ここだけ10年早く生まれたルフィ×RED その2

ここだけ10年早く生まれたルフィ×RED その2

第三帝国


あと数日でライブ、新時代が始まる。

ライブが始まる前にファンが来ることは想定していたし、

歓迎しない人たち・・・海賊が来ることも想定していた。


大抵の海賊は私の歌で眠らせてしまえば解決できた。

けど、今回はどこで知ったのか知らないけど歌への対策をしていた。


・・・歌以外は無力な私は囲まれ、

追い詰められ、心が挫けそうになった時、

突然”彼”が現れ海賊たちを瞬く間に蹂躙した。


「二度と!!来るんじゃねぇ!!分かったか!!!」

「ひ、ひぃいいいいいい!!??」


たった1人で数十人もの海賊をなぎ倒した”彼”の怒声に、

私を攫おうとした海賊たちが恐怖に慄き、我さきへと逃げ出した。


「えっと・・・ありがとう、ございます」


・・・誰かは知らないけどお礼は言わないと。


「ありがとうも何も、

 おれはお前の副船長だからな。

 それよりもなんで抵抗しなかったんだウタ?

 ウタならあの程度の海賊なんて余裕で殴り倒せるだろ?」


・・・んっ?歌姫じゃなくて副船長?それに殴り倒す?


「えっと・・・?副船長?

 殴り倒す?・・・その貴方、何の事なの?」


「いや、ウタならそのくらい余裕――――んん??」


振り返った”彼”がまじまじと私を見ている。

余裕が出来た私も”彼”の姿をよく観察・・・って!!


「・・・っ!貴方も海賊なのねっ!!?」

「・・・はっ??」


髑髏マークの三角帽子、黒マント、腰布、サーベル。

そう、よく見れば”彼”もアイツらと同じ海賊じゃないの!!


「待て待て待て、ウタ!!おれだ!ルフィだ!

 フ―シャ村のルフィ!モンキー・Ⅾ・ルフィだ!!」


「・・・なんですって!!」


”彼”は私の幼馴染の名を語った。

けど、あり得ない・・・どう見ても年齢が合わない。

だとすれば油断を誘うため・・・しかも、私の幼馴染の名前を騙るなんてっ!!


「・・・っ、残念ね海賊!

 どこでルフィの名前を知ったか知らないけど、

 本物のルフィは私より2歳年下・・・まだ19程度よ!」


「へ???・・・お、おれの方が、

 ま、まさかの年下ぁああああああ!!?

 ああ、クソ!道理でおれが知るウタと全然違う訳か!

 何て説明すれば・・・待て、ウタ!おい、ウタ、そのマーク!!」


「マーク?」


語り合うつもりはなかったけど、

”彼”の視線はアームカバーのマークに釘付けだった。


「それ、麦わら帽子だろ!新時代のマーク!!」

「・・・・・・っ!!?」


空虚な12年、独りぼっちな12年。

それを唯一支えてくれた大事な想い出と記憶。

ルフィと私が交わした約束を、どう、して・・・。


「なんで・・・?知ってるの?」


「・・・信じなくてもいい、

 何だっておれも信じられないんだからよ。

 おれは・・・違う世界から来た”ルフィ”らしい」


「・・・・・・・・・」


”違う世界のルフィ”なんて信じられないけど・・・。

アームカバーにあるシンボルを知っているのはルフィと私だけ・・・だから。


「じゃ、じゃあ、さ。

 仮にさ、本当にルフィなら、さ。

 私が誰の娘なのかぐらい、知って・・・いるよね?」


声が震える・・・緊張で、胸が、痛い。


あの日以来、口にしなくなった事実。

あの日以来、誰も知ることがない事実。


信じて・・・いいよね?


「・・・赤髪海賊団の音楽家で、

 シャンクスの娘に決まっているだろ、ウタ」


「~~~っ!!?」


ファンの誰にも言っていない事実を”彼”は言い当てた。

迷いなく、当然とばかりに言った。


「本当・・・なんだ、貴方、ルフィなんだね・・・」


「まあ、な・・・。

 おれとウタが出会ったきっかけは・・・。

 シャンクスがお前を・・・ウタを連れてフ―シャ村に来たからなんだ。

 その時おれは17歳、ウタが9歳の時だったんだけど・・・違うんだろ?年齢が?」


「・・・うん、その時ルフィは7歳ぐらいだった」


「7歳かあ・・・10歳違うんだ、そっちの”おれ”と」


「そう、なるよね・・・うん」


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・」


お互い沈黙してしまう。

気まずい・・・どう、しよう?


