この後めちゃくちゃ甘々セッして王妃になった

この後めちゃくちゃ甘々セッして王妃になった



 能力を解くと、手を床に拘束していた氷がシュウと溶けて行く。コビーの目は虚で虚空を見つめていて、意識も曖昧だ。下腹部はクザンのモノを引き抜いた後でもぽこりと歪に膨れていた。涙の跡がくっきりと残って、未だ乾かずに濡れている目尻や頬を撫でる。その動きにすら、コビーは反応しなかった。クザンは冷え切った腕を掴んでコビーを抱えようとする。水場に連れて行って、体を綺麗にしてやらなければと思ったからだ。

 その時に聞こえた、小さな小さな名前。

「……てぃ、ち…………」

 それは、恐らく無意識だったのだろう。今のコビーに意識は無いに等しい。無意識に、黒ひげを求めていたのだろう。クザンの中で、ぶつん、と何かが切れる音がした。

「イ゛、ッ、!!」

 思い切り肩を押さえ付けたその拍子に、ぱきぱきとコビーの肩や腕が凍って行く。痛みと冷たさでコビーの意識が引き戻されたのか、虚だった目がクザンを捉えた。怯えを隠そうともしない目。そんな目を、黒ひげには向けないくせに。コビーは真っ青な顔でがたがたと震えて、大粒の涙を流す。

「ご、ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさい!! やだ、いやです、もうやだ、やだ……っ、ゆるしてくだざい、ゆる、っ、ぅぶ」

 訳も分からず謝り続けるコビーの口を塞いで、ぐっと顔を近付ける。

「そんなに、ティーチが好きか」

 そう問うた声は、自分が思っていたより低く。コビーは目を見開いてぶんぶんと首を振ろうとする。嘘を吐くなと、クザンは嘲笑った。

「なら、なんでティーチに縋るんだよ。あいつは海賊だ、海兵が海賊に縋るなんてあっちゃいけねえと思わないのか?

 分かってるだろコビー、ティーチがどれだけ屑で下衆で、外道な奴かなんて。お前がどれだけティーチを好きでも、ティーチはお前をただ利用するだけだ」

「……っ、……」

「それでも、ティーチに縋るんだな?」

 ぼろぼろと、コビーは涙を流す。クザンは手を離した。氷が解けて行って、コビーは体を丸めて震えながらしゃくり上げている。自分が強く掴んだ跡、流れたままになっている白濁。クザンはどろりとした心中のまま、その場を去った。コビーの啜り泣く声が、ずっと耳にこびり付いていた。




*****




 コビーが目を開けると、映ったのは見慣れない景色だった。牢屋の冷たい石で出来た薄暗い天井では無く、天井からぶら下がっている電球が明るく照らしている、そんな景色だった。夢でも見ているのかと思いながら体を起こす。身体中が鈍く重たいのに、すっかり慣れてしまった。辺りを見回して、コビーが眠っていたのは巨大なベッドの上だという事にも気付く。ここは、どこなのだろう。

「おう、起きたか」

 声が聞こえてそちらを見れば、そこには黒ひげがベッドの上に座っていた。確かにこのベッドはコビーにとっては巨大だが、黒ひげには丁度良いサイズだ。部屋の中、ぎっしり本の詰まった本棚やごちゃごちゃと散らかった机が見えた。

「ここは……」

「おれの部屋だ」

「……黒ひげの……」

 何故牢屋では無く、黒ひげの部屋に? 今までずっとあの牢屋の中だったのに。その疑問を口に出すより先に黒ひげの手が伸びて来たかと思えば、コビーはひょいと持ち上げられ、黒ひげの膝の上に座らされていた。肩を抱かれ、手のひらを摩られる。まだ冷えてるな、と黒ひげが呟いた。こうして黒ひげと触れ合う時間は、初めてでは無い。寧ろ安堵すら、コビーは抱く様になってしまっていた。

「また随分クザンの奴に虐められたみてェだな?」

「っ」

 黒ひげが出した名前に、びく、と肩が跳ねた。


 コビーにとって、クザンは尊敬する兄弟子だった。ガープの弟子という繋がりで、クザンが海軍に居た頃幾度か話した事がある。のらりくらりとした人だけれど実力があって、いつか同じくらい強くなりたいと思っていたものだ。けれど───今のコビーにとって、クザンは恐怖の対象でしか無かった。

 初めて、クザンに身体を暴かれた時。苦しくて、何よりクザンから伝わって来る憎悪の感情が恐ろしくて。身体も心も痛くて、ずっと泣き叫んでいた。気絶して、目を開けた時には同じ様に自分を組み敷く黒ひげが居て。きっともっと恐ろしい目に遭うと思った。恐ろしくて仕方なくて、呼吸の仕方を忘れた時。黒ひげは、焦った顔で大丈夫かとコビーの背中を摩った。同じ様に身体を暴かれはしたけれど、痛みは、無かった。冷えた手や体を労る様に撫でる大きな手に、安堵を覚える様になっていた。

 以来、黒ひげ以外の幹部達もコビーと「そういう事」をしに来た。暴力的なものも幾つかありこそしたが、誰からも憎悪なんて感じなかった。ただただ快楽を求めているだけで、コビーはいつの間にかその快楽に溺れる様になっていた。これはいけない事だと知っていたから、抵抗はした。それでもやっぱり、すぐに、流されてしまった。だからこそ、時折やって来るクザンが怖かった。自分をそれだけ嫌って、憎悪をぶつけて来る彼が。


