すべての歌を愛する者へ

 すべての歌を愛する者へ


「『ソウルキング』ブルックー‼」


「ヨホホホ‼みんな―‼盛り上がってるかぁー!?」


ブルックは観客に元気よく語り掛ける。

ソウルキングの登場を予想だにしていない観客の反応は想像に難くない。

何故ならば数年前完全に引退したと思われていたあのソウルキングが世界的歌姫ウタのライブにいるのだから。


「ねぇ父様!!なんでブルックおじちゃんはステージにいるの!?」


クウからしたら自分にフルートを教えてくれた優しいブルックおじちゃんが何故世界的な歌姫と一緒にいるのかがわからなかった。

それもそのはずだ。彼女はブルックが世界的に有名だったミュージシャンだったことを知らない。産まれてすらいなかったのだから。


「ブルックは昔ソウルキングって有名な奴だったんだ‼おれも今回初めて聞くんだ‼」


そう言うとルフィは自分の腕の中にクウを抱きかかえて座り、胡坐の空いている部分に彼女をスポッと入れた。

クウは父の方を上目遣いで見る。ニコニコしてる父の顔はそれはもう太陽みたいだ。思わず手を伸ばして触るとシシシシと笑い頭を撫でてくれる。それがとても嬉しい。ハンコックもホムラを抱えたまま夫の右隣に座りクウを撫でる。

