『〇〇しないと出られない部屋』

『〇〇しないと出られない部屋』

イージーピージー







「……は?」「…………」


ハッシュヴァルトとバズビーはその文字を見た途端、衝撃のあまり固まっていた。







──そこは辺り一面、真っ白い箱のような空間。

特徴としては扉らしき物があり、その一部に『LOCK』と赤く表示されていた。

扉の上部には『〇〇しないと出れない部屋』

と記されている。

そして、その空間には何の変哲もないベッドが中央に、すぐそばに机があるだけ。

その机の上には、皿の上に乗ったチョコレートが10個と折りたたまれた白い紙があった。

チョコの見た目はただのチョコだ。

だが、そんなチョコが何故この部屋にあるのか、怪しいにも程がある。なんの因果も見い出せない。



2人は突然、その空間にいた。


先程まで、ただいつもの事のようにバズビーがハッシュヴァルトに噛みついていた。それをするりと躱し、ハッシュヴァルトが去ろうとしていただけだった。


だけだったのだが、何がどうなったのか2人はそこにいた。

飛ばされたと言うべきなのか。

瞬きの間に光景が変わってしまった。

何も状況を把握出来ない。

ただ、お互いがやった事ではないとだけはわかっていた。この空間に閉じ込める能力を両者は持っていない。やる意味がない。

あるとすれば、第三者の何者かによるものだ。

先程まで噛み付こうとしていたバズビーだったが、今やるのは得策ではないと理解していたのだろう。ハッシュヴァルトに突っかかる事はしなかった。

2人は辺りを見渡し立ち尽くしていた。


そして、最初に行動を起こしたのはバズビーだった。

「なんだ!?おい、一体なんだこれは!?

てかどこなんだよ、ここは!クソッ……!!」

扉らしき物に近づいていき、力そのまま叩いた。

バズビーは、扉を壊そうと亀裂に指を食い込ませようとするがビクともしない。

彼のこめかみに血管が浮き出る。

そこから指が、火によって燃える石炭のように赤くなっていく。

彼は激昂した。

「ふざッけんな!!

バーナーフィンガー2!!」

──辺りに煙が立ち込める。

彼は流石に壁に傷は付くだろうと思っていた。

だが、煙が晴れると、その扉には傷1つ付いていなかった。

ただ、黒づいただけだ。

その黒ずみも、しばらくすると白に吸収されるかのように消えていった。

これにはバズビーとハッシュヴァルトは目を大きく見開いた。

「おい………なん、だと」

信じられない、かと言うようにバズビーから声が漏れる。

戸惑いからのイラつきは、なんの変化も無い壁からハッシュヴァルトへと変更された。

「おい!お前もなんかしたらどうなんだよ!?ユーゴー!!」

ハッシュヴァルトはしばらく壁の近くに手を添え、なにやら考え込んでいた。

そして、バズビーの苛立ちに返答した。

「……この壁は霊子ですらない。何らかの物体で出来ている壁だ。

故に、こちらから奪うことも出来ない。加えて、お前のバーナーフィンガーでも傷一つ付かない物体だ。

別の角度からの解決策を見出す方が懸命だろう」

淡々と話していくハッシュヴァルトにバズビーはまた眉をひそめる。

「だからって何のアクションも起こさないのかよ?

