ごめんねスレッタ・マーキュリー─没セリフ集おっさん編─
※本編で使わなかった没セリフです。話の展開が少し違っている場合もあります
(ハンス+4スレ+地の文)
「お待たせいたしました。よろしければこちらをお使いください。情報のやり取りはできませんが、いくらかの娯楽作品が入っているタブレットです。新しい端末機器を手に入れた際に処分してくだされば結構ですので」
「あ、ありがとうございます…」
スレッタが戸惑いながらも両手で受け取った端末を、エランはじっと見る。視線に気づいた壮年の男は笑顔で説明を付け足した。
「これはスタッフの私物です。古い型ですので、通信機能などは生きておりません。また追跡できるような部品も付け足されておりません。無用な心配などせず、ぜひ気兼ねなくお使いください」
男の言いように引っかかるものはあるが、確かに用意されたのは使い込まれている古い型の端末だ。いつスクラップになってもおかしくないほどに細かな傷がある。
「…ありがとう」
「いいえ。ではそろそろお時間です。先方も港に着いている頃だと思いますので、すぐに引き継ぎいたしましょう」
(ハンス&大ゲイブ)
「俺じゃなくて知り合いの子供らがな。もう実家に帰るっつうんで途中まで乗せて来たんだ」
「おおうそうかい。スペーシアンは横暴だかんな。なんだ、可愛い坊ちゃんと嬢ちゃんじゃねぇか。無理強いでもされそうになったか」
「こいつらは見た目もいいが成績も優秀な子供らなんでな、そりゃ気に入らねえスペーシアンも出てくるさ。おやっさんも船員に馬鹿なマネさせねぇように気ぃ付けてくれよ」
「オレの船に乗ってる連中にそんな恥知らずはおらんわ。じゃあお前ら、ええと…」
「じゃあ任せたぜおやっさん。後で酒でもおごるよ」
「おう、帰りにここに寄るだろ。そん時になぁ、ついでに飯でも食おうや」
「俺のおごりでだろー?あんまりガツガツ食うなよ、もういい年なんだから」
「言ってろぃ」
(大ゲイブ+4号)
「詳しい事情は知らねぇが、あいつに気に入られるとは大した坊ちゃんだ」
「…気に入る?」
「嬢ちゃんもそうだが、特に坊ちゃんのことを気にしてたみてぇだ。あんまり寝れてねぇようだからこき使ってやってくれってお願いしてきやがった」
「………」
「まぁ坊ちゃんの仕事ぶりを見て、あいつの気に入る理由が分かった気がしたけどよ。この2日間船員のいう事を聞いてよく働いたなぁ、あいつらも褒めてたぞ」
「………」
「甥っ子にもよくよく頼んでやるからなぁ」
「……ありがとう、ございます」
(小ゲイブ)
「分かったよ。じゃあ君たち、1日だけだけど、よろしくね」
「おじさんの船では肉体労働してたみたいだけど、君たちはスペーシアンの学校に通っていたんだろ?計算とかの事務仕事を頼みたいんだけど、お願いできる?」
「うん、ありがとう。一応二人は名簿では存在しないことになっているから、僕の部屋でこっそり仕事を頼みたい。代わりにタダで乗せてあげるよ」
「同じアーシアンがスペーシアンに苛められてるなんて聞いたらね、何かしたいと思うものだよ。子供なんだから、少しくらい大人に甘えても大丈夫。差額はハンスの奴にでも何か奢らせるさ」
「じゃあ自慢のお宝を紹介するよ。君たちがこれから乗る船だ」
「最近クジで結構な高額金が当たってね、思い切って買ってみたんだ。貯金はすっかり無くなって、いくらか借金も出来たけど…後悔はしてない。さ、乗ってみてくれ」
「この船は地球で生産した加工食品を運んでるんだ。食料生産プラントはあるけど、まだまだ量では地球を超えるほどじゃない。最近は少しずつ地球の土も綺麗になってるし、品質の差は縮まって、そのうち逆転するんじゃないかな」
(小ゲイブ&スレッタ+地の文)
「ずいぶん古いものだね。骨董品みたいだ」
「私が暇を潰せるものが欲しいって言ったら、用意してくれたんです。捨てていいって言われたけど、そんな事したくないので…。よければ船長さん、ハンスさんに返してもらっていいですか?」
「いいけど、君が貰ったんじゃないの?」
「えっと、多分、途中で手放さなきゃいけなくなるので。…だから、お願いします」
「わかった。返しておくね」
穏やかな男はスレッタからタブレットを受け取ると、しばらくそれを見つめていた。エランも確認させてもらったが、機能が制限されているだけの何の変哲もないタブレットだ。けれど男は興味深げにしている。
「これ、そんなに面白い作品が入ってるんだ。映像作品?」
「映像作品も多いですけど、コミックと呼ばれるモノが多いですね。少し難しい話の物もあって、とっても面白かったです」
「へぇ、後で僕も見てみようかな。コミックならジョン・J・ロングの作品はあるかな?もしかしたらジョージ・J・ジョエルかもしれないけど」
「作者さんの名前ですか?」
「そうなんだ。彼は複数の名前でコミックを描いているから、なかなかすべてを網羅できないんだ。けど、面白い作品が多いんだよ」
「たくさんのお名前ですか?」
「作品の傾向によって使い分けているらしいね。まぁ普通の人でも情報を発信するときは偽名を使うし、それ自体は珍しいことじゃないけど。彼はたくさんの名前を使ってるから追う方も大変だよ」
「混乱しそうですね」
「だよね。でも彼自身は区別がついてるらしい」
何だか二人で盛り上がっている。エランはコミックのことなど何も知らないので、話に加わることはなかった。