その手の温もり

その手の温もり


新世界の海上に浮かぶ一隻の船、麦わらの一味のサウザンドサニー号は夜の静かな海を進んでいる。

そのサニー号の一室で眠っている少女ウタは、ほんの2週間まで悪魔の実の能力によって13年間人形に変えられていた。

ドレスローザの一件で人間の姿に戻ることができた彼女だが、13年喋れていない影響か話す際は途切れ途切れの話し方になっており現在リハビリ中である。

それともう一つ彼女には悩みがあった。

13年間人形だった彼女は眠ることができなかった、それ故に眠ることが怖いのだ。

眠ってしまうと起きたらまた人形の姿になっているのではないかと、人間に戻ってから3日間眠ることができず船医であるチョッパーから薬をもらい眠っていた

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

気が付くと真っ暗な空間にいた


”ここどこだろ・・・部屋で寝てたはずなのに・・・”


周りを見渡したがどこまでも真っ暗な空間が広がっている。

ふと自分の手を見て驚いた。


”え、人形の手?なんで、戻ったはずなのに”


それは人形だったころの自分の手にだった、よく体を見ると人形に戻っていた。


”やっぱり、夢だったのか人間に戻ったのもみんなが私を思い出したのも・・・”


そう思っていると前のほうで話をしている2人の姿が見えた。

子供のころルフィとシャンクスだった。


「シャンクス!また冒険の話聞かせてくれよ!」

「わかったルフィそう焦るな、マキノさんの酒場に行ったらゆっくり聞かせてやる」


”よかった。一度人間に戻ったんだし二人なら私を覚えていてくれるはず”


そう思い私は2人に近づいた。

近づいていくと他にもゾロやナミたちが話をしてるのが見えた。

みんなに気づいてもらうと声を出すけど


ギィ


やっぱり声は出ず壊れたオルゴールの音しか出ない。

そう思っていると皆私に気づかず遠くに歩いて行っていた。

人形の私がみんなに追いつくとこができるわけがなく必死に叫んだ。


ギィ!ギィ!!

”みんな!待って!!”


いくら叫ぼうと声ではなくオルゴールの音しかならず皆はわたしを置いて行ってしまう


ギィギィギィィィィィ

”置いてかないで!いやっいやあああああああ!!!”

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・タ・・ウ・・夫・」

「ウ・・・ウタ・・」


誰かに呼ばれる声がして私を目を覚ました。

目の前にはナミとロビンが慌てた表情で私を見ていた


「ナ‥みぃ‥ロビ‥ン‥」

「ウタ!よかった~大丈夫?」

「酷くうなされていたけど」


私は体をゆっくりと起こして窓の外を見た。

まだ真っ暗で夜中のようだ。


「ご‥めん‥な‥さい・」

「気にしなくていいのよ」

「はい、お水」

「あ‥り‥がと」


ロビンにもらった水を飲むと少し落ち着いた。

そのあと2人に夜風にあたってくるといい部屋を後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「大丈夫かしら」

「そうね、人間に戻ったばかりで心の傷をあまり癒えてないでしょ」


ナミとロビンは眠れるようになったとはいえ毎晩のように魘されるウタが心配だった。

いつもは少し魘されてすぐに良くなるのだが、今回は一番酷く魘されていた。


「あんなに魘されるの初めて見たわ」

「酷いの悪夢だったんでしょうね。私も幼い頃よくオハラの夢を見ていたからなんとなく気持ちは分かるけど、彼女にしたらそれ以上の悪夢だったのかも」

「そうね・・・」


13年人形の姿にされて親しい人たちからも忘れられる思いを彼女たちは分かってあげられないのが悔しかった。

戻ったばかりの時は触られるのですら怖がっていたのだから


「あたし心配だからちょっと見てくる」

「えぇ、私も行くわ」


2人はウタの後を追い部屋を出た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あぁー夜の見張りは暇だー」

