そういうプレイ

そういうプレイ


普通にアオスグがイチャイチャしてる内容になりました




「明日はハロウィンでしょ?だから二人でコスプレしたいな!

 予行練習としてスグリはこれを着てね。わたしは別のを着るから後ろ向いてて」


手渡された衣装が何なのかと考えようとした側からアオイが眼前で脱ぎはじめる。

目に入れた瞬間に急いで背を向けたけれど、彼女は見られたことに悲鳴を上げることもなく衣擦れの音だけが静かに部屋に響いていた。

自室の中で二人きりというロマンチックな状況だというのに、

好きな女の子と二人きりという状況だというのに、苛立ちが収まらない。

普通、このぐらいの年頃なら異性の眼の前で着替え始めるとかあり得ない。

自分が女性だったとして、相手が好きでない男であるならありえないし、

好きな男であるとするならばもっともっと有り得ないことだと思う。

つまり、脈なし。

完璧に男として見られていない。

この胸の心拍数の増加がただ一方的でこじらせた思いであることに怒りすら湧く。

何度経験しても慣れない、成就することのない片思いに憎しみすら湧いて出る。

胸のドキドキが胸のムカムカにかわり、そして口からは大きなため息が出た。


諦めて手渡された衣装に目を落とす。

真っ黒でつやつやでぶかぶかで厚手のファーコート。

コスプレだと言っていたからには何か元ネタがあるはず。

畳まれた衣装を広げて眺めてみるが、いまいち何がモチーフなのかわからない。

見覚えはあるような気がする。

結構頻繁に見た記憶があるような気がするけれど、答えが喉元から出てこない。


「もーはやく着てよ!わたしはもう着替え終わっちゃったよ~

 あ、まだ振り向いちゃ駄目だからね?着替えたら振り向いてね!」

「はいはい…」


好きな女の子の前で流石に下着姿になるわけにもいかない。

ましてや背を向けてくれるとか、そういう配慮もしてくれていない。

いつものぶかぶかの制服の上から、それ以上に大きな衣装に袖を通す。

袖の先に抜け道はなく、獣の前肢に見立てた真っ黒な手袋に繋がっていた。

両手を通してから気づく。

この手ではうまく前を閉めることが出来ない。

小さな金具を掴むことすらままならず、思い通りにならない苛立ちが蓄積される。

ムカムカする。

とってもイライラする。

感情が高ぶって制御できなくなりそうで頭がひどく軋む。

また強い言葉で彼女を傷つけてしまいそうになるのを堪えて、諦める。

こんな不利な手袋で物事に取り組むことが馬鹿らしい。

なにか困ったことがあるなら他人に頼れば良い、ちょうど近くに他人がいる。


「ねえ、アオイ。この手じゃ無理だから前閉めて――――」


「ん。わかった!」


振り返るとそこにはとびっきりに可愛いオオタチがいた。

正確にはオオタチっぽいカチューシャをつけて、オオタチみたいな大きな尻尾をつけた可愛い可愛いアオイがいた。

呆けたように口を開けて見つめてしまう。

正直可愛すぎる。似合いすぎる。良さみが有りえんくてわやじゃ。

春も夏も秋も夜もアオイが良い。

後世まで語り継がねばならない、あとで日記に何度でも書き記したい。

そんな可愛らしいアオイもやっぱり手袋をつけているから小さなスライダーを掴むことにあくせく苦闘している。

足元で。

前かがみになって。


「よーし、つまめた!上まであげるよ~」


ジジジ…とファスナーが閉まる音の上昇とともに、アオイの顔も近づいてくる。

ばくばくの心臓の音が小さな音をかき消して頭の中がぐちゃぐちゃになる。


「やっぱ似合うと思ったんだ~グラエナの衣装。

 普段白い服着てるから余計に黒が似合うね。わたしの目に狂いはなかった!」


グラエナ。

そうか、おれはグラエナだったのか。

じゃあ目の前にいる可愛いオオタチを襲ってしまいたいとか考えるのもそのせいだ。

何考えてるんだ馬鹿!そんなことしちゃいけないだろ!?

でも好きだから仕方がないじゃん!

それに考えてもみてよ、どうしてグラエナとオオタチを選んだのか。

おれがグラエナが似合う、そこまではいい。じゃあ何でアオイはオオタチなのか。

正直めちゃくちゃ世界一オオタチが似合う女の子だと思うけれど!

別にグラエナ同士のコスプレでも良かったじゃん!お揃いでよかったじゃん!?

だからここに何か意図があるに違いない。邪な意図がきっとあるに違いない!

これは挑戦状だ。

最初から肉球付き手袋を顔面にぺちぺち投げつけられているんだ。

だから―――だから、だからだからこの手を伸ばしてしまうのもおれは悪くない!

不意打ちで体を抱き寄せてそのままそばにある布団の上に押し倒してしまうのもそのまま抱きついてしまうのもそれから、世界がぐるりと回転してそのまま手を抑えられて上に乗られて息が苦しくなるのも――――

あれ?


