これが女王の教えよ

これが女王の教えよ

やっぱ十文字割腹必須…?

飲み会。飲酒、食事、和気藹々とした雰囲気で行われるコミュニケーションの場。

そんな中、ひとつの享楽への誘いのような声が囁く。

「なぁアンタ、これ使ってみねぇ?」

そう言う冴は今宵も可愛がられて蕩けきった凛、こちらを面白そうに見物するカイザー、哀れにも首輪を付けられ羞恥と混乱から涙を流す閃堂、その様を撮影し続け笑う士道を侍らせていた。

そしてそう話す相手は、帝襟アンリ。ブルーロックを作り上げた女傑。彼女の演説を見ていた冴は彼女には女王の素質があると考えていたのだ。あの演説で魅せた声、言葉、振る舞い、醸し出す雰囲気。それら全てが、冴の目にかなった。

しかし彼女とて困惑している。それもそのはず「これ」とは鞭であったからだ。鞭を持ち歩いている事にも、それを自分自身に差し出された事にも同様に疑問を感じていた。

「え、えーーと?」何が何だか分からないが流石にそれはな、と少々酔った脳が判断し、拒否の言葉を口に出そうとするアンリの口を冴は白く艷めく人差し指で抑えた。そして天上の笑みがその思考を押し切った。女神ですら目が眩み、月さえも雲に隠れ、花も蕾に顔を隠す。そんな笑みが。

「大丈夫、物は試しだ。一回だけでも、やってみよう?」

幼子に言い聞かせるように優しく鞭をアンリの細く、しかし暖かな手にするりと握らせる。

「そうだな、あぁあれだ。ふふ、なんて言うんだったか。あの、こっちを見ている二人組。」

「…乙夜くんと、愛空くんです。」それは冴の抗えないまでの魅力に従順になったからか、それとも選手の名前を覚えていて欲しかったからか。二人の名前を答える。

「あぁ、そうか、丁度いいだろ、あいつらに練習台になってもらおう、大丈夫だ、ちゃんと全部教えてあげるからな?」

する、と頭を撫でてから乙夜と愛空の元へ向かう冴。そして入れ替わるようにカイザーがアンリの横に座る。お座敷の縁で捕まったアンリはその場所で硬直していたので手に残る鞭が異様に存在感を放っていた。

ハハ、と笑いながらカイザーは声をかける。

「大変だなぁ、お姫様?」その声にハッと意識を戻しアンリは焦る。流石に年下に手は出せない…!

「ど、どうすれば…!」目線の先にはもう既に真っ赤になって顔を覆う乙夜と愛空の姿があった。しかもそれを引き連れてこちらにやってくるでは無いか。

───遅かった

肩を落とし、様々な最悪な未来を想像するアンリ。違う、冴の手が早すぎるだけだ

「そう気を落とすな、大丈夫だ、俺も教えてやるからな」と別の方向性で心配、気遣いをするカイザー。その顔にはニヤニヤとした面白がる笑顔が乗せられている。

「まあまずは落ち着け。深呼吸だ。」

凛としろ、背筋を伸ばせ。そんな姿では舐められる。余裕を持て。

そんな指示が耳から脳に流れ込み、丁寧にひとつずつその通りにする。

目を逸らせ。目を逸らすな。

声を聞くな。声を聞け。

「それだけで良い。まずはな。」

目の前に来た三人を座りながら見上げ、静かに覚悟を決める。

うっとりと笑う二人の女王がまた一人の女王を生み出そうとしていた。

この場所が貸切になっていなければきっと有象無象が平伏し、頭を垂れて従うようなその光景。極楽でさえも霞むような絶景がそこにあった。

「ほら、連れてきたよ、やってみよっか?」

甘い蜜で象られた声が笑んで手を恭しく取る。指を絡め、引く。

お座敷から立たせ、腕を伸ばさせる。

甘美、耽美。薔薇が舞うような、桜が綻ぶようなそんな空間が生まれる。

哀れに巻き込まれた乙夜と愛空は奥に泣く閃堂を見て諦めと「まあアンリちゃんだし…」というほんの少しの期待を孕みながら立っていた。正しくは面白がったカイザーと士道が二人を固定していた。

「これはきちんと手首を固定するんだ」

「相手は男だ、遠慮なんざしないでいい」

「さあやろう?」それでもなお動けずいるアンリを見て

「…あぁ、そりゃあ最初にやるのは怖いよな?お手本な、あは、」

鞭を冴の手に戻す。その姿はようやく己の王冠を身につけた王の姿を幻視させる。

自分自身の許容飲酒量ギリギリまで飲んだ冴には全てを跪かせる傾国の佇まいがあった。

「ほら、見てろよ」


​───────喜ばしいことに、乙夜も愛空も犬にも土にもならなかった。

それは共にこの集まりに出席していた潜在マゾ犬が二人を押しのけたからだ。当の犬は利己的な目的で出ていったのだが、乙夜、愛空、アンリからすればその犬は救世主、もしくは英雄に違いなく。