なら、その別の解決策ってもんを挙げてみろや。

こんな気味の悪い場所すぐにでも早く出てえだろうが。……俺はこんな所で野垂れ死ぬつもりはさらさらねえからな」

空気がピリつき、一触即発の状態と化す。

お互いに無言のままだ。


ハッシュヴァルトは机の近くに歩いていった。

「……ならば、扉の上部に示されている『〇〇しないと出られない』の条件を満たしてみればいいだろう。

私とてこのような場所からは一刻も早く去りたい。

この紙にヒントの一つ位は書いてあるはずだ」

そう言い、机の上の怪しげな白い紙を開いていった。

それに続きバズビーも紙の中を見るように近づいていく。


ここで、冒頭のシーンに戻る。

2人はその内容を見て、想像を超える馬鹿らしい内容に衝撃のあまり固まっていた。


紙にはこう記されていた。


『ここは、

セックスをしないと出られない部屋

チョコレートを食べきらないと出られない部屋


これらの条件を満たさない限り、この部屋から出ることは出来ません。

また、今回チョコレートの食べ方を指示通りに行ってもらう事で規格に合う事とします。

チョコレートの中には、1つだけ媚薬入りの物があります。

それら10個のチョコレートをお二人には交互に食べてもらい、部屋を出る条件を1つクリア出来ます。』



「は、はぁ〜〜〜??」

馬鹿馬鹿しい内容にバズビーはため息のような声しか出ない。

「ば、馬鹿じゃねえのか??頭狂ってるぞ……なんなんだよ、それ!?

なんで俺らなんだよ!?」

バズビーは後頭部を掻き、困惑している。

ハッシュヴァルトの方はというと、手紙を持ったままショックのためか硬直していた。


紙の中にはヒントの1つどころではない。

答えが書いてあった。

これをクリアしない限りは出られない。

これをクリアすれば、この部屋から出られる。


しばらくすると、バズビーは頭を掻くのをやめたかと思うと、机のチョコレートに手を伸ばしていた。

思わず、ハッシュヴァルトは遮るように腕を伸ばす。

「待て、そのチョコレートに何か細工があるかもしれないのに体内に取り入れようとするな」

じろり、とハッシュヴァルトの方をバズビーは睨んだ。

ため息混じりに彼は自分の考えを相手に伝えた。

「そんな事は承知の上だっつーの。

それでも、これをやらない限りはこの趣味の悪い部屋に閉じ込められたまんまなんだ。

まずは、これを終わらせるのが先だろ。

どんな回り道よりも、その紙に書いてある事をやることこそが答えなのはお前もわかってんだろうが。

早く出てえんだろ?

