かんざし

かんざし


【注意書き】

・CPはジャック×🥗ホーキンス

・ドレ→→→→🥗ホー要素もあります。

・ドレークが少し大人気ないです。




ジャックの窮地をホーキンスが救ってから、ジャックはホーキンスを意識する様になった。本人は気付いていないが、その様子は周囲にはばればれだった。

金のウェーブのかかった柔らかい髪、動作や振る舞い方は、ジャックがこれまで見た事の無いタイプの女性だった。淑女とはまさに、彼女の様な人の事を言うのだろう。ガサツな女性クルーが多い百獣海賊団の中では、彼女のような存在は浮いている。その物珍しさも相待って、余計意識してしまう。

彼の抱くこの想いは純愛だ。しかしジャックの兄御達、キングとクイーンはどうしたものか邪な考えしかない様だった。

「無理矢理抱けばいいだろ。抵抗するなら拘束しちまえ」

「なんなら感度3000倍の媚薬作ってやろうか?」

と彼等に言われた事もざらにある。もちろん断った。しかも中々2人きりになる事が出来ない。ホーキンスはドレークと行動する事が多い。更にドレークはジャックが彼女を意識している事を知っていて、あえて彼女の隣にいる。彼もホーキンスに好意を寄せている1人。取られたく無いのだろう。その態度にジャックとて一発小突いてやりたくなった。あのむっつりアルサウルスめ…。また、ドレークが居なければ彼女の海賊団のクルーが周りを固める。というか、彼女のクルー達は彼女に邪な目を向ける者に常にガン飛ばししており、警戒していた。末端の部下には手を上げる程。それだけ彼女を大切にしている事がわかった。故に彼女に中々近付けなかった。

そんなジャックを気にかけてか、カイドウが粋な計らいをしてくれた。なんと今度、2人で見回りに出かけろと命令が下った。もちろん、ジャックは嬉しさのあまりガッツポーズをした。しかしその後、何を話していいか分からず、動揺してひたすら庭の草を刈った。

「気になってる女と上手く話せる方法?」

ジャックは何故かページワンに相談していた。というのも唯一まともに相談出来そうな相手だったからだ。

「んー…俺もあまり経験はないから何とも…。姉貴はあんなだし」

「すまん…」

「とりあえず、趣味の話とかどうですか?」

「俺の趣味草刈りだぞ。ホーキンスは聞いた所だと入浴とインテリアだし……」

「にゅっ!?」

入浴という単語を聞いて、ページワンが顔を赤くしながら大きく跳ねた。邪な妄想をしかけた所で勢いよく頭を振ってその考えを払拭する。

「…なんか、趣味の話は続かなさそうですね。じゃあ…好きな食べ物とか」

「ホーキンス…肉、苦手なんだとよ」

「あー……」

場の空気が静かになってしまった。どうすれば良いのだろうか。何も良いアイディアが浮かばない。

「無理に話そうとするんじゃなく普通の日常的な会話でいい気もしますがね。…あ、そうだ。相談の内容と少しずれてしまうかもしれないですが…ホーキンスに、何か贈り物を贈ってもいいんじゃないですか?」

「贈り物?」

「高すぎず安すぎない物を贈るのはどうです?あいつ、入って早々に真打まで登ってるし、ちょっとしたお祝い、みたいな感じで渡すのは…」

「…いいかもな」

流石ページワン。唯一しっかり話を聞いてくれる。しかも良いアドバイスまでくれた。ジャックは心の底から感謝する。何を贈れば彼女は喜んでくれるだろうか。そんな事を考えながら、ジャックはいそいそと花の都へ出掛けに行った。

しかし、女性に何かを贈るという経験がないジャックは早々に悩んでいた。彼女に何を上げれば喜んでくれるだろうか。

食べ物?それとも呪いの本?趣味が入浴と言ってたから何かそれらに関連した物?

