その呪いの名前は

その呪いの名前は



「艦長あいつらが帰ってきました!」


プラント・クエタに帰還するとカシュタンカの艦長とその同僚たちが一斉に集まる。


「ただいまです!」「艦長、ただいま戻り…おわっ」


「このーー!!」「心配かけさせやがって!」「若いのが抜けたら仕事まわんねえよ…。」

揉みくちゃになるほどの男性たちが押し寄せた。


「失敬、お話…

よろしいかな?」

その空気を一言で現実に戻したのは大柄の黒い服の部隊を率いる男だった。

―――

夢だったであろうドミニコスにこんな形で出会うことになるのには皮肉としか言えない。


「グエル・ジェタークだな、お悔やみを申す…なんて言うのは嫌味でしかないな。


しばらく話を聞かせてもらう。」


「…はい。」


「先輩。」呼び掛けてからまっすぐに言う「“呪い”を忘れないてなくださいね。僕からは…」


表情の固いシャム・スレッタはぐしゃぐしゃになるほど髪を乱された「な、なんです!?」

そう言って困惑した彼女の手には半壊した小さい箱と写真が持たされていた。


「…?」

「その壊れかけはお前にやる。襲撃で片方しか残らなかったから気に入らんなら捨てても構わん。」

「え…。」

「写真は大事なものなんだ、どこかで保管しててくれ。」


髪で乱されたシャムからは表情の見えないグエルは「お前からは逃げられないんだろ?逃げねえよ舐めんな。」

精一杯の虚勢を残してドミニコスに連れて行かれてしまった。


「………」

遠くから見守っていたスレッタはシャムに駆け寄り「だ、大丈夫?」と声をかけた。


「…少し疲れちゃったのかな、ちょっと眠い。」

「えっ?いいよ、寝てて!

そばで護衛する、から…。」言いきる前に妹にあたる彼女が既に寝ていることに気付く。

スレッタは寝落ちする前に裾を掴んでいたシャムの手に気付きそっと手を繋ぐのだった。


―――


「現状ですが、脳に負担があったのか一部の脳神経が不自由になりますね。

特に足を動かすことが困難な様子です。」

「え…と、それって?」

淡々と医師は話をする。

それをスレッタは半分理解しながらも聞いていた。その話をそばで聞いているミオリネは「彼女、車椅子で生活することになりますか?」そう聞いて医師は肯定した。


「車椅子で生活することになるのも視野に入れてください。」

「…車椅子…。」


「奇跡と言えます、普通ならこの身体で足のみ動かせないことはあり得ないですね。」


―――

「足…?」

「動かないらしいわ。これから悪化する可能性もあるけれど。」

ミオリネはスレッタでは説明がしづらいものと判断して本人に医師からの話を噛み砕いて伝える。

花婿と瓜二つな初めて見るその顔に驚きながらも、あえて気にしない素振りで接した。

「それ本当ですか?」

「医師によればね。」

「本当…なんですね、足で済んだだなんて…死ななくていいんだ…あの子のおかげだ…。」

「………あんた…

ああもう名前なんて言うの?」

「な、ないです。シャム・スレッタ…くらいで自分で勝手にシャムって名乗って…。」


「そう、それじゃあ…スレッタ妹、GUND技術についてどこまで知ってるの?」


「ええと…技術については理解しきれてないです。

パーメットリンクのことなら大体は知ってますが…。」 


「それでは、貴女を株式会社ガンダムの私の補佐の1人にスカウトします。

ガンダムのことについてもっと聞きたい。」


「えっ!?」

「もちろん断っても構わない。

それにこれは同情でもないし慈善活動でもないから、気性の激しい人材だったらクビにするから。

アンタがアスティカシアで散々暴れまわったのはしってるんだから。」


「あ、あの時は本当に…申し訳ありませんでした!」


「まぁ…ゆっくり考えなさいよ。

でも、もしウチに来るなら、その抽象的な名前もなんとかしなきゃね。」

「はい…。」

シャム・スレッタは心のどこかで(こんなに幸せでいいんだろうか)と納得いかない自分の心が戸惑っていた。


エアリアル・ダムドはあれ以来停止してしまった。

今の命はきっと、ダムドの中にいた彼女により、命は繋がれたものだろう。

そのこを実感しながらも、彼女には名前がなかった。「エアリアル・ダムド」「ダムド」以外に呼ぶことはできなかったのか…。




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