これがもし夢であるならば

これがもし夢であるならば


        ガチャ


サウザンド・サニー号のドアから誰かが出てくる音が、やけに大きく響いた。

その場の空気は引き締まり、全員が戦闘態勢に入る。

それもそうだろう、


コックはおやつを作り、

航海士、操舵手は船を操り、

戦闘員は昼寝をし、

船長と狙撃手と船医は笑いあい、

音楽家は旋律を奏で、

考古学者は資料を読み解き、

船大工は船の点検をしている。


こんな時に船室から誰か出てくるとすれば、侵入者以外には考えられない。

…しかし


「トラ男!?どうしたんだその傷!?」


出てきた相手は死の外科医・トラファルガー・ローだった。


ドレスローザでは同盟を組みドフラミンゴを討ち、

和の国ではカイドウを討った懸賞金30億ベリーの大物海賊…のはずなのだが、

「大変な傷だ…早く手当しないと!すぐに医務室へ!」

同一人物とはとても思え無かった。

全身の裂傷、打撲痕、火傷痕、胸元に執拗に刻まれたメスの後。

医務室に運ばれていく同盟相手を尻目に、電伝虫でハートの海賊団に連絡を取る。


『…ん? ああ!麦わらか!船長、麦わら         が呼んでるよ!』

『なんだ?麦わら屋』


その言葉を聞いたとたん空気が凍りついた。

なぜ同盟相手の船長が二人いるんだ?


『なぁ、何故呼びだし…は?おれが…そっちにいる?何を言っている』

        ガチャ

診察を終えた船医が報告を告げた。

「傷が、糸で切られたようになってるん だ!それと、うわ言のように誰かに謝ってるし、それに、それに…心臓に刺繍が施されてる!」

船医の言葉を聞き、こちらのローは絶望していた。

(一歩間違えればこうなっていたかもしれなかったのか…)

あちらのローはおぼろげな意識でこう思っていた。

(これがもし夢であるならば…現実からすこしでも逃げさせてくれ)


end

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