しぜんほごくにて(キョウルリ)
通りすがりのキョウルリスト「とっておきの場所に一緒に行きたいんだ!」
そんなキョウヘイくんの誘いにのって飛行機でやってきたのは自然保護区という場所で……イッシュ地方ではないみたい。
キョウヘイくんのとっておきの場所なら散歩コースにしたら会えるかも、と思ったんだけど……それは難しそうだね、あはは……
……問題はそれだけじゃなかったんだけどね。
「いつもありがとうございますフウロさん!」
「アタシの飛行機ならいつでもひとっ飛びだからね!まかせてよ!」
「……いつも?」
「うん!ここに来れるのフウロさんの飛行機しかないからさ。お世話になってるんだよ。」
「そ、そう……なんだね」
フウロさん……ジムリーダーをやってるんだから悪い人じゃないのはわかってるの……でも……
な、なんだか……変に心がざわつくっていうのかな。前に取材に行ったときに急に飛行機に乗ろうみたいなことを言われてびっくりしたからかな……?
うん、たぶんそのせい……それだけ……
「ル、ルリちゃん……?なんだか顔色が悪い気がするけど大丈夫?飛行機で酔ったとか。」
「し、心配してくれてありがとう。でも大丈夫だから……ほ、ほら。ピクニックの場所に行こうよ。わたし、ついていくから……」
「う、うん……」
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そもそもキョウヘイくんは優しくてかっこよくて……許可証が要るような場所にも入れちゃうぐらいすごい人なんだから先に誰かいたとしてもおかしくはなかったのに。
そうだってわかった上で……ううん、わかってたけど考えようとしてなかった……
「着いたよ!この辺りが特に空気が澄んでて気持ちいいんだ!」
「……フウロさんはいいの?」
「フウロさん?たぶん鳥ポケモンと戯れてるんじゃないかな。僕と来るついでにいつもそうしてるって。」
……ついで?それって……
「じゃあ、フウロさんとピクニックに来たことは……」
「ないね。」
そっか。キョウヘイくんは別にフウロさんとは……もう、こんなの好きな人の前でする喜び方じゃないのに。
「へぇ……ふふ、なんだか少し気分がよくなった気がするよ。きっとここの空気のおかげだね。」
「それはよかった。そろそろお弁当にしようか。」
地面に敷いたシートの上に各自の持ってきた弁当箱を広げる。
片や遠足の弁当箱そのもの。もう片方はというと……
「……これって重箱ってやつ?」
「あ、ええっと、重箱……ではないのかな、一応。はりきりすぎちゃってつい……す、好きなおかずだけでも味見してみてくれると嬉しい……かな」
「えっ食べていいの?……しまった、ルリちゃんの分も用意しとくんだったなぁ……」
「あっ!そ、その、これはわたしが勝手にしたことだから……気にしないで!ほ、ほら!とりあえず食べよう?」
「そうだね。いただきます。」
「いただきます。」
今日のお弁当のおかずは流行りを研究しつつわたし流にアレンジを加えたものを色々。
遠足の定番料理はもちろん、気になるあの人に振る舞う料理まで色々研究したから……どれか1つぐらいは気にいってもらえると思いたいんだけど。
「じゃあせっかくだしルリちゃんのお弁当を……あっこれおいしい!」
「えっ?よ、よかった……それが気に入ったならこっちもおいしいかも……?」
「ほんとだ!こっちもおいしい……すごいや、みんなおいしい!」
「そ、そんなに……?えへへ……」
「あ、でもキョウヘイくん、自分のお弁当も食べないと。」
「そ、そうだった……うん、正直ルリちゃんのには味も見た目もかなわないな……」
「でもおいしそうだよ?自分で作ったの?」
「……手伝ってもらいながら」
悔しいのか恥ずかしいのか……キョウヘイはサンバイザーを少し下げながら答えた。
「……ねぇ、少し食べさせてもらってもいいかな?」
「い、いいけど……」
キョウヘイの弁当のおかずをひとつまみ、しばらく味わう。
そしてまた、もう1つまみ。
「うん……おいしいよ。キョウヘイくんのお弁当だっておいしい。」
「そ、そう……?けど、ルリちゃんの方が……」
「……料理はね、おいしくなるようにって願いを込めるのがおいしくする1番の秘訣なの。キョウヘイくんのお弁当にはちゃんとそれが入ってると思うの。」
「な、なるほど……その上で料理が上手くないと……いやそうじゃないと上手くなれないってことなのかな?」
「ふふ……そうだね、料理をもっとおいしくするには他の気持ちを込めてみていたりするかも?隠し味みたいに。」
「それってどんな気持ちを?」
「それはナイショ……かな」
「うーんナイショか。探すのはなかなか難しそうだなぁ。」
料理の隠し味ってすぐに気づいてしまう人もいるけれど……普通は言われなきゃわからないよね。
今はまだ隠しておきたいけれど……いつか教えてあげるね。
そのときはあなたもわたしと同じ隠し味を入れてくれるようになったらいいな。
……なんて。舞い上がり過ぎかな?