その名を呼んで
両片想いで致命傷の娘ちゃんパターン2見知った金の髪が倒れ伏しているのを見て、雨竜は自分の心拍が逸るのを感じた。
急いで駆け寄りその身を抱き起こす。
「……撫子さん……?」
「…………ぁ……? うりゅ、う……?」
酷い、傷だ。
まだ生きているのが不思議な程の傷だった。
「っ井上さんは……井上さんはどこに……いや……」
——完全反立なら、僕が撫子さんの傷を引き受けられるはずだ——!
雨竜は聖文字の力を使おうとして、
ぺちり、と雨竜の頬に力無く撫子の手が当たった。
「なに、しようと、しとんの」
「……」
「むちゃ、するつもり……やろ……?」
未だに頬に添えられている撫子の手を取る。
「そうでもしないと、君が——」
ザリ、と地面を踏む音を耳に拾った。
雨竜は音の方向へ視線を向ける。
「! ——藍染、惣右介……!」
大罪人、藍染惣右介。
撫子の実の父親でありながら、彼女を苦しめた男。
雨竜は護るように撫子を抱え込む。
しかし藍染は気にせず、雨竜と撫子の前に跪いた。
「……回道を掛ける」
「何……?」
「石田雨竜。君は平子撫子を失いたくはないだろう」
「……」
雨竜は少し考えた後、藍染が回道を掛けやすいように、そっと撫子を横たえる。
「井上織姫がこちらに来るまで持たせる」
藍染が回道を掛け始める。雨竜は撫子の手を握った。撫子の意識はぎりぎりの所で繋ぎ止められている。
「撫子さん、なでしこさん……」
どうかこの人を連れて行かないで欲しい。
祈るように名前を呼ぶ。井上織姫を黒崎一護が連れて来るまで、雨竜は撫子の手を握り、名を呼び続けた。