――からの。

――からの。


(大尉の魂、帰還編。)

(内容はボカロ曲のパロディです)

(一応閲覧注意と言っておきます)

(これはクロスオーバーに入るの…かな…?)



―――



…その少女は、気が付いたらその場所にいました。

少女は自分の事を何も覚えてはいませんでした。

少女の周りは一面の霧模様。標識なんて親切なものもなく、白い霧の中に残る遠い誰かの足跡だけを頼りに少女は進みます。


(ここではきっと私が知るような法則は通じないのだろうな)


そんな予感が少女の中で生まれました。少女はその予感を頭の隅に置いておく事にしました。


足跡を辿る道の途中、拾いものをしました。

オレンジと白と碧のクリオネのぬいぐるみです。

懐かしさに釣られるままに拾い、そのまま歩き続ける事多分23マイルぐらい。


眼前に現れた白い扉。その前にいた青い髪に白い制服を纏った青年が振り向きました。

どうしてでしょう、青年の姿に少女は懐かしいような、焦がれるような気持ちになりました。

碧い眼(まなこ)が少女を見つめ、青年が口を開きます。



「こちら――です」



ぐらり。

青年の言葉を聞いた少女は眩暈に立ち眩みます。

思わず下を見つめればそこには空色をした薄い地面が、少女の姿を写しました。

瞬間、少女の脳裏に知らない記憶が濁流のように流れてきます。混乱し、対処の仕方を知らない少女は踞ってしまいます。

あぁ、目蓋の裏がチカチカする!昇って、降って、私は、わたしは、ワタシは……?


踞ってしまった少女に慌てて駆け寄ろうとした青の青年の耳元に通信が入ります。



[応答せよ一番、此方二番より通達。一番の警備近辺にて来場予定者の自己喪失化の反応を検知。近辺にてその疑い、その恐れのある来場予定者の捜索に当たられたし]


[はい此方一番。件の来場予定者が目の前にいる。頭上に輪を確認。これから取り調べに入る]



青の青年は踞る少女を抱き締め落ち着かせます。

少女が落ち着きを取り戻した頃合いを見計らって、青の青年は少女を抱き上げ、目線を合わせます。

少女の金色の瞳は不安を湛え、クリオネのぬいぐるみを抱き締める小さな身体が不安に揺れる度に、少女の黒く細い柔らかな髪も揺れます。

少女を怖がらせないように、努めて柔らかな声音を意識して青の青年は口を開きました。



「こんにちは、お嬢さん」


「…こんにちは」


「もう大丈夫かい?」


「…うん。だいじょうぶ」


「そうか。それはよかった」

「所でお嬢さん、ここが何処だかわかるかい?」


「…わからない」


「成程…じゃあ、自分のお名前は?」


「…わからない」


「成程…それはちょっと…困ったな…」


「…きづいたら、ここにいたの」

「なにも、おもいだせなくて…」


「…そうか。それはだいぶ…困ったな…」

「…そういえばお嬢さん、【切符】は持ってるかい?」


「…きっぷ?」



青の青年に問われ、少女は首を傾げます。

切符なんてものは持ってた記憶も、拾った記憶も少女にはありませんでした。

青の青年に抱き抱えられたまま、少女は自分の小さな身体のあちこちを探りますが切符は出てきませんでした。


切符はないと首を横に振る少女に、そうだろうな…と苦笑いを浮かべながら青の青年は少女を地面におろしました。



「【切符】がないなら、この扉の先は通せないな」


「そうなの?」


「そうだぜ?」


「…じゃあわたし、きっぷをさがしてくるわ」


「…そうかい。因みに順路はあっちだぜ」


「ありがとう。しんせつなあおいおにいさん」



少女は青の青年にお礼を言うと、ペコリと頭を下げてからクリオネのぬいぐるみを抱え直して順路の先へと駆け出して行きました。


少女の小さな背中が見えなくなったのを確認してから、青の青年は通信を入れます。



[応答せよ二番、此方一番より通達。件の来場予定者は黒い髪に金色の瞳の少女と確認。しかし切符の所持は確認出来ず。少女は記憶を失っており、今暫くは此方に滞在するつもりの模様]


[はい此方二番。成程なぁ…こりゃ黄色いロープ張ってやらにゃいかんな]


[順路として二番の警備方面に誘導しといたぞ。お前からも事情を聞いてくれ]


[ウッソだろお前ェ?!]


