この後めちゃくちゃ片付けた
パチンパチンと小気味良い音を鳴らしつつも優しく背中をさすってくれる少女相手に、吐き戻しつつもオロは内心であらん限りの感謝をしていた。
敬愛するウルキオラ様の敵討ちさえ満足にできないこのか弱く繊細で儚い虚をここまで気にかけて世話してくれるとはなんて優しい人なのだろう、と。
「ぅえ、すみません……」
「体質ならしゃあないよ、アタシも体弱かったから自分でどうにもできひんことはわかるし」
「なんと慈悲深い……それに比べてなんて非道なんだ黒崎一護……」
「言っとくけど俺が出たやつ切ってなきゃこの中全部虚でミチミチだからな」
屋外に出され結界を張られた時はこの世の終わりのような顔をしていたオロが、危害を加えられないとわかると途端に威勢だけは良くなったことに一護は呆れ返る。
少し前まで命乞いをしていた相手を持ち上げて、もはや形ばかりになっている敵討ちの相手を扱き下ろす姿は肝の太さだけならヴェストローデ級だろう。
吐き戻す側からパチンと鳴らされた音と共に結界に包まれ小包のように梱包された首が転がる状況で慈悲深いもなにもないだろうが、口から出た同胞よりも自分に優しい事の方が重要なのかまるで気にしていない。
何体目かの残骸に斬魄刀を振り下ろしながら、死神はゲロの解体業者じゃないんだぞという感情を一護は強くした。被害を最小限にしている平子に文句は言えないが発生源の虚には文句の一つも言っていいだろう。
「さっきから聞いていたが、君は平子さんのことを知らないのか?」
「なんだ?そんな気になることでもあったか?」
「その虚の話だと井上さんが連れ去られる前くらいに虚夜宮を出たんだろう?ならその前に連れ去られた平子さんとは面識があってもおかしくない」
「アタシほとんど部屋から出れんかったからそれで知らんのやない?」
結界外の外野の声に、藍染様が拐うほどの逸材なのかとオロは身を固くした。それならばその気になれば簡単に自分などどうにだってできてしまう。
というかそもそもこれだけの結界を張れる相手に自力で勝負を仕掛けたところで十割超えて百割負ける。負けたあとの事は知ったことではないが負けるものは負けるのだ。
「ひぇ、そんなお強い方とは知らずに……」
「アタシはそんなでもないよ、アンタの言うウルキオラ様に首根っこ掴まれて連れてかれてしまったくらいには非力やから安心し」
「それはむしろ羨ましい……」
それでいいのかのツッコミはそれぞれの胸にしまわれた。興奮してまた吐かれたら大変だという気持ちが手に取るように感じられる。
「確かに霊圧もほとんど感じないし、慈悲深くともか弱い方なんですね……」
「霊圧感じひんのは義骸のせいやと思うけど」
「というかお前は平子をなんだと思ってるんだ?俺みたいな代行じゃなくて本物の死神だぞ?」
「えっ?」
一護の言葉にオロが目を見開く。死神と言われてもよく見る死神の格好もしていないし、刀を手に持ってもいない。感じられる霊圧も不自然なほど感じられずまるで普通の人のようだ。
それでもこの限られた広さの結界の中に虚一人と死神(代行も含む)二人、なにも起きないはずもなく……。というところまで無駄に想像力豊かに勝手に想像した。
「これは命の危機なのでは……?」
「殺さへん殺さへん、安心し」
「本当ですか?なんて優しい……それに比べて不安を煽るとは、おのれ黒崎一護……」
「なんでだよ」
もはやコントのようなやり取りに最後の吐瀉物と言う名の虚を切った一護は大変にげんなりした。よく平子はこんなやつの相手をできるなと頭に「年の功」という単語がよぎる。
そんなことを言うと怒られるよりも自分が赤ん坊かのような扱いをされそうだったので口を噤んだ。あと結界の外で見ている石田が文句を言いそうなのでそれもある。
「でもよく無事でしたね、私なんかよく殴られて吐いていたのに……」
一護の様子など気にかけることなく、吐いて楽になったのかオロの調子は良くなったようだ。心なしかコミニュケーションを取ろうと話す言葉のトーンも明るい。
結界の見事さを思えばそれで身の安全を確保していたのかもしれない。そう考えるオロを見て、大変に言いづらそうな顔をし逡巡しながら平子は口を開く。
「……ほら、アタシはあの、藍染ってやつの娘やから」
オロは嘔吐した。