…………はぁ、もうひとつの事は食う事やった後にどうするか考えるぞ」

ハッシュヴァルトの手を叩き、彼は1つのチョコレートを手にした。

そのまま口に運び、入れた。

カリッと砕き、飲み込む。

「……味は普通のチョコだな。

次はお前の番だ」

ハッシュヴァルトはそれを眉を寄せながら見ていた。

目をつぶった後、覚悟を決めたようにチョコレートを手に取る。

そして、食べた。

これを淡々とお互いに繰り返した。

お互いの様子は変わらない。

紙に記載されていた情報によると、1つは媚薬入りだ。何らかの変化が起こると思っているが、今の所は起こらない。

まだ食べていないだけなのか。

1つずつ数が減る。

7つ、6つ、5つ、4つ、3つ、2つ。


最後の2つとなった所で、バズビーはハッシュヴァルトに声をかけた。

「あと2つだ。

もう薬が入ってるチョコを食べたかもしれねえが、食べてねえかもしれないからな。

ここは公平に指差してせーので、どっちにするか決めるでいいだろ」

それを聞き、ハッシュヴァルトも納得した。

「あぁ、それでいい」

バズビーは人差し指を準備した。

ハッシュヴァルトも手を向ける。

「じゃあ、いくぞ。

せーの……」

──バズビーは右。ハッシュヴァルトは左を選んだ。

「俺はこっちだな」

「…………」

両者、綺麗に別々のチョコを選んだ。

果たして、媚薬入りを食したのはどちらなのか。

すると、

扉の『LOCK』と書かれた部分の辺りからカチリ、と音がした。

条件の内の1つを満たしたからなのか。

やはり、あの紙に書かれた事をすればこの部屋から脱出できるということなのだろう。



食べ終わり、少し時間を置いたバズビーは相手の様子を見た。

「おい、なんか変化あるか?」

今の所バズビーには身体の変化はないらしい。

そんなハッシュヴァルトは自分の身体を確認するかのように、手を開いたり握ったりしていた。

思考してから身体の状態を伝える。

「私の方も今のところは何もない。

…………次は、どうする」

そう。一番の問題はこれだ。


──目の前の人間とセックスをする。


バズビーは、片手で頭を抱えてしまった。

「……ヤるってことだよな?それ以外ねえよな?」

「あぁ……そう、だろうな…………」

ハッシュヴァルトも眉をひそめる。

バズビーも言葉を呑んで、ため息をついてしまう。

2人の男は何も言わないままこの場に立ち尽くす。


だが、バズビーが閃いたかのように顔を上げた。

「ん?だが待てよ。

セックスって事は性行為って事だけに限らない可能性もなくねえか?

もしかしたら、それより軽い事でも条件を満たしたって事がありうるかもしれねえよな?」

1つの希望を見出したように、目に光が宿った。

「確かにな……。

ならば、抱擁なども該当するかもしれないという事か」

「そうゆうこった。これならいけるだろ!」

この場に苦い状況を打破できる期待が立ち込める。

もしかしたら、を胸に込めこの部屋からの脱出を夢見る。

この部屋に来てから、いつの間にかバズビーとハッシュヴァルトの間の歪な空気はなくなっていた。

互いに共通の困難を前にしているからか、そんな事をしている余裕がないからか、ともかくなにか良い方向に進んでいる事は確かだ。


ここで、バズビーが思い出したようにハッシュヴァルトに言った。

「おい、いいか?ユーゴー。

ここから出たら、この部屋の出来事は忘れろ。

いいな?これは俺のためだけじゃねえ。お前にとっても最悪だろ。

こんな最悪な出来事、他のヤツに知られたらどんな事になるか……わかるだろ?