[捜査は多角的に行った方がいいだろ?]


[お前は俺を巻き込みたかっただけだろ騙されんぞ!]


[…勘の良い親友は嫌いだぜ?]


[認めやがったコイツぅ!]



やいのやいのと通信相手と言い合う青の青年の声だけが響いてました。




『ここは現実より離脱せし場所。シャングリラ』

『迷子の愛し子ちゃん。君は何処にいるんだい?』




…白い霧の道を歩くなか、薄く陽の光が差し込み始めました。先程よりも周りの景色がよく見えます。

そして少女は、少女の目の前を陽の光を反射させて悠々と泳ぐ「天使の魚/エンゼルフィッシュ」を見つけてしまいました。


(…きっと私の知る法則は通じないのね)


改めて自ら感じた予感を確信に変えた少女は頭の隅にこの事を置いおく事にしました。


青の青年に示された順路を行くなかで、少女のお供のぬいぐるみは徐々に増えていきました。

オレンジのクリオネをはじめとし、青い翼の鷲、黒い羽のフラミンゴ、灰銀色のウミウシ(或いはナメクジ)、珈琲色の子竜、それから、それから……

沢山のぬいぐるみ達を従えて歩く少女はまるでレジスタンスを引き連れるリーダーのよう。

そんなこんなで歩き続ける事多分77マイルぐらい。


大きな川の岸辺に白い扉、その前にいた金の髪に白い制服を纏い、今度は警笛をくわえた青年が振り向きました。

どうしてでしょう、青年の姿に少女は懐かしいような、待ち望んだような気持ちになりました。

赤い眼(まなこ)が少女を見つめ、青年が口を開きました。



「こちら――です」



ぐわり。

青年の言葉を聞いた少女は意識が遠のきます。

思わず辺りを見渡せば、そこには黄色い進入禁止のテープが張られた空色をした薄い地面、ひび割れた亀裂(クラック)が少女の瞳に映りました。

瞬間、少女の脳裏にまたしても知らない記憶が濁流のように流れてきます。遠のく意識と流れ込む記憶達に少女は立つ事すらままなりません。

あぁ、意識が混ざってバラけて遠くなる!降って、昇って、私は、わたしは、ワタシは……!


地面に倒れ込む少女を抱き留めようと慌てて駆け寄った…まではいいが後一歩で転んでしまって背中で少女を抱き留め…もとい少女と地面との間のクッションになった金の青年の耳元に通信が入ります。



[応答せよ二番、此方一番より通達。二番の警備近辺にて件の少女の自我拡散化の反応を検知。近辺にてその疑い、その恐れのある件の少女の捜索に当たられたし]


[はい此方二番。件の少女は俺の保護下だぜ。…ありゃ、背中に羽を確認。これから取り調べに入る]



