めて知ったよ、それで、それが何だと?」
「それは政府が意図的に消した物です、それを知る私はもちろん政府に消されかけましたが私の力に目に眩んだ当時の政府は私と契約しました、その内容は伏せますが、まぁ彼方が隠した事をバラすな、というのは契約内容に含まれてませんので、今話しました、これで共犯ですね」
此奴悪魔か、悪魔か…
「はい、悪魔ですよ、話を続けるね、政府が不要なものを消したように私も消したい物が幾つかあるんだ、“人間が迎える死以外の四つの結末”は既に偉大なる悪魔によって消滅したんだけどまだ不要なものはあってね。例えば戦争、飢餓、病、これら三つだよ、あわよくば“死”も消せたらいいんだけど、少なくともこれら三つを消せば私の理想とする世界に一気に近づくんだ。だけど…」
「それらを消した世界に住む人間は果たして人間と言えるか…か?」
「…ッはい、その通りです、以前までの私なら気にはしなかったんだけどね…多分だけどそれは人の形をした別のナニカになると思う…」
「奇遇だな、俺もそう思う、そんな世界に興味がないわけではないが、おそらく碌なことにならないだろう…人間が人間である以上それらは消せない物だ「そう…だよね…」だが、俺達の手で限り無く0に近づけることは可能なはずだ、俺はその為に動いてるわけだからな「ッ‼︎君は…本当に世界を変えれると本気でそう思ってるの?」俺にしか変えられない。或いは俺の意志を継ぐ者か」
「そっ…か…うん、そうだね…うん‼︎君が無理でも私が、私でも無理なら意志を継いだ誰かが引き継いでくれるよ‼︎やろう‼︎世界を巻き込んだ大革命‼︎今の世界をひっくり返そう‼︎」
俺は此奴と付き合いを始めてそんなに長くないが此奴が此処まで笑っているところは初めて見た、いや今までも笑みを浮かべていたが此処まで純粋に、心からの笑顔を見たのは初めてだ。そんな彼女を見て俺は…悪魔ながらに“美しい”と思った。口には出さんがな
ドラゴンside─Fin
マキマside
初めてだった、心の底から笑みを浮かべれたのは。私が語った理想を馬鹿にせず笑いもせず全て正面から受け止めた上で否定し、妥協案を提示した、そんな男。妥協は甘えとは言うが私の場合は理想が高すぎるから妥協せざるを得ない、その妥協案も決して楽ではないのだけどね。兎に角私はそれまで生きてきた人生の中で一番の上機嫌であると断言できる。話を終え帰り道に着く中私はもう彼に会いたいと思っている。定時連絡のために向こうにも顔を出さねばならない己の立場を恨んだ、本当に支配してやろうかあのジジイ共…おっといけないいけない、冷静に…感情を乱すな…私は冷静だ…凄く。だから目の前でナンパしてくる海賊なんて知らない、ちょっと騒がしくなったけど知らない、むかついてる時に声かけてくるそっちが悪い、女の状態ぐらい察しろ馬鹿が。なんて愚痴ってると私の船に着き本部に急行する。こういう時悪魔の力って便利だ、風向き、波の強さ関係なしに快速で飛ばせる。そんな物で私は本部に到着して報告を終えた。途中ゼファー先生に声を掛けられたから軽く応じておく。
「お前…何かいいことでもあったか?」
「いいこと、とは?」
「えらく上機嫌だったのでな、訓練兵として見てやった義理もあるんで、一応声を掛けといたんだが…余計だったか?」
「いえ、恐らくですが今私は凄く上機嫌で愉快なのだと思います、兵士としてあるまじきことでしょうか?」
「いいや?そのままでいい、以前よりいい顔をするようになった。そういう奴は決まって心を許せる人間に会えたってことだ、良かったな、どこの誰かは知らんし聞く気もない、だがそいつは大事にしろ、本当に心を許せる奴なんて1人でも多いに越したことはないんだからな、特にお前はな」
「はぁ…あの、ゼファー先生、私は今ちゃんと“人間”を演れてますか?」
少々不安になりつつも聞かずに入れない、あらゆる人を見てきたこの人の言葉なら信ずるに値する
「昔のお前は…正しく正義を実行する機械そのものだった、無機質で無感動、悪魔と言われるのも納得できるほどのな、だが今のお前は違う、ちゃんと感情があり動揺もする。政府が欲する兵士としちゃ粗末なんだろうが俺からすれば満点物だ、今のお前はちゃんと“人間”に成ったよマキマ、だからこそおめぇ、そいつを大事にしろよ、じゃあな」
そう言って先生は去っていった。そっかぁ…私、人間に成れるんだ…‼︎
マキマside─Fin