「あいつも面倒臭えよなァ」

「……?」

「まあ、クザンの事は良い」

「ぁ、……ん、ふあ、あ」

 手のひらを摩っていた手が、身体をなぞる様に移動して頬に触れた。そのまま顔を固定されて、黒ひげの唇が重ねられる。分厚い舌が口の中を一方的に蹂躙して、かと思えばコビーが呼吸をしやすい様に唇が少しだけ離れて行く。肩を抱いていた手は、いつの間にか腰を撫でていた。ぞくりと、快感が背筋を上っていく。まるで捕食されている様な口付けが、いつの間にか、コビーは好きになっていた。

 クザンとの行為は、恐ろしくて仕方なくて。

 幹部達との行為は、ただただ気持ちが良くて、快楽に溺れられる。

 黒ひげとの、行為、は。

(……そう、いえば。

 いつから、くろひげとだけ、こういうこと、するようになったんだっけ)

 ふと、思い出してみれば。いつの間にか、あの牢屋の中で体を重ねていたのは、黒ひげとだけになっていた気がする。恐ろしくは無く、快楽に溺れるものともまた違う。不思議と心地の良い行為。黒ひげに触れられる事に安堵を覚えてしまっているのは、多分。初めての後に自分を労ってくれたから。ただ、それだけ。それだけだとしても───黒ひげの手に触れられるのを、好きだと思ってしまう自分がいた。

「コビー」

 どさ、とシーツの海に押し倒される。黒ひげは目を細めた。

「ピサロ達から聞いたが。お前、ここから逃げようとしたらしいな?」

「……っ、ぁ、……ご、ごめ、なさ」

「いや、別に怒ってる訳じゃねェ。まあそのまま逃げられてたら話は別だが、今ここにお前が居る訳だからなァ」

 顔を青くして、浅い呼吸になりかけるコビーの頬を撫でながら、黒ひげはわらう。

「あの英雄ガープが助けに来て、それでもお前を助ける事は叶わなかった。海軍がお前を助けに来る見込みは、もう無ェだろうな」

 コビーの中でも、それは分かっていたし。黒ひげの言い方が、ただ淡々と事実を並べるだけの、コビーを追い詰める為の言い方では無かったから。案外、コビーの心中は冷静だった。

「そして、コビー。お前はもう逃げようともしねえだろう。見せしめにヤられたんだってな?」

「…………」

 その時の事を思い出して、コビーの手が震え出した。親友や、尊敬する師の前で犯された事。あんな醜態を見てしまっては、きっと。ヘルメッポやガープは、自分を見限ってしまっただろう。

「ま、アイツらにはちゃんとキツく言っといてやったから、もうあんな事は無ェさ」

「……そう、ですか……」

「さて、コビー」

 黒ひげは、震えていたコビーの手を取って手の甲に口付けた。まるで恋人同士の様な行為に、コビーは首を傾げる。

「お前に一つ提案だ」

「……提案?」

「ああ。この黒ひげ王国の、妃にならねェか?」

「…………は、い?」

 目の前の男の言葉が飲み込めず、コビーは眉を顰めて聞き返した。妃、と、言ったのか。目の前の男は。

「僕、男ですけど……」

「ドクQの能力に、女になる病があってな。それがありゃ何も問題無え。ちゃんと内臓も女になるし子供も産める」

「……」

「あのロッキーポート事件の英雄が女になって、黒ひげ王国の妃になる。これ以上の衝撃は無ェと思わねえか?」

 黒ひげは楽しそうに笑っている。その姿に思い出す、クザンの言葉。ああ、そうだ。その通りだ。自分がどれだけ想おうが、目の前の男は、自分を利用するだけ。分かっている。コビーは目を閉じて、逡巡して。口を開いた。

「……あなたの妃になったら……市民の方々には、絶対、何もしない、って、約束してくれますか……」

「あ?……ああ、そうだな、約束するさ。……にしても」

黒ひげはくつくつと笑い出し、最終的には大きな声で笑い出した。ゼハハ、と空気を震わす声に、コビーが何事かと思っていると。

「そういう所に惚れたのさ、コビー。馬鹿みてェに真っ直ぐで自分の事は二の次で───こっちだって利用してやろう、そう考えて動く事が出来るくらいには賢い所にな」

「……は、……惚れ……?」

「世界に与える衝撃のデカさも勿論あるがな、コビー。何よりの理由がある。

 せっかくのおれの王国だ、妃にするなら、心底惚れ込んだ奴が良い。そう思うだろう?」

「……僕のこと、好き、なんですか?」

「多分な。少なくとも王妃にして、おれの側に置いておきてェくらいには」

 黒ひげはコビーの髪をそっと撫でる。普段の様子からは信じられないくらい、優しく労る様な手付き。


 ───もう、ここ以外の場所なんて無い。

 ───もう、海軍には戻れない。

 ───もう、夢は、潰えてしまった。

 ───それなら、この場所で。自分に惚れ込んだのだと言った、目の前の男のものになって。被害が少なくなる選択を選んだ方が、ずっと良い。


 コビーは黒ひげの左手の薬指、そこにはまっていた指輪に唇を落とす。自分の顔程はある手のひらに擦り寄って、微笑んだ。

「ティーチ」

 快楽で、前後不覚では無い状態で。譫言の様に、では無く。コビーは初めて、黒ひげの名前を呼んだ。それが、彼の言葉への返事だった。



(この後幹部達に妃になる事を説明して女体化)


(脳破壊されるクザン)


(そして世界は混沌へ───)

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