ともかく!絶対!なかった事にする!いいな?」

「確かに、それが好都合だな。承知した」

双方共にその後の事について意見を合致させた。

これで部屋から出られるのか、この二者にとっては運命を分ける出来事だろう。

2人は立ったまま、目の前で向き合う。

「ふー………いいか?」

「あぁ、大丈夫だ」

2人は意を決したように抱きしめた。


……気まずい空気が流れる。

それもそうだ。

この2人は恋人でもなんでもない。

ただの昔馴染み。しかも、最近は疎遠になっていた関係だ。

お互い顔は見ないまま、なんとも言えずにいた。

「……おい、ユーゴー。

なんか扉に変化あったかよ……」

扉の方に身体が向いているハッシュヴァルトに状況を確かめた。

確かに、何かしらの変化が起きるのなら音が鳴った『LOCK』という場所位だろう。

だが、何変化もなかった。

残念ながら、やはり……するしかないのだろう。

その空間に重い鉛のような空気が再び立ちこむ。

一旦、2人は離れた。

次にどうするか、切り出さなければならなかった。



「「……………」」

野郎2人。

恋仲でもない。

なのに、性行為を行わなくてはいけないのか。一種の拷問に等しいだろう。

それでもだ。

まだマシな点を挙げるのなら、目の前の人物に嫌悪感を抱いてはいない、汚らしくは無いその事が救いなのか。

意を決したように、各々が薄々感じていた事をバズビーが声に出した。

「ハグでもねえのなら、だ。

わかっていた事だったが、本当にセックスするしかねえのか……」

嘆息しつつ、目の前の現実に目を向ける。

それもそうだろう。

何故なら、この部屋には意味ありげにベッドが1つ置いてあるからだ。

だが、ここからが問題であろう。


「じゃあよ……挿れる方と挿れられる方、お前と俺どっちがやるよ…………」


雷のような衝撃が走る。

そう。

性行為では男と女だけの物でもない。男と男でも可能である。

そして、その場合はどちらが挿れる、挿れられるのか。

どちらもそういった趣味は無い。

なら、どうすればいいのか。


「俺はそんな趣味ねえし、ぜっっってえ嫌だからな!?」

バズビーは当たり前だと、拒絶した。

想像に容易いだろう。彼はプライドが高い人物だ。

己が女のように脚を開くなんて望まない。

片や、ハッシュヴァルトもプライドがない訳では無い。

彼も完璧に拒否するだろう。

私の方こそお断りだ、とでも言うのだろう。

だが、

「…………。

……私も、嫌だ…………」

いつもの凛とした空気はどこへやら。

弱々しげに自身の気持ちを語る。

いつも纏っている団長としての威厳がその時だけ無くなったような、あの時の白ネギ野郎が連想された。

この状況でどちらが受け身にまわるか、泥沼と化すだろうとバズビーは予想していた。

なのに拍子抜けするような相手の様子。

やけに、その様子が目に焼き付いた。

自分だって絶対に嫌だ、嫌なのだ。

だけれど、ハッシュヴァルトのやけに弱腰のような拒絶が引っかかってしまった。

この選択で目の前の人物が壊れるかもしれないと、バズビーは思った。

自分が譲る必要もない。

なのに、どうしてか折れてしまった。

「…………俺が…挿れられる側にまわってやるよ。

勘違いするなよ。

この言い争う時間も惜しいし、早く出てえだけだから!今回は俺が受け身に回るだけだ!

そういった趣味はねえからな!?ユーゴー!

それに、お前も野郎に挿れるんだからな!?

