その後の話

その後の話






若木の新緑が青々と映え、花々が揺れる箱庭の園。

小鳥の囀りに包まれる楽園は、鳥籠のように巨大な柵で囲われている


ここは檻

哀れにもアブダクションに遭ってしまった若い才能達が、その人生を食い潰される場所


楽園の様に見える箱庭だが、ひとたび濃紺の支配者が訪れれば否が応でも身体を差し出さなければならなくなってしまう。

巨大な箱庭の中で、親しい友人と共に居る者。守りたい相手の側に居る者。既に壊れてしまった友人を世話する者。それぞれが別の場所に散らばり、陵辱の恐怖に震えている。


今日もまた、一人の異星人が楽園へと侵入して来た。

濃紺の生命体は楽園をズカズカと横切り、若き才能達の恐怖と怨念の入り混じる視線の中を悠々と歩く。

この異星人の目的は決まっている


「······あ、今日はアンタなんだ」


チャリ、と札の様な耳飾りを揺らして、紫色の青年が宇宙人へと微笑む。

彼の名は玲王

一定数の異星人から、『花嫁』と呼ばれている苗床だ


とん、と軽く地面を蹴り、宇宙人へと近付いた玲王は、小首を傾げながら宇宙人の首元に両腕を回す


「じゃあ、俺に元気な赤ちゃん頂戴」


期待と欲に染まった瞳は、光を一つも映していない




箱庭の園は宇宙船の中にあり、透明な天井からはあらゆる星々を眺める事が出来る。

本来の彼ならば地球に居ては決して見る事の出来ない恒星や惑星に興味を持っただろうが、今の玲王は異星人からもたらされる快楽と仔にしか関心を示さなかった。

そういう生き物になるように、脳と記憶を改竄されている。


半生の記憶を無くしてもなお、玲王は他人を喜ばせる術を知っていた。

どう喘げば歓び、どう微笑めば目を惹き、どう言葉を掛ければ思い通りに動くのか。

それらをほぼ本能的に理解していた玲王は、人形となってからも···いや、性への躊躇いが消えたからこそ、複数の異星人をすっかりと虜にしてしまっていたのだ。

もっとも、玲王はその魔性をほぼ無意識に発揮していたので、玲王からすれば、彼らは自然と己を好いてくれただけの

"旦那様"である


小高い丘の上で交じり合う異星人と玲王

熱り立った肉棒をぐっぽりと咥え込み、調教され切った後孔は快感の喜びに打ち震える。

乱れた意中の『花嫁』の姿に興奮したのか、濃紺の異星人はさらに肉棒を熱く膨らませ、玲王の最奥を貫いていく。


園の真ん中で行われる性行為は、勿論仔を作る目的があるのだが、もう一つ。見せしめという役割を果たしていた。


玲王は唯一、異星人を破壊し傷付け、不意をついて反逆した地球人だ。

故に彼だけ、元あった人格を無残にも粉砕され、性でしか喜びを見出だせない哀れな肉人形へと変貌させられてしまっていた。


こうなりたくなければ、お前らは大人しくしていろよ?と、言外にそう伝えているのである


異星人としても、人格を破壊するのは最終手段。大抵の場合、半生を失った者は廃人と同様になって長く保たずに死んでしまう


玲王の様にしっかりとした意識を持ち、活発に行動する肉人形は本当に稀なのだ


よって、殆どの場合は箱庭の園から連れ出されて各部屋で行われる種付けは、玲王だけ五分の確率で箱庭の中で行われてしまう


『花嫁』との子作りは異星人達の希望がめっぽう多く、産んでは作り、産んでは作りをほぼ休みなく繰り返している。

流石にこれが続くと苗床が枯れてしまう可能性があるため、『花嫁』には絶対に陵辱されない休息日が設けられていた。

そういう色々な要因が重なり、『花嫁』と子を作るには予約が必須となってしまっているのである。玲王の耳飾りは、要は図書室の本に付けてある貸し出しカードと同じ様な役割を担っていた。


『花嫁』の中に精の限りをぶちまけ、確実に孕んだ事を確認した後、異星人は玲王の耳飾りに触れる。ピピ、と生体認証の音が鳴った。予約が完了した音である。

こうする事で、再び『花嫁』との子を絶対に作れるようになるのだ。


恍惚とした表情を浮かべ、腹を擦りながら視線を漂わせる『花嫁』の頬を異星人が撫でる。

『花嫁』はふわりと微笑み、上半身を起こすと、異星人に軽いキスを贈った


「産まれたら、ちゃんと大事にしろよ」



満足して去っていく異星人。その背中を眺める玲王。

彼に向けられる数多の同情の視線は、彼に届く事は無かった。

なにせ、今の玲王は幸せなのだから。


気持ちよくて、自分の遺伝子まで残せる。それの何が不満なのだろう。

玲王にしてみれば、陵辱を恐れ忌み嫌う、かつての仲間達の方が理解の出来ない生き物だった。


鼻唄を歌いながら愛しげに腹を擦る玲王




遠く、木漏れ日の下で

真白い青年が、玲王をじっと見つめていた


Report Page