そして彼は大人になる……あれ、なって…る?

そして彼は大人になる……あれ、なって…る?

鉄華団おいしーなタウン支部

~深夜・四葉財閥傘下の病院内~

拓海「………」 そわそわ…

ゆい「拓海、落ち着きなよ」 そわそわ…

ましろ「ゆいちゃんこそ…」 そわそわ…

あん「大丈夫よ、みんな。きっと上手くいくわ。」


ソラちゃんの懐妊報告を受けて拓海とソラちゃんが付き合い始めてから

10ヶ月近く経った。

今日の夕方頃、ソラちゃんの陣痛が始まったため

急いで四葉財閥傘下の病院に向かった。

…ソラちゃんは異世界・スカイランドの人間だから

普通の病院に通院させることは出来ない。

だから、同じプリキュア仲間の四葉ありすちゃんの力を借りて

色々融通の効くこの病院にお世話になることになった。

(ちなみにヨヨさんも何かあった時、この病院を頼っているとのこと。)

…今、目の前の扉一枚を隔ててソラちゃんが新しい命を

この世界に迎えいれるため必死に頑張っている。


拓海「ソラ…ソラ…」

ゆい「拓海…

   ソラちゃんを信じよう?」

拓海「でも…スカイランド人にはこっちの麻酔が効かないって話聞いたし…」

ましろ「だ、大丈夫だよ拓海先輩!?

    ソラちゃん、みんなより丈夫な身体しているし…きっと…!」

…ここまで狼狽える拓海を見るのは初めてかもしれない。

それだけソラちゃんが

拓海の中で凄く大きく、大切な存在になってしまったんだろう。

…拓海は以前、あたしにこんな不安を打ち明けた。

拓海「俺、本当にソラが好きなんだろうか…?

   もしかしたら、ただの独占欲なんじゃないかな…?

   ソラと離れたくない、誰にも渡したくない、っていう…

   物凄い手前勝手で…最低な…ただの我儘…」

…あの時はどう答えればいいか分からなかったから

適当なおばあちゃんの言葉で誤魔化したけど…

ソラちゃんを本気で心配する今の拓海を見て確信を持って言える。


…拓海はソラちゃんが本当に好き…大好きになったんだ。

多分、あたし以上にずっと大好きで…大切な人に。


…正直、かなり悔しい。

あたしはずっと拓海の傍にいたのに…

ソラちゃんは拓海と出会って1年も経たない内に拓海の心を掴み取った。

もちろん、ソラちゃんが拓海を振り向かせようと死に物狂いで

アタックしていたことも

あたし自身の『無自覚な甘さ』がその結果を招いたことも分かっている。

分かってるけど…やっぱり悔しいものは悔しい。


でも…それでもソラちゃんはあたしの友達だ。

2人の仲を祝福したい気持ちはちゃんとあるし…

今、ソラちゃんの身を案じているあたしの気持ちも本物だ。

ゆい(お願い、神様…おばあちゃん…

   どうか…拓海の子を…ソラちゃんを…!)


ソラ「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


突如静寂を破るソラちゃんの絶叫。

…いよいよなんだ……


ソラ「い…ぎぃぃぃぃぃぃぃ……!?」


ましろ「あわわ…

    ソラちゃん……ソラちゃん……!」

両手を祈るように合わせ、ソラちゃんの無事を願うましろちゃん。

拓海「ソ…ラ…ぁ……

   ……………………………………………」←【気絶】

あん「…って、たっくん!?

   やだこの子、気絶してる!?」

ゆい「えええぇぇっ!?

   拓海ぃ!?しっかりしなよ!?」

心配なのは分かるけど…心配し過ぎで気絶って…!?

あまね「すまない、遅れた…って品田!?」

マリちゃん「拓海君!?」

らん「はにゃぁ!?拓海先輩、何があったの!?」


ソラ「ぎぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!?」


ここね「ひっ!?す、凄い声…!?」

ツバサ「ソラさん…!?

    ……えと、これ本当に大丈夫なんですか!?」

あげは「大丈夫…だと思いたいけど…」


ソラ「ぬぎぎぎぎぎぃぃぃぃっ……!?」


のどか「ふわぁ!?」

ひなた「め…めっちゃ苦しそうな声…」

ちゆ「お、落ち着いて…落ち着こうみんな!?」 あたふた…

アスミ「ちゆが一番落ち着くべきだと思いますが…」


ソラ「ぐぎいぃぃぃぃぃぃぃぃっ………………!?」


ローラ「うわぁ…」

えりか「おーい、しなだん!」

いつき「寝てる場合じゃないよ!」

つぼみ「目を覚ましてください!」

ゆり「拓海君、しっかりしなさい!

   …『お父さん』になるんでしょ!?」

はな「い、いよいよだね…!」

さあや「うん…!」

ほまれ「………っ!」

ルールー「…聞こえる声の大きさが若干小さくなり始めてます。」

えみる「きっともうすぐなのです!」

ハリー「気張れぇ…」

はぐたん「はぎゅ!」


集まって来たみんな全員固唾を飲んでその瞬間を待つ。

そして…目の前の扉が静かに開く…!


