この苦しみがあなたの証明

この苦しみがあなたの証明







いたい


脳を締め付けられるような痛み。

肌に、骨に、釘を打ち付けられるような痛み。




くるしい


喉を誰かに締められるような苦しさ。

五臓六腑を搾られるような苦しさ。




きもちわるい


腹の内を撫でられるような気持ち悪さ。






ローの目覚めは最悪だった。


全身の痛み、倦怠感、寒気、痺れ、発熱、吐気、呼吸困難、眩暈、動悸、etc.


冷静に症状を浮かべてみるが、それで現状が好転するわけでもなく、鉛のように重い体を無理矢理起こした。

ベッドについた手が、上半身を支えた腕が、骨が、関節が、ズキリと疼く。



もはや慣れたその痛みを無視して、ふらつきながら床に足を下ろす。

いつも通りのヒールの高い靴を履き、ふ、っと小さく息を吐いて、勢いをつけて立ち上がった。体重を支える足裏が、膝が、全身が痛い。グッと腹に力を入れれば、内臓が声なき悲鳴を伝える。

ヒュッと喉から音が鳴る。意識して細く息をして黙らせる。どこかふわふわとする脳を強引に働かせ、勝手に震える体を押さえつけ、いつも通りを過ごす。

一歩踏み出すごとに、その僅かな振動を感じるたびに、体が限界を訴える。

今日は一段と酷い。





月に1〜5日ほど。程度の違いはあれど、似たような症状がローの体を蝕んで行く。



これはローが幼少の頃に遡る。


とあるオークションから死に物狂いで盗んだオペオペの力で妹の体を蝕む珀鉛を取り除く。そう決めたは良いものの、やはり未知の力をいきなり妹に行使するには不安が残った。

そこでローは己が身を実験台とし、盗んだ医療器具を使って治療実験を開始した。

オペオペの力で珀鉛の溜まった肝臓を抜き出し、一部が白く、硬くなった臓器にメスを入れた。


その頃のローはまだ"切断"を扱うことができず、痛みなく内臓を取り出せた為に、麻酔を使わずともどうにかなると楽観的に考えていた。

結果的に手術は成功したが、幼少故の実力不足と、地獄のような痛みの為に、今なら信じられないような雑な処置だった。

必要以上に切り裂かれた臓器は歪で、震える手で行った縫合も不恰好で、縫い目がキツかったり緩かったりと、目も当てられない状態だった。

こんな処置を妹に施すだなんてできない。

それからローは技術向上に励んだ。

具体的に言えば無防備に寝転がる浮浪者から内臓を抜き取り実践を積んだ。

妹のためならば名前も知らないろくでなしがどれだけ犠牲になろうと気にならなかった。

下手くそながらもオペを施した自分の体は、随分と楽になった。今はボロボロにされた肝臓が一番痛かった。

早く妹を楽にしてやらねば。

その一心で、ローは浮浪者を殺してその内側を弄り回した。

そうして腕を上げたローは、今度はきちんと麻酔を用意して妹に手術を施した。

珀鉛病が末期まで進んだ妹は、肝臓だけでなく、ほとんどの臓器に白が見受けられた。

能力で事前にそれを理解していたローは、自身の肝臓以外の綺麗な臓器と妹の臓器を交換し、妹の臓器は白い部分を取り除いてからローの体に嵌め込んだ。

妹の手術は危なげなく成功した。

心なしか眠る妹も穏やかに見える。

その日から眠る妹が泣き呻くことはなく、穏やかな寝顔で、後は目覚めるのを待つのみとなった。




妹が死んだのがそれから数日後。

オペオペを盗まれたオークションの者達が、ローの居場所を突き止め火を放ったのだ。

その時ローは食料調達に出掛けていて助かった。しかし眠っていた妹が逃げられるわけもなく、ローが戻った時には、潜伏していた空き家を中心に辺りは火の海になっていた。







それから数年。

スラムのゴロツキを率いて、本格的に世界転覆に動き始めた時だった。

突如ローは倒れてしまった。

心配する仲間を退け、能力で体の中を覗いた。そうして分かったのだが、どうやら小さな頃の雑な手術では、珀鉛を完璧に取り除くことができず、極微量で命に支障はないものの、残った珀鉛がその身を蝕んでいるようだった。

