さよなら、私のラクア
※死ネタ注意です。
※リコ視点です。
※14話ラストでリコとニャオハが連れ去られて、記憶を書き換えられた結果
「エクスプローラーズ=仲間 ライジングボルテッカーズ=敵」となり、
リコ達がフリード達と対峙していたら……というIF話です。
※フリリコ風味ですが、バッドエンドです。
「ふりー、ど」
「! リコ……良かった。思い出して、くれたんだ、な…………」
強い衝撃に頭にかかっていた靄が晴れて、クリアになった私の視界いっぱいに映ったのは、いつも私を助けてくれる男の人の顔だった。
近すぎるその人……フリードに緊張しながら彼の名前を呼ぶと、何故か涙を流して嬉しそうに笑った。豪快に笑っている方が似合うフリードのそんな表情は珍しくてつい見惚れてしまう私の頬を、褐色の指が優しく撫でて、そのまま力なく離れていった。
「……フリード?」
受け身も取らず、音を立てて地面に倒れたフリードに呆然とする。そんな倒れ方をしたら絶対に痛いのに、フリードは呻き声のひとつもあげなかった。
よく見たらフリードの白い髪は所々赤黒く染まっていて、身体中に傷が出来ていて汚れが付着している。擦り傷とか泥汚れみたいな物じゃなくて、もっと深くて赤黒いものだった。
ドラマや映画で見たあるシーンと目を閉じて倒れているフリードの姿が重なって、心臓がどくり、と嫌な音を立てた。私は震える手でフリードの肩を揺すったけど、何度呼び掛けても目を開けてくれなかった。
幸せな夢を見ているみたいに穏やかな表情で倒れているフリードに、指だけじゃなくて声まで震えて折角クリアになった視界が滲む。
「お願い、起きて。教えてよ……何で、こんなっ……! 私、何したの!?」
「にゃ、ニャ……?」
私以外に声を震わせている子に気付いて振り返ると、知らないポケモンが私の後ろに立っていた。それでも私は、その子が成長……ううん、進化したニャオハなんだと悟った。
そこで私は、自分の髪が背中まで伸びていること、背が伸びて胸がちょっぴり大きくなっていること、服が変わっていること、大事に持っていたペンダントが無くなっていることに今更気付いた。知らない間に、私もニャオハも変わっていた。
「マードックに喜んでほしくて、数量限定のひでんからスパイスを、買いに行って……その後に私、私達は……」
「可哀想に。一生記憶が戻らなければ傷付かずに済んだのに、フリードという男は酷なことをしますね」
「記憶操作しといてその言い草とか、ほんっとーにアンタってオニ下種だよね~!」
頭を抱える私達に、後ろから誰かが近付いてきた。
振り返って確認する気力は無いけれど、声の感じから男の人と女の人であることは分かった。
「記憶、操作……?」
「ええ。オーベムで記憶を弄った後、貴女達は我々エクスプローラーズの仲間として、本当によく貢献してくれました。お蔭でペンダント回収だけでなく、邪魔者であるライジングボルテッカーズを壊滅させることにも成功しました。まぁ、最期の生き残りであったフリードはしぶとくて、こうして倒すのに10年掛かりましたがね」
ライジングボルテッカーズを壊滅。最期の生き残り。10年。
聞いていないことまで得意気にたくさん喋ってくれた男の人のお蔭で、私が大好きだった場所と仲間達、フリードにはもう二度と会えないことを思い知った。
(ごめんなさい……私のせいで。ずっと傷付けて、ごめんね……)
倒れているフリードを抱き起して、その唇にそっとキスをする。
多分ファーストキスなのにドキドキした気持ちはなくて、何の反応もないフリードに、少しだけ冷えてきた体温に……ただ悲しい気持ちだけが残って、私はフリードに恋をしていたんだと今更自覚した。
初めてライジングボルテッカーズの皆と出会った日に、ペンダントを狙って知らない人に追い掛けられる自分を「物語のヒロインですか!?」なんて、一瞬でも思ったことがあるけど……やっぱり私は物語のヒロインでも何でもなかったみたい。
だって、物語のヒロインなら、このキスでフリードは息を吹き返してくれたかもしれないから。
「…………ゆるさない」
記憶だけじゃなくて大好きな場所と仲間達を、フリードを奪われた私に、躊躇う気持ちなんて欠片も残ってなかった。
「貢献した」と評価された力を使って三日三晩の戦いでエクスプローラーズを壊滅させた私とマスカーニャは、目標を失って家に帰ることもできずに、草木が生い茂った綺麗な森の中で無気力に過ごしていた。
そんなある日。
「ビィ♪」
私達の前に突然可愛らしいポケモンが現れて、私とマスカーニャを不思議な光で包み込んで……私達の意識は、そこでぶつりと途切れた。