いやはやそんなわけで色に狂ってしまったブルーロック出身者は居なかった。

しかし最初の目的は帝襟アンリに鞭を打たせ、女王としての風格を表に出すようにすること。であるからして、結局三人が逃げることは出来なかった。周囲に目を配っても目をそらされ、絶対にこちらを見ようとしない奴が大半だった。薄情なやつらめ、と内心舌打ちをしながらアンリの両隣を囲む。

目の前で優秀な選手が醜く侍るのを見て三人の目が死んだ。しかしアンリには目の奥にほんの少し好奇心が宿っている。

これでこそ女王よ。冴の見立てに狂いはないのだ。元よりエゴを持ちそのための研鑽を怠らぬアンリは本当に女王向きの人間だった。

ひとしきり終わった冴が三人に向き合う。無邪気に笑うその笑顔。

その下に蹲う犬は後ろからカイザーに蹴られ、遂には喜んでいる。

気持ち悪〜と考える乙夜と愛空を置き去りにしてアンリは立ち上がり冴とカイザーに近寄る。この近寄る、という行為が何よりの褒美と思う人間がいるのも頷ける色香が満ちる。それに臆さず、負けることなくアンリは花としてそこにいることが出来る。

冴に鞭を手渡され、それを握りしめたまま乙夜と愛空を向く。

「ほんと、ごめんなさい、でも 、やってみたいんです…!」そう言ってほんの少しの力でぺしり、と叩かれる。

力など一切入れていない。彼女は酒が入っても理性の果てしない場所にいた訳だ。

「やっぱり知り合いだと無理なのか?」

とカイザー。その後ろで

「じゃあ誰か呼ぶか」

と冴。いやむしろ例の慕ってくれている奴らの店に行ってやってもいいかなんて話が聞こえる。

一方乙夜と愛空はアンリの可愛らしさに身悶えていた。かわよ

それにやっぱり痛かったですか!?と焦るアンリ。そんなことは無いと否定する二人は「でもさっき一瞬マジでやられるかと思った」と慄いていた。

手首、力の抜き方、向き。一度教えられただけで冴の動きをトレースする彼女が、ほんのちょっと怖かった。


​───────

さてここから夜の歌舞伎町は地獄のような、それでいて天国のような様相を見せ始める。

仕方の無いことだ、見ただけで人を魅了させる人間が出歩いているのだから。

よく行く、というのはお姉様と慕う女性諸君に顔を見せてやるという意味合いが強い冴達はこうして急に行くことなど殆どない。が、今夜は特別。相手もそうだが、酔っているせいだった。

一つの店に入れば途端に囲まれ席に座ることになる。人望の結果がこれだ。酒を勧められ軽い酒を一、二杯呑んでから断りを入れ本題に入る。

「丁度いいやつを探している」なんて端的な話。しかしその一言だけで連れてこられた人間が幾人か。その中から酒を思うより飲まされ酩酊の気さえあるアンリが真骨頂を魅せる。

理性なんて消えたのだというように全てを蹂躙し、誘惑し、弄び、嗤う。それに群がる男の増えること。

冴はそれを見て後方で師匠の顔をして、カイザーはキャッキャとはしゃいで撮影した。

最終的にアンリは男女問わず褒美を与えてから冴とカイザーの元に駆け寄り、二人の傍に座って数分ほど話して、笑ってから寝た。

酔いと普段の疲れからソファに倒れ込み眠った。それを見て師匠らしい二人は車を手配し、待つ間にどうせだからと暇そうなやつに手を加えてやってから支払いをして車に乗りこみ家に帰った。


そして一夜が明ける。酔いもさめ、微妙なだるさと頭痛が襲うもののベットにきっちり収まっていた。ベットから起き上がりテーブルに置かれたスマホを見ればLINEにグループが出来上がっていた。

グループ名、「集い」端的がすぎる。メンバーを見ると自分の名前、ミヒャエル・カイザー、そして糸師冴。

ヒュッ、と息が詰まる。平素であれば絶対に渡さないであろう相手と繋がっている。酔った勢いとはいえ昨晩の自分の愚かさに目眩がする。

ヤケになって「おはようございます」なんて送ってみる。

数秒後、既読とともに一つの動画が送られてきた。

見てみると昨晩の店に行ってからの動画でそれはもう自分の痴態が見えて肩を落としてしまった。

やっぱり恥ずかしかったし、もう二度とやらないでおこう…


それでもこの後三人で話すそばに変態は寄り付くしつい上部に女王様ムーヴしてしまうが、まあそれは、後の話。

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