悩みながら花の都を歩くジャック。百獣海賊団の最高幹部である大看板が1人街を歩く様は、ワノ国の人々からしたら恐怖でしかなかった。

「何でジャック様が…」

「知らねぇよ!!どうせ見回りだろ!?」

と、ヒソヒソと話しているのをジャックは知らない。

ふと、女性の髪型が目に留まった。女性達は結えた髪に飾りを付けている。高価な物から安価な物まで様々だ。その中でも特に目を惹かれたのが、簪だ。

「簪……」

ホーキンスの綺麗な髪に、とても似合うだろうなぁ、とジャックは思った。そう思ってジャックは簪の売っている店に向かう。

ジャックが訪れたのは、簪や櫛等、女性の髪飾りを専門的に売っている店だった。女性店主は大看板が来た恐怖に怯えながらも、必死に笑顔を繕って対応した。

「じゃ、ジャック様…本日は、私共の店に何かご用でしょうか…」

「あー…」

何か不備を働いてしまったのだろうか。頼むから店を壊すのだけはやめてくれ。店主は心の中で必死にそう訴えていた。

「…簪…あり、ますか…?可愛い奴……」

「え……?簪……ですか?」

女性店主がつい聞き返したが、ジャックはこっくりと頷いた。何で簪…誰かに贈るのだろうか。

「だ、誰かへの贈り物ですか?」

またもジャックは頷く。少し頬が赤い。このジャックはあまり怖くは無いな、と店主は思っていた。

「特別高い物じゃなくていい。何か、こう…相手が喜んでくれる様な…」

「…希望の色とかはありますでしょうか?」

「金髪に似合う奴を、できれば……」

金髪、と聞いて店主は考える。そして、それなりに値がはる物から安価な物まで、金の髪に映えるような物を並べてジャックに見せた。色とりどりの簪が目の前に並べられる。店主側も先程の恐怖心は無くなっており、真剣に厳選した。

「金の髪に映える物でしたら、この辺りがよろしいかと」

花の形をあしらった物、蝶の飾りが付けられている物、簪と言えばこれだろうという丸い玉が付いた物、扇の様な形の物。色も赤、黒、青、紫等……様々並べられた。

店主の計らいに感謝しつつ、ジャックは眺める。ホーキンスのあの綺麗な金の髪に似合う色は、似合う形は…一体何だろう。

一つの簪が、ジャックの目に留まる。赤い玉の付いた物だ。玉には白く可愛らしい花の柄があしらわれている。しかも、簪の本体からは小さな鎖の様な物が伸びていて、そこには淡い色の小さい花と玉があしらわれている。動くたびにきらきらと揺れそうで、控えめな上品さの中に何処か可愛らしさも含まれているその簪に釘付けになった。

「お決まりですか?」

「あ、ああ。…コレが、一番綺麗だ」

ジャックはその簪を購入する事を決めた。簪は木箱に入れられる。ジャックにとっては指の腹にちょこんと乗る大きさだ。

「こちらになります」

「……ありがとう」

ジャックはそう店主に礼を述べた。

「とんでもございません!!こちらこそまたご贔屓に…」

思ったより少々値を張ったが、それでもホーキンスに似合いそうな物を買う事が出来た。嬉しさのあまりスキップしたくなる気持ちを抑え、ジャックは帰って行った。


遂に、運命の日が訪れる。カイドウがセッティングしてくれたホーキンスとの見回りの日。クイーンには茶化されたが適当にあしらった。緊張しすぎてジャックは殆ど眠れない夜を過ごしたが、ホーキンスの姿を見て眠気は飛んだ。

「本日はよろしくお願いします」

ホーキンスがそう言って頭を下げる。一礼するだけでも無駄のない所作。思わず見惚れてしまう。

「…ジャックさん?」

「あ、いや…!すまん、少しボーっとしてた!行くぞ…!」

「?はい…」

ホーキンスは首を傾げていたが、そのまま彼の後をついて行った。

その後は街の様子を見回りつつ、ジャックは頑張って話を振った。しかしあまり会話は続かず、時々ジャックにとっては気不味い空気が流れる事もあった。ホーキンスはあまり気にしていない様であったが。麦わらの時みたいに何かハプニングでもあればそれなりに関わりも生まれただろうが、今回は特に何も起こらず終わった。平和に終わり過ぎて拍子抜けだ。

「…では、私はこれで」

ホーキンスはそう言って帰ろうとした。

「あ…ちょっと待て!」

「?何か…?」

呼び止められ、流石のホーキンスも不思議そうにしていた。何か不手際があったのだろうか…と、ホーキンスなら考える筈。ジャックは少し戸惑いつつ、ホーキンスの目の前に木箱を差し出した。

「呼び止めて、悪かった…。ま、前に…俺の失態を助けてくれただろう。その…お礼というか…受け取ってくれ」

「私はやるべき事をしたまでですから、お礼なんて必要ないです」

「……俺がしてェんだよ。いいから受け取ってくれ」

「は、はい……」

上官命令とでも思ったのだろうか。ホーキンスは戸惑いながら木箱を受け取った。

「…開けてみても?」

ホーキンスの問いに、ジャックはこくこくと頷いた。ホーキンスは蓋を開ける。中身を見て少し驚いた様子だった。

「簪…ですか?」

「お前に、似合うと思って…」

「ですが、こんな高価そうな物を私がいただく訳には…」

「いいんだよ…!別にそこまで高い物じゃねぇ!お前は頑張ってくれてるし、さっきも言ったが俺の失態を助けてくれた礼だ!部下を労うのは、上司の努めだろう!女の好みはよくわかんねぇから…喜んでくれるかわからねェけど……」