医者「…無事、出産しました。

   ………元気な女の子です。」

その場にいた全員、ホッと胸をなでおろした。

良かった…

…ソラちゃん…拓海…!


………なお、拓海は気絶したままだった。


ソラ「この子は『そらみ』…

   拓海さんの『海』とわたしの名前『ソラ(空)』をとって

  『空海(そらみ)』…

  …ずっと前から……

   拓海さんと正式にお付き合いするより以前から考えていた名前です。」

ソラちゃんは生まれたばかりの子を愛おしそうに見つめてそう告げた。

ソラちゃん、拓海と付き合う前から子供の名前考えていたとか…

……少し重くない?

まぁ、それは置いといて…

おめでとう、初めまして そらみちゃん。

美味しい笑顔が溢れるこの世界、あなたも気に入ってくれると嬉しいな…


……


拓海「あぁぁぁ…情けない…

   気絶して子供の誕生の瞬間に立ち会うことが出来なかったなんて…」

ゆい「まぁまぁ拓海、そう落ち込まない。

   …はい、おむすび。」

拓海「…………あ、ありがとう…ゆい。

   ………いただきます……(もぐもぐ)」

ゆい「……」

拓海が目を覚ましたのはソラちゃんの出産が終わってから大分経った後。

他のみんなはもう既に帰ったあとだった。

あたしは、拓海が起きるまでずっと傍に寄り添っていた。

拓海「ごちそうさまでした。」

ゆい「うん、お粗末様でした。」

拓海はあたしの差し出した おむすびを食べ終える。

…こころなしか落ち着きを取り戻したようにみえる。

拓海「…ゆい。」

ゆい「うん。」

拓海「俺…『お父さん』になっちまった…本当の。」

ゆい「そうだね。」

拓海「…出来るかな、俺?」

ゆい「出来るよ………多分。」

拓海「多分なのか…?」

ゆい「多分だよ。」

拓海は「はぁ…」とため息をつく。

拓海「娘の誕生だってのにしょっぱなから情けないな俺…

   先行き不安だ…」

ゆい「気にしない気にしない、

   拓海が情けないのは今に始まったことじゃないよ?」

拓海「おい。」

ゆい「事実だもん♪」

拓海「たく…ホントお前は…」

呆れ笑いを浮かべる拓海。

…ほんのちょっとだけいつもの調子を取り戻したみたい。

拓海「…明日から大忙しだな……色々。」

ゆい「だね。」

拓海「役所手続き関連はちと頭痛いな…

   ソラは異世界人だから偽造の上にさらに偽造を重ねなきゃいけないし…」

ゆい「なんか悪いことしてる気分するよね?」

拓海「そんなつもりは一切ないのにな。」


ゆい「……ねぇ拓海?」

拓海「なんだ?」

ゆい「今、どんな気持ち?

   子供が生まれて…嬉しい?」

拓海「………………正直言うと……嬉しい。」

ゆい「そっか。」

拓海「………」

ゆい「………」

拓海「…ゆい。」

ゆい「なに?」

拓海「………ありがとう。」

ゆい「うん。」


「ありがとう」…拓海のその一言を聞いて何故か…泣きたくなった。

でも…あたしは泣くのを我慢した。

ここで泣いたら…甘えてしまいそうになる。

もう拓海はみんなの中で誰よりも早く『大人』にならなきゃいけないんだ。

あたしの子供じみた未練に付き合せちゃいけない…!


ゆい「拓海…」

拓海「ゆい…」

ゆい「………『お父さん』、

   大変だろうけど…頑張ってね!」

あたしは笑顔で『大人』になる拓海を見送ることにした…。


……


数年後…

ゆい「え?そらみちゃん…また家出?」

そらみ「はい。…またお世話になります、

    ゆいお姉さん…」

またか…と、正直思ってしまった…。

拓海とソラちゃんのラブラブっぷりは

結婚してから数年経った今でも新婚当初同様…

いや、それ以上に所かまわずイチャイチャしまくっている。


拓海『ソラ…愛してるよ…♡』

ソラ『拓海さん…わたしも…大好きです…♡』

イチャイチャ…♡


門平さんとあんさんの息子だけあって

一度タガの外れた拓海は嫁さんLOVEを隠そうとすらしない。

ソラちゃんもそんな拓海にあてられて

旦那さんLOVEの色ボケ奥さんに変貌してしまった…

そんな色ボケ両親に辟易したそらみちゃんが

あたしの家やましろちゃんの家にプチ家出するのが

もはやほんの数日単位で来る恒例行事と化してしまった。

そらみ「あのバカ両親、毎日毎日ところ構わずイチャイチャと…!

    辟易します!

    節度を学んでほしいですよ、いい加減!?」

ゆい「う、うん…そうだね…」

プンプンっと怒りながらこちらの用意したお茶菓子を頬張るそらみちゃん。

ゆい(これじゃあ娘のそらみちゃんと拓海達…

   どっちが大人かわかったもんじゃないね…)

と、呆れるあたしであった……

Report Page