すぐ戻ってくると笑った彼は、本当に数分で戻ってきた

すぐ戻ってくると笑った彼は、本当に数分で戻ってきた

※オリキャラ注意

「ダ・ヴィンチちゃん助けて!マンドリカルドが…」

ギリシャに現れた微小特異点を調査していたマスターから届いた通信は、そんな不穏な言葉から始まった。

「出てくる敵倒してたら突然後ろから話しかけられて、振り返ったら知らないサーヴァントが立ってて、その人が今回の特異点を作ったとか言ってきて、それで戦おうとしたら変な亜空間みたいなの出してきて、マンドリカルドが私を庇って飲み込まれちゃって」

「分かった立香、まず落ち着いてそのサーヴァントの特徴を教えてくれ」

今にも泣き崩れそうな悲痛の声にダ・ヴィンチは只事ではないと感じ、すぐさま件のサーヴァントを探ろうとした。マスターはぐずぐずと鼻を啜りながら相手の特徴を話し始めた。そして名前を口に出した瞬間、控えメンバーとして中央管理室に呼ばれていたキルケーが突然割り込んできた。

「ピグレット!奴は本当にそう名乗ってたのかい!!?」

「え…?そうだけどキルケーもしかして知り合い?」

その言葉に心外だと言いたげな表情をした後大きな溜息を吐き語り始めた。

「そいつは稀代の魔術師だというのに、その力を気に入った人間を嬲って辱めることにしか使わない外道だよ。しかも加減を知らないから最終的に死なせてしまう大馬鹿者さ。もっとも、その性癖が仇になってあちこちに手を出しまくった結果、被害者遺族に袋叩きにされ死んだんだけどね」

瞬間、通信先からガタリと音がなってヒューヒューと荒い呼吸が聞こえた。当然だ、そんな危険人物に親しい人が拐われたとなれば生きた心地がしないだろう。マスターの頭の中では、数分前の光景がリフレインされていた。

____

『キミ達、強いんだね』

その一言に振り返れば、淡い髪に爛々と輝く紅い瞳を持った美男子がそこにいた。

『いや〜ボクの箱庭で暴れている子達がいるって聞いたから来てみたけど、なかなかかわいい子でびっくりしたよ』

『…その言葉、アンタがこの特異点の黒幕って意味で捉えていいんだな?』

マスターを後ろに庇いながらキッと男を睨みつけ、マンドリカルドはそう吐き捨てた。

『んーまぁそうなるかな?たくさん愛しても壊れない子が欲しいなーって願ったら出来たわけだし。いろんな子が召喚されたけどキミたちみたいに外部から侵入してくるのは初めてだな』

あまりにもサラリと言うものだから冗談なのではと思ったが、現状それらしき存在が見られないため彼が特異点を作った張本人で間違えないだろう。

『マンドリカルド、まだ戦える?』

『勿論、とっとと倒して帰りますか』

戦闘準備に取り掛かり、まずはとガンドを撃とうとした時だった。

とぷん、

とマスターの手首から先が見えなくなった。否、暗い穴へと沈んでいた。

『!?なに…これ?』

『んも〜物騒なことしないでよ。お話なら連れて帰ってからゆっくりしてあげるから』

にこにこと笑いながら、男は闇へ吸い込まれていく少女を眺めている。それが転移するものなのか男によって作られた空間なのかはわからないが完全に飲み込まれたらアウトであるのは明白だった。

必死にもがけどずぶずぶと入り込んでいき、とうとう肩まで見えなくなってしまった。終わった、と思ったその時

『マスターに、手ぇ出すんじゃねぇ!!』

ズイッとマンドリカルドがまだ無事なもう片方の手を掴み、そのまま力任せにマスターの体を引っ張った。彼女の腕はすっぽりと抜けたものの、反動でよろめいたマンドリカルドか代わりに穴へと入ってしまった。

『あらら、身を挺して主人を守るとは随分と忠義深いね。じゃあその行動に免じてキミだけにしておくよ』

『マンドリカルド!』

必死に手を伸ばし連れ戻そうとするも、既に顔以外が埋まってしまい引き抜くのは到底無理なところまできてしまった。

『大丈夫、すぐ戻ってくるッスよ』

笑顔でそう言った彼は、亜空間へと飲み込まれていった。

____

 「私のせいだ、私があの時すぐ抜け出せていれば!」

「落ち着いてくれ!まだ助からないと決まったわけじゃないだろう?」

そうは言ったもののキルケーはもう彼は助からないだろうと確信してた。かの魔術師の悪名は何度も耳にしたことがある。強引に迫られた上命まで奪われた姫君に強すぎる寵愛に耐えきれず自ら命を断った神官と、無理矢理略奪のオンパレードな古代ギリシャだとしても屑と吐き捨てたくなるような男が手に入れたお気に入りを無傷で逃がすわけがない。

(この子には悪いけど、再召喚も視野に入れておいたほうがいいかな)

と考えたその時だった。

「悪ぃ遅くなりました!!!!」

聞こえてきた声は、確かに今回同行してきたマンドリカルドのものだった。

「いっやアイツ連れてった先でいきなり触手みたいなのけしかけてきて全部千切ってたら思いの外時間かかって「よ゛か゛っ゛た゛あ゛あ゛あ゛!!」ンブゥ!?」

言い切るのを待たずにマスターは彼の方へ走り出し抱きついてきた。よく見ると衣服の乱れや薄っすらと素肌に緊縛痕が見えるが五体満足かつ散らされた様子もない。

「ちょちょちょマスターどうしたんスかそんなベソかいて、てか締まる締まる苦しいから一旦抱きつくのストップ!」

「あっはっはっ、何はともあれハッピーエンドってとこかな?」

苦笑いを浮かべるダ・ヴィンチの後ろでキルケーは「あいつ常套手段アッサリ潰されてやんのwww」と大爆笑している。元凶も倒してもう帰るだけとなったためその準備をしつつふとダ・ヴィンチは思った。

(そのサーヴァント今回の特異点で縁ができてしまったけどカルデアに来たりしないよね?)

その発想が杞憂で終わるか否かは、神のみぞ知る。

 -Happy end?-

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