その方法
「何やってんだい」
海軍本部中将“大参謀”つるは窓を開け、窓枠に掴まってる人物に問う。
追い詰められた顔でそこに居るのは
“新時代の英雄”こと
モンキー・D・ルフィ。
このマリンフォードにおいて、いやこの時代において知らぬ者はいないであろうその人物は、縋る様につるに助けを求めた。
「つるのばあちゃん頼む!部屋入れてくれ!」
「…内容によるね」
つるは窓を半分程閉め警戒する。
ルフィの人柄の良さはつるも知る所ではある。だがそれ以上に問題行動も非常に多い。元帥や大将との追い駆けっこ、ガープとのバカ騒ぎの末のクレーターの出現は日常茶飯事だ。それに巻き込まれたくは無い。絶対に。
ルフィも分かっているのか、つるの説得を始める。
「いやじいちゃんは関係無ェ!センゴクのじいちゃんもサカズキのおっさんもだ!…あー、あと中将のおっさん達も!!」
「本当だね?」
「ああ!今日の夜のメシに誓って!」
つるはため息を吐き、ルフィを引き入れる。何だかんだルフィには甘い。
「あらルフィちゃん。こんにちは」
「よお!ギオンのお」
「……お?」
「お…おねえちゃん」
「ふふ♪良くできました♪」
つると共に休憩中だったのだろう。ギオンが含みの有る挨拶を交わす。ルフィは遠慮無くソファーに座った。
「は~!助かった!疲れた!」
「そういうトコ
がガープのやつに似てるよ本当…。ほれお茶」
「お~!ありがとうなばあちゃん!」
お茶を勢い良く飲むルフィを見ながらギオンは問いかける。
「しかしおまいさんが逃げるだなんてどうしたんだい?さっきの面子じゃないとすると……、まさかウタちゃんに何かしたんじゃあ」
「ウタだったら逃げ無ェよおれ。…いやでも関係有るか?」
「どっちだい全く…。」
「茶出してやったんだ。話してみな」
せっかく引き入れたのだ。暇潰しも兼ねて話を促す。ルフィは話をぽつぽつと話始めた。
ウタがライブの打ち合わせで居なかった為、1人で昼食をとっていた。そのうちに他の海兵達が集まり雑談が始まる。内容はやはりウタの事が大半だ。新曲がどうだ、衣装がどうだとか。話が盛り上がる内にルフィに質問が飛んできた。
「ウタとどう仲良くなったのか」
と。
ルフィとしては話せる事は限られている。それに今まで色々な人物から聞かれて来た事だ。
同じ村に居て(ということにしている)幼馴染みである事。それにウタは良いヤツだから仲良くなるのは難しく無い、とか当たり障りの無い話をした。
が、質問をした海兵は神妙な顔で首を振り、「聞き方が悪かったです」と謝罪し
「女性と仲良くなる方法」
を聞いてきた。これには他の海兵も追従し、ルフィを質問責めにした。
いくら幼馴染みと言ってもあんな美人と気安く喋れるのおかしいだの、スキンシップをあそこまで自然にやる方法を教えて欲しいだの、ウタ以外の女性海兵とも結構仲が良いのはどうなってるのかだの。
ルフィは別に女だからどうこうは考えた事は無い。普通に人前で鼻ほじるわ、食いながら喋るわと自分は「そういう」対象にはならないと思ってる。仲良く出来てるのは皆が良いヤツだからだ。
わざわざ言わないがウタは特別として。
そんななので非常に答えに困る。
「そんなの考えた事無ェ。あー、そのままの自分で居れば良いんじゃねェか?」
「それで済むなら苦労しませんよ!」
「何か有る筈です!何かが!強さ以外で!」
「お、おい!顔コエーぞお前ら!」
ルフィを海兵達が取り囲む。まるで海賊でも相手にしてるかの様な鬼気迫る雰囲気にルフィは怖じ気づいた。食堂だと言うのに六式を使い、離脱。ルフィは話を切り上げようとする。
「強さ以外って、おれそれ以外無ェからな!?書類なんてウタと皆の助け無きゃ出来無ェし、航海術も料理も!というかおれより強いヤツ一杯いるじゃんか!」
「それだったら大佐以上の方々はあなたよりモテモテじゃなきゃおかしいでしょうが!!」
「オメーらスンゲェ失礼な事言ってんぞ!!?モテてもいねェし!」
「逃がしませんよ!ウタさんと仲良くなったその過程!そこにヒントが有る筈なんです!」
「…これ以上は言うことは無ェ!!」
過程と言うことは『あの件』や『ウタの親』についても話さなければならない。