金の青年はぬいぐるみ達の力を借りて少女を背中からおろして腕の中に収めます。

腕の中の少女が目を覚ましたのを確認してから、少女を怖がらせないように、努めて柔らかな笑顔で金の青年は口を開きました。



「ようお嬢ちゃん、こんにちは」


「…こんにちは」


「お嬢ちゃん、いきなり倒れるもんだからヒヤヒヤしたぜ…怪我はないよな?」


「…えぇ。どこにもないわ」

「…でもきんのおにいさん、あなたはなぜおでこにすりきずがあるの?」


「あぁ。気にしないでくれ。俺はドジなんだ」


「そうなの?」


「そうだよ。」


「たいへんね、きんのおにいさんは」


「そうでもないさ」

「所でお嬢ちゃんはどうして此処に?」


「わたし、きっぷをさがしているの」

「きっぷがないと、あのしろいとびらのむこうにはいけないんですって」


「物知りだなぁ、お嬢ちゃん」

「確かに【切符】がなきゃ扉の向こうには行かせられないな」

「でもなお嬢ちゃん」

「お嬢ちゃん、本当にあの扉の向こうに行きたいのか?」


「…え?」



金の青年に問われ、少女はきょとりと金の青年を見上げます。

…そういえば、切符がないと扉の向こうに行けないと言われたから、ただなんとなく切符を探していただけで少女は別に扉の向こうに行きたい訳ではなかったという事に気付いてしまいました。

青の青年と金の青年と出会った時に流れ込んできた記憶達は、まるでバラバラに散らばったパズルのピースのように掴み所がなくて、まるて他人の記憶のように感じます。

少女はその事を金の青年に話すと、金の青年は何度も頷きました。そして金の青年の耳元に通信が入ります。



「おっと。お嬢ちゃん、暫く此処で待っててくれるか?」


「いいわよ。どうせいくばしょもないもの」


「良い子だぜ、お嬢ちゃん」



金の青年は少女から離れた位置に移動すると、通信を入れ直します。



[応答せよ一番、此方二番より通達。件の少々から事情は聞いたが…どうやら彼女は【渡航】の意志もないようだ]


[はい此方一番。…いやぁ薄々そんな気はしてたんだがな…おかしいな…じゃあ何で件の少女は此処にいるんだ……]


[そんなの俺が知りてぇよ…羽も輪もあるのに切符も未所持、渡航の意志無しとくりゃあ…]


[可能性としてはアレだよなぁ……二番、今からそっち向かうわ]


[了解。待ってるぜ一番]



深刻そうな声音で通信相手と話す金の青年の声だけが響いてました。




『地上の遥か上、群青の聖域/サンクチュアリ』

『やっと見つけた。迷子の愛し子ちゃん』




…ぬいぐるみ達と金の青年を待つ少女。

ふと白い扉を見つめると、少女の瞼が急に重くなります。

それに呼応するように、ゆっくりと開かれゆく白い扉。【切符】も持っていないのに。

抗いがたい眠気と戦う少女。此処で眠ってしまったら、帰れなくなる気がしてならないのです。


(…帰るって、どこに?)


バラバラに流し込まれた記憶の欠片達しか持たない少女は疑問に思います。その間にも瞼はどんどん重くなり、扉は開かれていきます。

――不意に、扉の向こうから声が聞こえます。



『もう思い残す事ないかい?そんな訳がないだろう?』



遠く、扉の向こうからコツリ、コツリと革靴を鳴らして足音が聞こえます。

重たい瞼を必死に開き、足音の主を探す少女。

遠くて近い、懐かしさを帯びた青年が少女の傍で語りかけました。



『ほら、あちらにお行き。此処に来るにはまだ早い』



刹那、その瞬間。

ばちり、と止みかけた魂と記憶の脈拍が流星の如く急加速してゆきます。

バラバラだった記憶のピースが組上がっていき、曖昧だった少女の魂が「彼女」へと修復されてゆく。


ワタシは…わたしは…私は!


記憶を失っていた「少女」は、記憶を取り戻し「彼女」へと戻りました。


開き掛けていた白い扉はすっかりと閉じ、異変を感じて慌てて戻ってきた金の青年と青の青年が彼女を見つけ、青の青年が口を開きました。



「やっぱり単純な迷子だったか。早くお家へ帰るんだぞ?きっと心配されてるぜ?」



あぁ、よかったと安心したように笑う青の青年は、どこか彼女の一番愛しい恋しい人に似てました。

隣にいた金の青年も口を開きます。



「じゃあな!もうちょっと年喰って、老けてから出直して来いよ!」



あぁ、なんとまぁ…ちょっぴりお口の悪いニヤリと笑う金の青年は、彼女の大好きな親友に似ていました。



「お出口はあちらだぜ、お嬢さん?」

「大丈夫だぜお嬢ちゃん!落ちる時は一瞬だ!」



ぐいぐいと青と金の青年(てんし)達に背中を押され、お礼を言う暇もなく彼女は空色をした薄い地面のクラックから急転落下!