「あいルフィ、ちゃんと見張りしろ」


サニー号のデッキにはルフィとサンジが見張りをしていた。


「サンジー腹減ったー飯作ってくれー」

「お前晩飯あんなに食ったのにまだ食うのか!ったくしょうがねぇなぁ。待ってろ余り物で簡単なの作るからそれ食ったらちゃんと見張りしろよ」

「おう!しっしっしっ」


ギィィ


サンジがキッチンに向かおうとした時、扉が開く音がして2人は扉の方を向いた。


「ん?」

「ウタちゃん?どうしたんだこんな夜更けに」


扉を開けて出てきたウタは何も言わずその場で立ち尽くしていた。


「ウタ?」

「っ!」


ルフィがウタの名前を呼ぶと走り出しルフィに抱き着き肩に顔を埋めた。


「お、おいウタ」

「‥ル‥フィ‥」


今にも消えそうな震えた声でルフィの名を呼ぶウタと、状況がわからず困惑するルフィ、それを静かに見守るサンジはただただ2人を見守っていた。

少しすると再び扉が開きナミとロビンがやってきた。

2人がルフィとウタを見ると少し安心した顔をした。


「ナミさん、ロビンちゃん、ウタちゃんどうしたんだ?」

「怖い夢を見たみたいなの、さっき酷く魘されてね」

「夜風を浴びてくるって出で行って心配だったけど、大丈夫そうね」


「ウタ、どうしたんだよ」

「‥ル‥フィ‥ル‥フィ‥」


ウタは何度もルフィの名前を呼んだ。

ルフィは何度も聞いてるうちにウタが泣いているのに気付いたがどうしていいかわからずにいた。


「ナミ、ロビン」

「ウタと一緒にいてあげて怖い夢みたみたいだから」

「見張りは私とナミが変わるから、ウタをお願い」

「だってよルフィ、早くウタちゃん連れてきな」


ルフィは一言「わかった」と言い、ウタを抱き上げて部屋へと向かった。


「人間に戻ったばかりだからなぁ。ウタちゃん大丈夫か」

「ルフィと一緒なら大丈夫でしょう」

「そうね、ちょっと悔しいけどあたしたちよりも安心するでしょう」


3人はウタをルフィに任せて見張りを続けた。

内心もう少しウタの力になれたらと思う3人だったが、ここは付き合いが一番長いルフィが適任だと思いウタを任せた。


「ナミさん、ロビンちゃん、何か温かい飲み物入れるよ」

「ありがとうサンジ君」

「えぇいただくわ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ルフィは一室についた、この部屋は前にウタが寝れないときにもルフィと一緒に寝ていたがさすがに男部屋はまずいと思いフランキーが新しく作った部屋だ。

部屋についたもののウタはルフィから離れることはなく肩に顔を埋めていた。


「おいウタ、なんかあったのか」

「‥‥ゆ‥‥み‥」

「へ?」

「‥ゆめ‥み‥た」

「夢?どんな夢だ」


顔を上げたウタがやっと絞り出した言葉にルフィは耳を傾けた。


「‥また‥に‥ぎょう‥に‥なって‥み‥んな‥が‥わた‥し‥を‥わすれ‥て‥とお‥くに‥い‥ちゃう‥だ‥れも‥わた‥し‥を‥み‥て‥く‥れ‥なく‥て‥」

「・・・」

「ル‥フィも‥シャン‥ク‥ス‥も‥わ‥たし‥を‥わす‥れ‥て‥き‥づ‥いて‥く‥れな‥くて‥わ‥たし‥ひ‥とり‥に‥なって‥」


ウタが見た夢は人間に戻ったばかりの彼女にとって再び地獄を見せるような内容だった。

泣きながら語る彼女の言葉をルフィは何も言わず聞いていた。


「ル‥フィ‥わた‥し‥また‥み‥ん‥なに‥わ‥す‥れら‥れ‥るの‥かな‥」

「そんなことね!」


静かに話を聞いていたルフィが声をあげた。

怒った悲しいような顔をして


「そんなこと2度とさせね!あんな思いをさせてたまるか!俺もお前を忘れたくねし、シャンクス達だってそうだ!もしそんなことしてくる奴がいたら俺たちが必ず守ってやる!」

「ルフィ‥」

「だから心配んなウタ、もう絶対にお前を忘れない」

「うん‥うわぁぁぁぁ」


安心しウタは泣きルフィは優しく抱き寄せた。

しばらくすると鳴き声も聞こえなくなった。


「もう大丈夫だな、ナミたちのとこ戻るか?」

「‥きょ‥は‥い‥しょに‥ねて‥ほしい‥」

「そっか、わかった」


ルフィは了承し2人でベットに横になった。


「ル‥フィ‥」

「ん?なんだ?」

「て‥にぎ‥て‥いい‥?」

「手?いいぞ」

「あ‥がと‥お‥やす‥みル‥フィ」

「おう。おやすみウタ」


ウタはルフィの手を離さないように両手で握り眠った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

また真っ暗な空間いた。

手を見てみるとやはり人形の手だった。


”やっぱり・・私はずっと人形のままなのかな・・”


私はその場に座り蹲った。


「ウタ」

”え?”


私を呼ぶ声がして後ろを向くと暗闇の中に光が見えそこにはみんなが立っていた。

皆私を見て待っている。


「ウタ、遅刻よ?また遅刻したら小遣い減らすわよ♪」

「ふふふ大変、ウタ早くいらっしゃい」


意地悪をいうナミとほほ笑むロビン。


「ウタ、部品がそろったからよ、俺とウソップでウタ専用のスーパ~な武器を作ってやるぜ」

「おうウタ、楽しみにしとけ」


私の武器を作ってくると意気込むウソップとフランキー。


「ウタ、体大丈夫か?いい薬が手に入ったから何かあったらすぐに言えよ」


私の体調を心配してくれるチョッパー


「ウ~タさん、さっきほど町で歌集を見つけましてね今夜デュエットでもいかがですか?ヨホホホ」

「ほぉウタとブルックの歌かそれは楽しみだのう」


デュエットに誘ってくれるブルックと楽しみにしてくれるジンベイ


「ウタちゃん、いい食材が手に入ったからいっぱいうまいもん作るからな」

「ウタさっさと行くぞ」


食事を楽しみにしてくれるサンジ君とそっけい態度のゾロ


「ウタ、みんな待ってる。行くぞ」


そう言って私に手を差し伸べてくれるルフィ

その手に伸ばした自分の手は人形の手ではなくなっていた。

ルフィが私の手をつかみ引っ張ると

暗闇は晴れ、青い空と白い雲、どこまでも広がる海、港に停まるサニー号が見えた。

皆が笑顔で待っていてくれる。

そしてルフィが握ってくれたこの手には、はっきりと温もりを感じる。


「早くいくぞ!ウタ!」

「うん!」


この手に感じる温もりが私に大丈夫だと伝えてくれる。

皆と一緒ならもう大丈夫。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この日を境にウタは悪夢を見ることがなくなった。

その後、体調も回復した彼女が麦わらの一味の歌姫として名をとどろかることになるのだが

それはまた別のお話。

Report Page