ルフィはそのまま駆け出す。海兵達も負けじと追いかける。
────そして現在に至る、という事らしい。
つるとギオンは呆れてものも言えない。女性と仲良くなりたいとか、随分平和ボケしている様だ。
「……はあ。バカな事考える暇与えない為にも、モモンガのヤツに訓練内容厳しくするように言っとくかね」
「いやいやばあちゃん。今でも十分過ぎるって…」
「気持ちは分かるけどね。ルフィちゃんすぐ色んな人と仲良くなるもの」
「そうかあ?ウタの方がスゲーとおもうけど」
こういう所だろう。飾らないというか、それでいて自信が有るというか。それを自覚しないままやってるのだから恐ろしい。
「仲良くなるってまず話しかけりゃ良いだけだろ?ウタと初めて会った時もそうだったし」
「へえ、それは初耳だね」
「やっぱりルフィちゃんからなんだ。
……ねえ!話せる所までで良いからさ。聞かせておくれよ。…私もおつるさんもウタちゃんの事情は知ってるし」
ルフィは話の流れのままウタとの初対面の話をすると、つるとギオンが身を乗り出す。2人ともウタとは交流が有るものの、ルフィとはそれなりだ。しかもなかなか無い浮いた話の気配もする。
ルフィは少し逡巡するも、相手は事情をハアク済みのつるとギオンだ。で有れば問題にならないと思い話を続ける。
赤髪海賊団、シャンクスとウタとの邂逅だ。
話しかけたと言っても、最初は警戒してた事、歌声に心奪われた事、年の近い子供が周りに居なかった為自然と一緒に勝負を交えながら遊んだ事、流石にエレジアの事はぼかしたが。
シャンクス達が去った後、
『ウタと一緒に居る事』
を誓った事も。
話を終えると、つるは眩しいものを見る様に目を細め、ギオンは両手を頬に添え目を輝かせている。ルフィは困惑した。
「えっと、どした?」
「いや~……、うん。ルフィちゃん、少し見直したし、これからもウタちゃんとの仲、応援するよ!」
「ウタの事、これからもしっかり守るんだよ」
「?ありがとう?えっと、勿論だ!」
その時廊下から走ってくる音が聞こえ、そのまま入室許可を求める声が聞こえる。扉を開け入ってきた人物は、
「おつる中将!ギオン中将!お疲れ様です!」
「お疲れさん」
「こんにちは!ウタちゃん!」
噂をすればというやつか、
ウタであった。
そんなウタはルフィを見つけると眉をひそめ、この後の任務、そして物資の積み込み作業を伝える。
「分かった。行こうぜ!」
「朝ちゃんと伝えたでしょうが。なかなか来ないから見聞色であっちこっち探したんだからね!」
「ならウタちゃん、ごめんなさいね」
「引き留めて話し込んでたのあたしらだからね」
「とんでもない!気付かないルフィが悪いですから!…ところで何の話を?」
ウタはまだしも、ルフィがここに居るのは珍しい。雰囲気からして任務に関わるものでもない。当然の疑問だろう。つるとギオンは笑い合いながら、
「「あんたらの馴れ初め」」
と、ウタに言い放つ。言われた本人はたちまち顔を赤く染めルフィに掴みかかる。
「ちょっと!?何話したの!?」
「いや普通にウタと初めて会った時の話を…。何だ、コンソメ?って?」
「──ッ!!忘れて!お二人とも!失礼します!!行くよ!!」
「おう?じゃ~な!ばあちゃん、ねえちゃん」
つるとギオンは去っていくカップル?に手を振る事で答える。ギオンはまだ興奮冷めやらぬ様だ。
「はあ~!昔読んだ恋愛もの思い出すよ~!あんなに男らしい顔出来るんだねルフィちゃん!」
「はしゃぐんじゃないよ、年甲斐もなく…。ま、ウタに対しては真面目で安心はしたよ」
つるは呆れながらも笑みは崩さない。ガープを良く知ってるので、少し心配だったのだ。あの様子なら問題無いだろう。
それと同時にルフィに「女性と仲良くなる方法」を聞いた海兵に同情もする。
「ホント。何処の部隊か知らないけど、聞く相手を間違えたね」
「全くだよおつるさん!1人の女の子の為に、子供の頃の約束をバッチリ守ってるんだ!マネしようと思っても出来ないよ!」
2人の女傑は尚も話を続ける。何だかんだ浮いた話は好きである。このまま休憩時間一杯まで続くだろう。
穏やかな時間が過ぎていった。