「腕力ならアオイに勝てるんだ……

 ――――なーんて浅はかな考えでわたしを襲おうとするなんてスグリは可愛いね。

 わたし、全力疾走や崖登り、高所から滑空するコライドンに掴まってられるんだよ?

 テラスタルさせる時にテラスタルオーブを片手で支えられるんだよ?

 スグリごときの力でわたしに敵うわけないじゃん」


一瞬で天地がひっくり返されて、布団に押し倒されていたのは最初から自分の方だったみたいになっている。

胸の上に乗っかられて上手く呼吸が出来なくて、何が起こったのか理解できない。

どかそうと手を伸ばそうとしても小さな細い片腕でそれぞれを布団に押し付けられたらちっとも動かせない。

自分は男の子だから、女の子には絶対に負けないと信じていたのに、

無邪気に思い描いていた一方的で背徳的な蹂躙は最初から夢幻だった。

ここにあるのは自分より小さな女の子に一方的に組み伏される弱い自分だけ。


どこまで、この子はおれを惨めな気持ちにさせれば気が済むのだろう?

信じてきたものを何もかもをアオイに壊されてしまって、

おれにはもう何も残っていない。


「くそっ……!くそぉ……!!」


あの時みたいに涙が出る。

覆い隠したいのに腕も身体も動かせなくて、ただただ惨めな姿を晒している。

何も得られなかった。

何も出来なかった。

何もかも、手に入れることすらできないまま終わったんだ。


「女の子を襲うなんて犯罪だよ?

 ゼイユに言いつけたらすっごく怒られちゃうよ?

 ブライア先生に言いつけたら、もう学園に居られないね。

 だから悪い子にはお仕置きしないとねぇ」


「っばかに、するなぁ!馬鹿にして楽しいのか!?

 こんなに馬鹿にされて、おれは、お前のことなんか――――」


好きじゃない、という言葉が詰まって出てこない。

こんなに惨めな思いをしても嫌いになれない。

目を閉じて頭を振っても逃れられないけれど、それでも好きだ。

――――そうだ、何もかも失ったけれど。

信じてきたものは何もかもアオイに壊されてしまったけれど、

アオイが好きだという気持ちだけは残っている。


「わたしのことなんか、なぁに?もうスグリはわたしのものだよ♥️」


その気持ちに都合よく応えるかのように、アオイが甘く囁いた。

胸の上の圧迫感が解かれたのも束の間に、少し浮いた首元で金属音がする。

アオイの言葉が終わるのと同時に、それが引っ張られて首を緩やかに締める。


「どっちが上なのか決めときたかったんだよね。

 別にどっちでもよかったけど、スグリってちっともわたしの気持ちに気づいてくれないんだもん。

 やーっと、やーっと行動してくれて嬉しかった♥️でも遅いからお仕置きね♥️」


苦しさに目を見開くと、眼前に恍惚な笑みを浮かべた少女の顔が迫っている。

馬鹿な頭が状況の意味を理解する前に、口づけという形で現実を思い知らされた。


「―――ぐぅ……っ……」


強く引っ張られる首輪の力は緩まない。

息の抜ける先が開放されることもない。

早く終わってくれないとこのまま死んでしまうかもしれないほどに苦しいのに、

終わってほしくないと願ってしまう。

酸素の行き渡らない脳みそが壊れて本格的に馬鹿になったみたいだ。

最初から馬鹿だったけれど、どうしようもないぐらいにばかになってしまった。

ばかになってもすきなきもちはかわらない。

しあわせだからこのまましんでしまってもかまわない。


「――――っはぁ、はあ、げほっ!」


「ぷはぁ、よーしよし、頑張ったね~よしよし♥️」


苦しみから開放されて泣きそうなぐらい嬉しくて、自分の頭を撫でて頑張って耐えたことを慰めてくれるなんてこれ以上好きになったらどうなってしまうのだろう。

けれど嬉しかったお仕置きがもう終わってしまったからこれ以上幸せになることは出来なくてこれからおれはどう生きていけば良いのだろうか。

本当の幸福を知ってしまってはアオイなしでは生きていくことなんかできるはずもない。

永遠に続いてほしい。続けてほしい。続きがほしい。

浅ましく懇願して泣き叫びたいほどにアオイが好きだ。

たったのキスをしただけで涙と鼻水で汚い顔になっちゃうぐらい好き。

好きで好きでこの気持ちは止められない。


「……おれは、アオイのことが……好き、です。好きだから続きを、ください……」


完全な敗北宣言をした。

世界一惨めで幸せな負けを認めた。


「続きがしたいの?スグリは変態さんだなぁ。

 悪い変態さんにはお仕置きをもっとしないといけないよね♥️

 だから本番は明日までおあずけね。

 明日まであと6時間、頑張って耐えないとしてあげない」



負けを認めた先に待っていたのは今までの何よりも苛烈で一方的な蹂躙だった。

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