特別な場所ではあるものの二人の素敵な両親に愛情を注いでもらえるのは子供にとってはうれしいものなのだ。

胸にポカポカしたものを抱えながらクウはステージの方を再度向いた。

父は母の腰に手を回し母もまたそれと同じことを父にしつつ娘と同じようにステージを見る。

ブルックはナミやロビンにやる恒例のパンツのやり取りをウタにやって彼女は困惑していたが『偶然』にも雷が落ちたみたいで何とかすんだ。

ウタは目の前で何が起こったかわからない困惑した表情をブルックに向けている。

とはいえギターのチューニング自体は済んだのだ。少しの談笑を挟み2人の最高のデュエットが始ろうとしていた


「やっぱりウタさんの初めてのライブには『アレ』ですよね‼」


「ああ‼『アレ』ね‼それじゃあ皆‼ソウルキングを知ってる人も知らない人も楽しみながら聞いてね!!」

うち合わせたような感じのぎこちなさが会場に笑いをもたらした後二人が声を揃えて叫ぶ


「「『NEW WORLD』!!」」


そう言うと軽快なリズムと陽気な音色が鮫形のギターから奏でられる。

ソウルキングの解散ライブで流れたこの曲はルフィと麦わらの一味に当てた曲だ。

歌詞こそ変わらないものの彼女の初ライブのために捧げられる。

2人の声は個性がかなり強く本来ならば相容れないものだと思われていた。

しかし彼女の歌声と彼の歌声の波長は満足な練習もしていないにも関わらず溶け合っていた。

それぞれの個性を殺さず逆にそれぞれを際立たせるような歌い方でそれに続いて包み込むようなバックコーラス、、バックのアニマルバンドも見事に2人に合わせる。


いつものような優しいブルックおじちゃんとは違う。

カッコよくギターを奏で大勢の前で歌うブルックは幼いクウにとっても新鮮であり、一味にとっては『ソウルキング』としての彼を見るのは初めてだ。

しかし初めて聞くにしては妙に懐かしさを感じられた。それは彼が一味にとって身近であるからかもしれない。

ブルックとウタが「For the New World」と歌い同時に会場に向けてマイクをかざすと会場のファンの皆もそれに答えて復唱する。

もともと彼のファンであったものも、そうでなかったものも関係なく皆往々にして嬉々として答える。

ルフィ達もそれに参加する。歌い方はそれぞれだ。ルフィやクウのように元気よく歌う者、静かに口ずさむ者と様々だが皆とても楽しそうに口ずさむ

皆が幸せになれる『新時代』ウタは観客の楽しんでる姿を見て、いつかはこれが叶うのではと悟る。

そうだ。音楽は人を幸せにするのだと。

ブルックの終盤のソロパートが突入しても観客の皆の復唱は止まらない。この楽しい空間が終わらないように、紡ぐように、皆笑顔を浮かべて歌った。

そうして盛り上がったまま曲は終了し、ブルックとウタは大きく会場の観客たちに向けてお辞儀をする。

歓声や称賛の声、ブルックの名を呼ぶものや指笛を吹くもの等様々であるが皆彼女らの最高のデュエットに心から称賛の意を送った。

そしてブルックがルフィ達のいる升席に戻るとクウが真っ先に駆け寄ってきた。


「ブルックおじちゃん!!最高だった!!」


彼女が曇りのない晴天のような笑顔でそう言うと足元を抱きしめてくれた。ブルックはヨホホホホといつもの調子で笑うと目線を合わせて感謝の意を伝えた


「まだまだライブは続きますからね‼楽しんでくださいねクウさん!!」


「うん!!楽しむ!!」


少し涙腺に来てしまったようだ。目元から涙がこぼれる。


ブルック「ま 私 目無いんですけど。」



一緒に歌ってくれたソウルキングに笑顔で感謝を伝えると次に流す曲をウタは教えてくれた。


「みんなー!!次はこの曲だよ~!!歌える人は一緒に歌ってね!!」


会場に伝えるとピアノのメロディが流れ出す。

このメロディは!!ライブにいたルフィ達やローやキッド、シャンクスもどうやら気付いたようだ。他に参加してる観客の海賊も顔を合わせ笑顔を浮かべる。

みんな大好き海賊の歌だ。


「ヨホホホ~♪ヨホホホ~♪ヨホホホ~♪ヨホホホ~♪」


歌声に合わせて同時に会場中も合わせて歌う。

ルフィやウソップ達は肩を組みベポはローとキラーはキッドとシャンクスはベックと皆それぞれ肩を組み、歌う。中には足でリズムをとる者や手拍子をするもの等それぞれが違う形でリズムをとっていた。


『ビンクスの酒』は海賊の歌だ。しかし歌には罪は無い。歌うのはすべての人に平等だ。この会場を治外法権のようにしたのはそのためだ。立場身分関係なく歌を楽しんで欲しいからだ。


なのでここでは身分も種族も関係ない。

隣が知らぬものでもみな肩を組み楽しんで歌う。

これがライブでしか出来ないのが残念だが今はこれでいい。

いつか誰もが立場関係なく歌を楽しんで欲しい。心からウタはそう思う。


あるものはかつて所属していた海賊団の思い出を、あるものは友や船員との約束・孤独な50年から解放されたあの日を、あるものは影をとられた後の宴を、みなそれぞれの思い出を胸に抱き歌う。


これからの海の冒険に想いを馳せながら


その歌が終わると今度は陽気な雰囲気とは全く逆の曲が繰り出される。勿論こちらも観客たちによって歌って良いものである。会場が暗くなり、観客のペンライトが海のような深い青色になる。


「海導(うみしるべ)」


海賊との戦闘などで亡くなった海兵を弔う鎮魂歌である。この中にも海兵やその家族がいる。彼女の歌声に合わせてペンライトは右に左にゆっくりと交互に揺れる。


ウタにとっても海軍はこの世界の平和に大きく寄与している組織だ。

ダブルスタンダードでこそあるものの彼女が目指しているのは平和で平等な『新時代』なのだ。

だからこそ日々の世界の平和に頑張っている海兵の方に敬意をこめて歌うことを最初に伝えてこの曲を歌う。

ライブに参加してる海兵やその家族ら、市民はこの曲もこの曲を共に奏でる。ウタも低い声ではあるものの海のように雄大で包み込むような声でこの曲を紡ぐ。

悠久の平和が訪れるように。

亡くなった海兵の魂の安寧と平穏を願い感謝を伝えるために。


歌声は世界中に届けられる。

あの英雄だった海兵にも

仏の二つ名を持った海兵にも

大参謀の名を持った海兵にも


退役し妻やひ孫たちの家族に囲まれた紫色の髪をした老人にも。


正義を背負ったすべての者に 愛をこめて


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