「なあ、ウタ?今は何をしてるんだ?」


「えっと・・・歌手に、

 世界の歌姫って、呼ばれているけどそっちは?」


「海賊をしながら歌姫をしているな。

 船長はウタ、おれはその副船長をしている」


「海賊・・・」


”如何にも”な姿をしていたルフィだったから、

予想はしていたけど・・・心が、痛い、痛くて痒い。


――――羨ましい、なぁ。


「ああ・・・これは、言い訳になるけど、

 ウタは兎も角、おれとしては海賊になるのは反対だったんだ」


・・・へ?海賊になるのを反対していたぁ!!?


「えっ!?ルフィが!?

 海賊になるのを反対したの!??

 私が知るルフィはシャンクスに憧れて海賊!海賊!って言っていたけど」


「にしししし!!

 ”そっち”のおれはそんな感じだったのか!

 実はな、ウタと出会う前は海軍の将校だったんだ、おれ」


「・・・・・・っはいぃ!!?」


え・・・あれ、あのルフィが海軍!!?

幼い時、海賊として大きな事を成すと確信したルフィが海軍ですって!?


「か、海軍ぅ!!?

 嘘でしょ!似合わない!!」


「しししし、”おれのウタ”からも言われたな、それ!!」


ルフィがお腹を抱えて大声で笑った。

どうやら世界が違えど”ウタ”の見る目は変わらないようだ。


「ともかく元海兵のおれとしては、

 ウタがカタギの世界で活躍するのを期待したんだけど・・・。

 権力者連中がウタを愛人やら、奴隷やらと企んで来やがったんだ・・・」


「・・・っ!!」


配信でファンたちが海賊以外に苦しんでいるのは知っていた。

けど、まさか、自分がその対象になるなんて・・・。


「・・・だから、海賊になったの?」


「ああ、そうだ。

 ウタの歌を世界に届けるには、

 海賊になるしかない――――だからおれは海賊になったんだ」


信念がある、迷いがない瞳。

説得なんて無理なのはわかっているけど、

”海賊嫌いの歌姫”として問いただせねばならない。


「”私”を守ってくれているのは理解できるけど・・・。

 酷い事をされるからって、自分が酷いことをする側になるのは、よくないと思うんだ」


「おれの”船長”はそんな事をしないし、許さない。

 もしも道を踏み外すような事をすれば、おれは副船長として止めるだけだ」


「そう・・・」


やっぱり、無理だ。

そもそも2歳年下のルフィ相手に私が敵うはずがなかったし、

ましてや8歳年上のルフィに勝てる見込みなんて最初からあるわけない。


「なあ、ウタ。

 さっきから、お前変だぞ?」


「へ、変って・・・?」


「だってよぉ、さっきから”海賊が嫌い”みたいな態度だし?」


「っ・・・そ、それは」


言えない、言えるはずがない。

私の信念は偽りで、語るに相応しい身分ではないのだから。


「・・・いや、やっぱ辞めた」

「っえ・・・なんでっ!?」


・・・・どうして?


「だってさ、

 そんな辛い顔をしているウタにさ、

 無理やり話を聞くなんて、おれにはできないさ・・・」


悲しげに、慈しむようにルフィは語った。


「そんな顔、していたつもりないんだけど・・・分かるんだ」


「まあな、こっちじゃ付き合いが長いし、

 おれはウタの副船長で、恋人で、将来の婿殿だからな」


ルフィの気遣いに心が痛む。

二重の意味で罪を犯した私に優しくされる資格なんて、ないのに・・・。


・・・ん、んんん?


「ねえ、ルフィ?

 今さ、”恋人”とか”婿殿”

 って聞こえたけど・・・その、えっと?」


歌姫だから聞き間違えなんてない。

けどさぁ!!いや、でも、だったさぁ!!?


