こぼれ話①(穏やかな生活を送る2人)
(両想い後、おだやかな毎日を重ねる地球での生活)
※スレッタ視点
「エランさん、もう買うものはないですか?」
「そうだね、大体は揃ったかな」
清算したカゴを置いて、中身を移し終わった袋を手に持つ。ずっしりとした重みが腕に伝わると、スレッタはむぅっと眉をひそめた。
地球の重力は宇宙の疑似重力と同じくらいなはずなのに、何だかすごく強く感じるので、買い物ひとつするのも苦労している。おかげで最近はちょっぴり力もついた。
でも隣にいるエランの方がずっと大きい荷物を持っている。いつも水や燃料といった、とってもとっても重い荷物も、ひょいっと持ってくれるのだ。
エランの体は自分より大きいけれど、背伸びすれば届くくらいのほんの少しの違いしかない。なのに力の強さが全然違うので、スレッタはいつも不思議に思う。
じっと見ていると、視線に気づいたエランが「持とうか?」と手を差し出してくれる。
手袋をしていないエランの手は、スレッタと比べて少しゴツゴツとしている。関節が目立つ大きい手だった。
なんだか見ているとむずむずしてくる。
「いいです。エランさんが大変になっちゃいます」
「僕は別に…」
「いいんです!」
ふん!と息を吐いて店の外に出る。今日は太陽がとっても元気で、ちょっと眩しい。あれが映像ではなく本物だと思うと、なんだかすごいなという気分になる。
遅れて出てきたエランが太陽を見ているスレッタに気付いて、すぐに手をかざして影を作ってくれる。
短い時間なのに太陽が焼き付いたのか、目にチカチカと光の粒が踊り始める。
「あんまり見てると目が潰れちゃうよ」
「つぶれるんですかっ?」
「言葉の綾だけど、目に悪いのは本当」
水星からしたらとても優しい地球の太陽も、少しだけ凶暴な所が残っていたらしい。
エランは最近、ちょくちょくスレッタの知らないことを教えてくれる。地球で生活していた頃のことを、少しずつ思い出して来たのだとエランは言っていた。
目が落ち着いたあと、二人でゆっくりと路地を歩く。
整備されたコロニーとは違い、曲がりくねった道には雑多な建物や物が不規則にくっついていて、走り回るのは難しい。中には品物を地べたに置いているお店(露店というらしい)もあり、見ていて楽しいけれど油断していると迷子になりそうだ。
でも隣にはエランさんがいるから、大丈夫。
空いている片方の手を、そっとエランの片手に伸ばす。ゴツゴツしているけど触ると滑らかな大きい手は、スレッタの小さな手を優しく握り返してくれた。
絶対に助けてくれる存在が自分のそばに居てくれる。それがエランである事がたまらなく嬉しくなって、スレッタは満面の笑みを浮かべた。
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