その愛の始まりは錯乱でしたか?

その愛の始まりは錯乱でしたか?



「それで、結果はどうだったんですか?」

「99.9%自分の子です。……生まれた子の顔を見た時点で、そうだと思っていましたが。」

「そういえば男の子でしたっけ、女の子でしたっけ?」

「女の子です。正直、女の子なら自分よりオモダカに似た方が良かったと思います。」

「まぁ、赤ん坊は成長するにつれて顔が変わるとも言いますからね。まだ生まれたばかりの今どうこう言うものではありませんよ。」

「ポピー、はやくあかちゃんみたいです! いつあえますか?」

「もう少しオモダカの体調が落ち着いてからですかね。おそらくそのうち連れて来ると思います」


始めは皆には記憶をなくしたということは言わないつもりだったが、自分達の状況を皆が不審に思わないはずもなく。四天王の3人を筆頭に一部の職員には詳しい状況を説明していた。初めて妊娠を告げられたあの日以降も何度か責任を取るとオモダカに訴えたが首を縦に振ってくれなかった、ということも含めて。

後から聞いた話だが、記憶を無くしたその一週間、リーグ本部で普通に夫婦のように振る舞うアオキとオモダカがちょこちょこ目撃されていたらしい。オモダカが他の人に記憶を失くしたことを言わぬよう言ったのはそのせいか、と納得しつつも記憶にない自分のやらかしに穴を掘って埋まりたくなる。流石に業務中は普通だったそうだが、仲良く連れ立って家に帰る姿やちょっとした日常生活について話す姿が目撃されて、一瞬でその噂は本部中を駆け巡りほぼ全員が知っている状態だったそうだ。流石にリーグ外にまでは流れていなかったようだが。


「そんな状況やったのにお腹の子がアオキさんの子でなければ誰の子なんやと思ってましたし。トップだって状況から理解はしてたんとちゃいます?」

「……失くしたと思っていた私物がいくつもオモダカの家にありましたし、多分自分よりは正確に状況を理解していたのだと思います。」


状況からするとどうやらあの一週間の間自分はオモダカの自宅に転がり込んでいたらしい。まぁ家の広さを考えればさもありなん。

それを知ったのも昨日届いたDNA鑑定の結果を見せに彼女の家に行った時が初めてだったが。


「そういえば、流石にトップも納得してくれたのですよね?」

「……ええ。まあ。渋々、といった風ではありましたが。」


そう言ってオモダカに記入してもらった婚姻届を見せる。

けれど状況証拠からどうにも否定出来なくなってようやく諦めて受け入れてくれた感が強いのだ。

記憶がないので絶対にアオキの子だと言い切れない恐ろしさは自分も理解出来るが。だが正直妊娠がわかった直後ならともかく産まれて少しした今になってやっと結婚しようとしていることで周囲からはかなり不審の目で見られている。アオキが責任逃れをしようとしたんじゃないかという噂ならまだいい。オモダカが他の男とも関係があって誰の子かわからなかったんじゃないか、と言う噂すら流れていた。そんな風に彼女を揶揄する声が聞こえて思わずその相手に訂正を要求していたらハッサクに「気持ちはわかりますがもう少し穏当に」と注意されたのはつい昨日のことだ。

そんな風に言われるだろうこと、あのオモダカが理解していないはずがないと思うのだが。それとも、自分と結婚するのがそんなに嫌だったのだろうか?

そんなことを考えていたら、ポピーが不満そうな声を上げる。


「むー……」

「ポピーちゃん、どないしたん?」

「アオキおじちゃんは、あかちゃんができたからけっこんするんですか?」

「え?」

「あかちゃんはおとーさんとおかーさんがあいしあってできるんだって、きいたんですの。おじちゃんもトップもおぼえてないのはわかりましたけど、いまはあいしあってないんですの?」

「……」


眉を寄せてそう言うポピーに返す言葉を失う。

改めて今までオモダカと今後の話をした時のことを考える。自分は彼女に何と言っていたのか。


「そう、ですね。責任を取る、としか自分は彼女に告げていない……ですね。」


世間体とか、周りの目とか。そんな話ばかりで。愛しているから結婚して欲しいとか、そんな言葉をかけたことはなかった。

思えば最初からオモダカは「貴方に望んでもいない婚姻を結ばせるつもりはない」と言っていたのではなかったか。

お腹の子が自分の子でもそうでなくても関係ない、自分が貴女と生きていくことを望んでいるのだと言っていたら。もしかしたらもっと早くに受け入れてくれたのだろうか?

いや、あの一週間の前から彼女を愛していたと断言出来るほどの情熱があったとは流石に言えないのだが。けれど、仕事のスタンスは一切わかり合えないとは思うが、それでも彼女を嫌いだと思ったことはなかった。

そもそも、今のこの状況について……面倒なことになったとか、逃げ出したいとか、適当に誤魔化せばいいとか。そんなことはちらりとも思い浮かばなかった。


長考に入ったアオキをチリとハッサクがどこか生温い目で見つめる。


「それだけじゃないなら、ちゃんと早うトップに伝えなきゃアカンやつやと思いますよ。」

「そうですね。ここで小生達に言う必要はないですが。誤解があるようなら早いうちに解いておくべきでしょう。」


そんな声を聞きながらも考え続ける。

自分はオモダカのことをどう思っているのか。責任を取るとはどういうことなのか。

今後、自分はオモダカと子供とどんな風に過ごして行きたいのか。


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