こんなに可愛らしい簪を、ジャックが悩んで買ってくれたのだろう。そう考えると少し胸が暖かくなった。

「…いえ、こんなに素敵な物をありがとうございます。大切に使わせていただきます」

「あ、ああ……」

ホーキンスが微笑む。その笑顔を見て、ジャックの心臓が大きく跳ねた。彼女の笑顔はこれが初めてだった。こんな素敵な表情をするのか、とジャックの心臓はどんどん速くなる。

ジャックは今日、想いを寄せる人と誰にも邪魔をされず仕事ができた。用意していたプレゼントを渡す事ができた。しかも、とても素敵な笑顔も見れた。今日という日を忘れないだろう。カイドウに感謝しながら、ジャックは嬉しさのあまりスキップしながら帰路に着いた。そして今日の事をそのままキングとクイーンに報告した。

「へぇ〜良かったじゃねェか」

そう言われ、ジャックは照れながら笑っていた。

「でもなんでそれで終わっちまったんだ?」

「折角ならキスでもすりゃあ良かったのに」

「そのまま連れ込み宿にでも行きゃあ良かったのになぁ」

「なんなら一回抱いちまえば良かったのにな。無理矢理でも抱かれりゃ文句は言えねェって」

「俺感度3000倍の媚薬作ったから、今度やるよ。次はそれホーキンスに飲ませてコトに運べよ?」

等々卑猥な単語が飛んでくる。ジャックの細やかな幸せはこの兄御達により、綺麗にぶち壊されたのである。哀れとしか言いようがなかった。

…今度は食事にでも誘ってみようかなと、ジャックは彼等の言葉を聞き流しながら考えていた。


後日。

本日はドレークとホーキンスが見回り担当の日だった。だが珍しくホーキンスが少し遅れている。やっとホーキンスが来て、ドレークは少し苛立ちながら彼女を見た。

「おい、遅刻だぞ…」

2分程の遅れではあるが、何か文句の一つでも言ってやろうとしたが、ホーキンスの姿を見て言葉が引っ込んだ。

「ごめんなさい。少し支度に戸惑って…」

「いや…お前、今日髪型変えているんだな」

珍しくホーキンスが髪を結えていた。しかも、その綺麗な柔らかい金の髪に良く似合う赤い簪が付いている。動くたびに、簪に付いた小さな飾りがひらひらと揺れる。

「買ったのか?その簪」

「これ?これはジャックさんからいただいたの」

ジャック、という言葉を聞いて、ドレークの中に嫌な気持ちが一気に広がった。

「……何故、貰った?」

「ジャックさんはお礼だって言ってたけど…。何か問題があるかしら?」

大有りだ。ドレークはジャックを警戒していた。彼が彼女に好意を寄せているのは知っている。だから近付かないように計らっていたのに。男から物を貰ったという事実に彼女を取られたと錯覚してしまう。赤い簪が目に入る度、苛立ちが湧いてくる。しかもホーキンスにとても似合うのが更に苛立ちを加速させた。

…自分以外の男がホーキンスの隣にいて、しかも物まで送った。不愉快極まりない。今すぐその簪を引っこ抜いて、折って地面に投げ捨てたい。その衝動をなんとか堪え、ドレークは冷静を取り繕う。

「……そうか。気に入ってるのか?」

「貰った時は驚いたけど、凄く素敵な物だし、私はとても気に入ってるわ。それに今日は、頂いた物を身に付けていると運気が上がる日なの」

普段笑わない彼女が口元を緩めて微笑んでいる。本当に気に入っているのだろう。ああ、なんて腹立たしいのだろうか。

「…あまり付けるな」

「え?」

「…いくら真打ちといえ、まだお前はこの海賊団では新入りだ。そんな奴が大看板からの貰い物を身に付けているのを他の連中に見られたら、何をされるかわからないだろ」

「そう…かしら?」

「お前だけじゃない。お前の船員にも影響が及ぶかもしれん」

ドレークの言う事は理にかなっているかもしれない。しかし彼の本心は、自分以外から貰った物を付けていて欲しくないという、あまりに傲慢な思いだ。その本心をホーキンスは気付いていない。

「…わかったわ。でも、貴方の前なら大丈夫でしょう?」

「…………そうだな」

「それより、速く行きましょう。私が待たせてしまったのが原因だけど、流石に長話をしすぎたわ」

ホーキンスは髪型を戻す事なく、ドレークよりも先に歩いて行った。簪の赤い玉が日の光に当たってきらきら光っている。小さな飾りが動く度にひらひら揺れる。ホーキンス自身が買った物だったら、自分が贈った物だったら、素直によく似合っていると思えただろう。だが他の男から贈られた物だという事実に、ドレークはやり場の無い苛立ちが募っていた。そしてホーキンスも、ジャックも知らないのかもしれない。男が女に簪を贈るその意味を。

簪を贈る行為には、『貴女を守ります』というプロポーズの意味が込められている。

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