この部屋から出たら全部キッパリ忘れる。

いいな!?」

バズビーは眉間に皺を寄せ、歯ぎしりしそうな様子のまま言い放った。

その言葉を聞いたハッシュヴァルトは顔から陰りが消え、眩しいものを見るかのような表情をしていた。

「あぁ………そうだな………。

すまない……。早くここから出よう」



お互いの役割は決まった。

あとは実行するのみ。

それで条件は満たされこの部屋から脱出することが出来る。

いざ実行、の前にバズビーは辺りをキョロキョロと見回していた。

この部屋は見渡すまでもなく真っ白いだけなのだが。

どうしてなのか。

「ユーゴー。

この部屋にあるのは、チョコと紙、テーブルとベッドだけだよな?」

「?そうだな。

テーブルとベッドもシンプルな物で何も隠せないだろう。それだけだと思われるが……。

それが、どうかしたか?」

ハッシュヴァルトの疑問も納得のものだ。

何故バズビーは部屋の備品を気にしているのか。


短髪の彼は、この後の事で気がかりがあるのだ。

嫌な予感がしていた。

この行為は挿入する。

つまり自分の後ろの穴に挿れる。

だが、そう簡単に入る訳がない。

何か滑りを良くする物がなければ入らないだろう。

──そう、お目当ては潤滑油だ。

彼は男。女のように濡れない。

解す必要が必ずあるだろう。

でなければセックスはできずに、この部屋からは出られない。

加えて、その解すという行為を目の前のハッシュヴァルトの前でやる可能性が極めて高い所も懸念していた。

なるべく無駄な行為をお互いにやらず、傷跡を減らしたい。

後ろの穴を解すという惨めな事をやりたくない。けれど、そうしたのなら部屋から出ることは出来ない。

潤滑油は無い。

挿入さえ、それさえすれば部屋から出られるのだ。


バズビーはしばらく考え込んでいた。

その様子を見ていたハッシュヴァルトは、どうかしたのか気になった。

もしかしたら、バズビーの覚悟を決めるために時間を要しているのかもしれないと思ったのかもしれない。

「……大丈夫か、バズビー」

「?あぁ、少し考えてたんだよ……。

ちょっと待ってろ……」

バズビーは何やら悩んでいる。

しばらく顎に手を当て、悩んだような様子だった。

だが、覚悟が決まったようだ。

「…………おい、ユーゴー。

俺がいいって言うまであの部屋の隅にいろ。

絶対に壁の方を向いて、こっちは見るな。

…しばらく時間がいるからな……。

いいな?いいぞって言うまで絶対に!振り向くなよ!?」

1人の時間が欲しいのだろうか、ハッシュヴァルトに部屋の隅に行き、壁を向くよう指示をした。

ハッシュヴァルトはその思いを汲んだのか、素直に承諾した。

「……わかった。

問題がなければ声をかけてくれ」

ハッシュヴァルトはそう言うと、バズビーから離れ部屋の隅に向かった。

バズビーは一息つくと意を決したような表情をしていた。


──彼の覚悟は決まっている。

ただ、自身で後ろを解す行為を躊躇していた。

それも今はない。

早くこんな気味の悪いところから出る。

そのための……




ハッシュヴァルトは、ただ目の前の白い壁を見ていた。

バズビーの決心が着くまで待つつもりだ。

待つつもりなのだが、かなりの時間が経っている気もする。

そして自身の身体には変化があった。

普段、そこまで汗を掻くことなどはまずない。

それなのに額にじんわりと汗が滲んだ。

身体が心なしか暑い気もする。

この部屋が暑いだけなのか。

だが暑いにしても、何かが違う気もする。


すると、


…ッん………


バズビーのいる方から声がした。

何か苦しんでいるような声色だ。

彼のこんな声は聞いたことがなかった。

それぐらい覚悟をするのに苦悩しているのか。

ハッシュヴァルトは思わず様子を確認しようと思った。

それ程思い詰めているのか、せめて自分にできる事がないのかと。

壁を見つめてるだけではなくて、何か。

だが、言われているのだ。

絶対に「いい」と言われるまで振り向くなと。

それでも自分に何かできないかと、彼は言いつけを破った。

そこに広がっていたのは


──ベッドの上にバズビーが膝立ちになっていた。

そして、着ているシャツの端を口でたくしあげ、ズボンを少しずらし、陰部が顕になっている。

バズビーは前を扱き、後ろに指を入れた状態だった。


その光景は、1人の男が自慰行為をしている物に見える。

普通は、衝撃と青ざめる心地を感じるだろう。

それなのに、ハッシュヴァルトは目が奪われてしまった。

正しく、とんでもなく魅力的で心奪われるような衝撃と血湧き肉躍る心地だ。

目が奪われたが、すぐさま我に返り目線を壁に戻した。

(許可が出る前向いてしまった……。

だが、こちらを見ていなかった為か気づかれていない。

バズは後ろを解すために時間を要していたのか。

何故か嫌悪感よりあの時の苦しそうな悶えてるような表情、陰部から垂れている水滴を美しいと思ってしまった。

おかしい、違う。

それでも、この昂りは何故……。

これでは私がただの不埒な

これは……違う。

……そう、そうだ、薬、薬のせいだ。

媚薬入りのチョコレートを食べたのは私だったのか。

だから体温が上昇して、バズの準備している姿がやけに焼き付いてるのも、そうだ……)

彼は、自身の昂りを媚薬のせいにする他なかった。

そうでなければ指先まで熱が灯り、欲望の芽が出た事も言い訳が付かない。

バズビーがいいと言うまでこの熱を持ったまま、待っていなくてはいけない。

その間にも、彼の火は燻り続ける。



条件を満たすセックスが、挿入し、達する事だとする。

それなら、それを行うだけでいい。

その為になるべく無駄な事はお互いのためにしない方がいいだろう。

ただでさえ、嫌々行うことだ。

その為には後孔を解さなければ、相手の男性器の大きさがどうであれ挿れるのは困難だ。

そうなれば、相手の前で解す事になる。

それだけは何としても避けたかった。

だから、バズビーはハッシュヴァルトをこの部屋の一番遠い位置に移動させ、こちらを見させないようにした。

あとは、解す。

だが、滑りを良くする潤滑油も代用品も無い。

では、どうするのか?

