××さまの思い出
イマジ響鬼・サマさんの過去の思い出
人が死ぬ描写・人肉食を匂わせる描写があるので注意
もしこの世にほんものの神様がいるのなら、そいつは人間のことなんて、なんとも思っていないんだろう。
こんなに祈りと怒りをぶつけられて、それでも人間を救ったり滅ぼしたりしないんだから。
俺の前には死にかけの男の子がいる。
今朝、生贄だと神域──縄と紙で飾り立てたただの洞窟へ放り込まれたそいつは、日照りと不作に苦しむ村の中でも、一段と痩せこけていた。
人間が痩せた生贄を差し出すのは、作物より人の方が多い時。いよいよ口減らしというやつだ。
俺の前にやってくる毎日のお供物も、数年前までは米、酒、塩、水が揃っていた。
今は白い石を砕いたものと、虫の浮いた水だけになった。
だけど、お供えが何になろうと、俺はもはや食べなくても死なないし。
お供えをどんなに頑張ろうと、不作はどうしようもない。
この神様は人間が何をしたって、何もできない。
洞窟の奥深くで湧き水を汲み、とかげや虫を潰し、少しでも食べさせようとしてみたが、その生贄は数日であっけなく死んだ。
聞こえる心は自分を捨てた村への恨みでさえない。お腹が空いた、苦しい、辛い、そんなものばかりだった。外から聞こえてくる声とおんなじだ。
何かを思う暇もなく、次の生贄が、同じくらいに痩せた子供がやってきて。
俺の隣に転がった、前の生贄を見た。
──食べていいのかな
浮かんだ心に、俺は目を見開いて。
村はそこまで追い詰められていたらしい。
生贄は戻ってこない。なぜなら神様が食べたのだから。私たちも同じものを食べよう。神様と一緒に。そんな声が外から聞こえ始めた。
ばき、ばきと音を立てて、俺は目の前の生贄を食える、村が願った神様になっていく。
食べなくてもいい神様を望んだのはお前たちなのに。
耐え難い空腹を超えて、砂と水のお供えを受け入れたのに。
俺が村の望みを叶えてやるより先に、生贄の方がもたなかった。
俺は二つの死体を埋めて、洞窟の飾りを片付けて、数年閉じ込められた村を立ち去ることにした。
もはや誰の声も聞こえない村に、ぽつ、ぽつ、と雨が降り始めた。