る、るるるる、ルフィと、その・・・あの、えっと。


「あ―――・・・うん、実はなウタ。

 ”こっち”のウタは自分から船を降りたんだフーシャ村に」


へ、へぇ・・・”そっち”の私は自分から船を降りたんだ。

ルフィの話からすると年齢は私と同じなのに大胆だなぁ・・・。


あっ、でもこの流れは、まさか・・・いや、でも。


「理由は・・・その、なんだ、

 おれに、ゴホン・・・一目惚れしたからなんだ」


・・・・・・はい?


「えっと、一目惚れ?」

「そう、一目惚れ」


・・・・・・・・・。


「・・・・・・ひ、一目惚れぇええええええ!!!?」


な、ななななな、嘘でしょ!!?

私、ルフィに一目惚れして船を降りたの!!?

いやいや、私じゃなくて”そっち”の私だ、うん!


でも、私がルフィに・・・!?

あのルフィよ!ルフィ!によ!!?


「あのさ、ルフィ、私は何歳の時に一目惚れしたの?」

「・・・ウタが9歳の時だ」


”そっち”では確か年齢差があって、

私が9歳に対してルフィは17歳だからっ・・・えぇ!!??


「9歳の女の子が17歳の男の人に押しかけ女房したのぉ!!?」

「・・・・・・まあ、そうなるな」


”まあ、そうなるな”じゃないわよ!!

何考えているのよ”そっち”の私は!!?


というか、


「シャンクスは!?シャンクスをどうしたのよ!?

 ”俺の娘を嫁に貰うなら命を懸けろよ!”とか言い出して駄々こねるでしょ!!

 挙句、色んな言い訳をして絶対認めないでしょ、あの大人気ないシャンクスなら!!」


本当にそれが一番謎だ。

”そっち”の私は一体全体どんな魔法を使ったんだろう?


「よく分かってんなぁ、ウタ。

 実際、シャンクスも随分駄々こねたさ。

 でも、ウタを海賊とは関係ないカタギにしたがっていたんだ。

 だから元海兵で、シャンクスとは顔見知りだったおれにウタを託したんだ」


シャンクスはカタギにしたがっていた、か。

そっか、でも、私は・・・私はっ!!


「っ・・・私はずっと一緒にいたかったのに!!」


私はそんな事、望んでいなかったのに!!


「・・・ウタ?」


「あっ、ご、ごめんなさい、

 ”そっち”の話だったよね、うん・・・」


怒鳴ってしまった。

違う世界の私の話だったのに・・・。

怪しまれるよね、こんな事をすれば。


「・・・なあ、ウタ。

 さっきは聞くのを避けたけど、

 やっぱりシャンクスと何かあったのか?

 というか、今更だけどここはどこだ?廃墟だし?」


「・・・・・・・・・」


ルフィの問いかけに俯いてしまう。

このルフィは優しいし、頼りになる。

話すのがきっと正しい選択肢なんだろう。


けど・・・言えない、言いたくない。

怖くて、言えない。


「ごめん、なさい・・・。

 ルフィ、今は、言いたく、ない、かな」


本当に、ごめんなさい。


「・・・ん、そっか分かった。

 無理に聞いて悪かったな、ウタ。

 でも、話したい時は迷わずおれに話してくれないか?」


「うん、そう、する・・・」


・・・やっぱりルフィは凄い。

だから”私”は船を降りて、このルフィと一緒にいることを選んだんだろう。



ぐきゅ~~~~。



空気を読まず突然鳴り響く空腹の音。

鳴り響かせた人物は・・・。


「悪ぃ、ウタ・・・・その、腹減った」


腹の音の主はルフィだった。

恥ずかしそうに赤面している。


「ぷ、あは、あはははははは!!

 な、何よそれ!!大人になってもそんな音鳴らすんだ!!」


「し、仕方ないだろっ!!?

 おれは船乗りだから、食い物は山ほど食べなきゃ身がもたねぇ!!」


「ひひひひひ、あはははは!!

 で、出た~負け惜しみ~~~♪」


「ま、負けてなんかねぇ!!」


響き渡る笑い声。

とても懐かしい感情の発露。


演技なんかじゃなく、

心の底から久々に笑った気がした。






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