この空間にある滑りを良くするような物、それは己の体液しかないと思った。


ベッドの上に乗り、出来るように膝立ちになる。

バズビーは上のジャッケットを脱いだ。

そして、ズボンを少し下げ、陰部を晒す。

まずは、唾液で解そうと試みた。

左手の人差し指と中指を口の中に入れ、できる限り唾液を多く絡ませる。

最初に中指を窄まりに当て、ゆっくりと差し込んでいく。

異物が入り込んできて、思わず力んでしまう。

それでも、やらなければ終わらない。

慎重に動かし、穴を拡げるように動かす。

少しの隙間が出来てきたら、2本に増やし、同じ動作をしていく。

勝手に息が上がっていく。

しかしながら、次第に滑りが悪くなってきた。

だが、唾液はそう多く出ず、粘度もそこまでない。

女のように膣分泌液は出ず、濡れることは無い。

外からの何らかの液体が必要であり、あと使える物は、露出された彼の男性器から出る液体だけ。

バズビーは口でシャツの端を咥え、右手でペニスを刺激していく。

手早く擦り上げ、粘液を搾り上げる。

快感から声が漏れそうになるが、口にシャツを咥えていたからか声は抑えることが出来た。

それでも音は漏れてしまう。

片割れにバレてしまうかもしれない、それも認識できる余裕は今の彼にはなかった。

どうしようもなく射精したい欲に駆られるが、今の目的を思い何とか動きを止める。

「…ッん………」

十分に出たカウパー液を左手に垂らし、再び拡張していく。

その行為を繰り返し、潤沢に濡れた後孔を確認すると指を抜き動作を中止した。

息が上がり、額や首筋に汗が出る。

それでも、ハッシュヴァルトに悟られないように服装を直す。濡れた指は仕方なくジャケットで拭いた。

これで、あとは挿入してこの部屋から出られる。

バズビーは息を整え、ハッシュヴァルトに声をかける。


「もういいぞ、ユーゴー。

来いよ」

「…………あぁ」

声をかけられたハッシュヴァルトは後ろを振り返り、部屋の中央にあるベッドへと近づいていった。

ふと、ハッシュヴァルトの様子がおかしい事に気づいた。

「お前なんか顔赤くねえか?息上がってるみてえだし。そんな暑いか、ここ?」

「…………いや…私が、例のチョコを口にしたようだ」

「あっそ、まあ好都合じゃねえの?

俺みてえなゴツい野郎とヤるんだしな。媚薬とやらの力でも借りとけよ」

バズビーはさほど驚いていないようだ。

確かに自身は身体の変化がなく、あるのならハッシュヴァルトだろうと思っていたからだ。

その薬の力も今では好都合となる。

なんせ今から性行為をするからだ。ハッシュヴァルトのモノが勃たなくてはできない。

それを解決するためのアイテムと捉えたのだ。

ここで、バズビーは1つの事をハッシュヴァルトに申し出た。

「俺が挿れられるんだ……ただでさえ女みてえになるんだからやり方位俺の好きにさせろ。

てことでお前が下になれ。そんで俺が上に乗る。

これでいいな?」

バズビーは体位を気にしていた。

自身が女のようにされる事を出来るだけ実感したくないのかもしれない。

だから彼が上になり、所謂、騎乗位の姿勢となるのか。

これにハッシュヴァルトは承諾した。

「わかった。だが、私が下にいて行為はできるのか?

動かなければいけない可能性もあるのでは、ないか……?」

「それはいい、俺が動くからな」

もし、挿入しても部屋が解錠されなかった場合には射精までやらなくてはいけない可能性がある。それをハッシュヴァルトは考慮していた。

しかし、それもバズビーが行う模様。

動かれるのも屈辱的に感じるからなのかもしれない。


──そして、この部屋を脱出しようと2人は始める。


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