それからその症状は悪化し、初めは年に数回程度、風邪のような症状が現れるだけだったのが、今では月に数度、常人ならば死を選ぶだろう苦しみを伴って襲い掛かる。


しかしローはこの苦しみが嫌いではなかった。

これは唯一残った妹、ラミとの繋がりだった。

肝臓はもちろんだが、ラミと交換した内臓にも、何箇所か取り残しがある。

ローは今更それを取り除こうとも、ましてや妹の臓器を切り刻もうとも思えなかった。

ヴェルゴからは適当な健常者の内臓を奪えば良いと言われた。

しかしローは決してそれをしなかった。


この苦しみは罪の証。

死を拒んだ罪。

命を弄んだ罪。

独り生き残った罪。

妹を独りにした罪。

今は亡き妹が、自身の内側からその存在を主張するようだと思った。ローへの恨み言か、どんな罵詈雑言かもわからないが、それでもこの苦しみを、愛おしく感じてしまうのだ。







シワひとつない神父服を着込む。黒い衣服がその身を包み、羽織ったローブが微かな震えを包み隠す。耳に金のピアスをぶら下げ、クローゼットに取り付けられた姿見を見れば、いつも以上に青白い顔がローを見つめていた。目玉は僅かに充血し、唇からは血の気が引き、何処かやつれたような印象を受ける。

誰がどうみても絶不調。

鏡台の引き出しを空け、中から幾つかの化粧品を放り出す。それを不自然にならない程度に塗りたくれば、凡そいつも通りの顔になる。




コンコン




いつも通りの時刻に、ヴェルゴが朝食に呼びにくる。そしていつも通り、ローの不調を察して眉を顰め、しかしその意思を尊重して何も言わずに少し後ろをついて歩く。



「おはよう」

「「「おはようございます!!」」」



食堂に入れば、ファミリーが明るく返事を返してくれる。

その大声が脳を揺らすが、それに気づくのは相棒だけ。

いつも通り上座に座り、皆で手を合わせ、いない神に祈りを捧げ、カトラリーに手を伸ばし、いつも通り、妹の胃に、好物だったスクランブルエッグを流し込む。


さぁ、いつも通り。

世界を破滅に向かわせよう。











設定


時間軸としてはラミと再会する数日前。

今まで大人しくしてたけどじわじわと名を上げ始めて懸賞金が上がってきた頃。





トラファルガー・ロー

体も心もボロボロ。DR編の頃には元気な日の方が少ないぐらいまで悪化してる。

長生きはできない。するつもりもない。でも妹の存在を感じて嬉しいので無問題。

ラミが好きだったので朝食はスクランブルエッグとジャムパンがメイン。ラミの胃だからとできるだけラミの好物を摂取してる。本人的には美味しいとも不味いとも思ってない。

ラミの内臓だからタバコとかクスリとか体に悪いものは避けてる。肝臓は自前だけどボロボロなので酒を飲んだら最悪死ぬかもしれない。





トラファルガー・ラミ

フレバンスから逃げてる時は意識が朦朧としてて当時のことはほんど覚えてない。

この世界線のラミは原作コラさんみたいにタバコ吸って酒がぶ飲みしてローと正反対の事してる。ローとしては元気そうだけどちょっと心配。ローが嫌いなパン食べたりタバコや薬拒否する理由を聞いてるヴェルゴからは恨まれてる。ローの手術が完璧だったのでラミはローみたいな症状は出てない。




ヴェルゴ

ファミリーで唯一ローの体調不良を知っている。本当はゆっくり休んで欲しいけど、ローが頑固なのもよく知っているので、何かあればいつでもフォローに入れる場所にいるようにしてる。ローの手前、あからさまな敵対はしないけどラミの事は大嫌い。






Report Page