唐突なフリーフォール。歪みゆく周りの景色。落ち行き遠のく空に息を飲む彼女。

自分を守るように側にいてくれたぬいぐるみ達ともどんどん離ればなれになってゆきます。



「みんな!ありがとう!」



離れゆくぬいぐるみ達へと叫ぶ彼女。

ぬいぐるみ達は、どうしてでしょう。みんな笑ってくれたように彼女は感じました。

流星群のような幾千の光に包まれ、潤み滲んだ瞳から見る世界はきらきらと輝いています。


きっと彼女は戻れるでしょう。彼女の大切な人々の元へ。



『これにて迷子の愛し子ちゃんの物語はおしまい』

『常に白き幻の国から離脱し目覚めよ』

『さぁ、大切な人の手をとって』

『彼岸、帰還、邯鄲の夢…ってね』



『めでたし、めでたし!』



「…おはよう。ただいま…!」



おしまい。



【あとがき】

…と、いう訳で大尉の魂の帰還編でした。

当作品はボカロP『くるりんご』様が作られた、

『天国からの没シュート!』という作品のパロディとなっております。聴いた事ある方はいらっしゃるかな…?もう活動されてないボカロP様ですが名曲揃いの方なので是非ご試聴くださると大尉の中の人が大変喜びます。

くるりんご様の楽曲は遊戯王シリーズ、特に遊戯王ゼアルが好きだった方にはおすすめですぞ…!

ゼアルのキャラクター達をモデル・モチーフにした楽曲が多いので聴いてて楽しめる筈…!


さてくるりんご様のダイマもそこそこに当作品の解説をば。

元々『天国からの没シュート』という曲は「入院してた少女が幽体離脱して天国の門の前まで迷い込み、門番達に追い返される」曲なのです。

つまり大尉も常世に拉致られた後の帰路の中、魂のファンタスティックドジもといファンタジスタ迷子をかました結果天国の門の前まで迷い込んでしまったのです。

で、天国の門番(天使)に追い返されて無事に肉体に帰る事が出来ました…と。


天国の手前に迷い込んだ当初の大尉は記憶を失っていたので表記は「少女」。見た目も少女の頃に戻っていました。これは『神としての魂』はまだ少女…幼子である事の現れとして書いています。


最初に出会った門番さん…作中「一番」や「青の青年」と表記されてた彼はタオル中佐そっくりの門番さんって設定です。

これにはちゃんと意味があり、原曲の「01番」と表記されている門番さんは「碧眼」なのです。つまり原曲リスペクトです。

同様に原曲の「02番」と表記されている門番さんは「金髪」なのです。おや?大尉の近くにも金髪の御仁がいますよね?そうロシナンテ中佐です。

つまり作中の「二番」や「金の青年」と表記されている彼はロシナンテ中佐そっくりの門番さんって設定です。


ぶっちゃけこの配役がしたかっただけともいう。

だってここまで原曲と同じ配色で配役出来る事なんてこの機会を逃したら二度とないと思ったんだもの!やるしかねぇ!


「少女」となった大尉が連れてたぬいぐるみ達のモチーフはロシナンテ隊のメンバーのイメージ。

クリオネはブラウニー三等兵。

鷲はタオル中佐。

フラミンゴはロシナンテ中佐。

ウミウシ(或いはナメクジ)は少佐。

軍曹は子竜。

…軍曹だけなんで架空の生き物なの?ってツッコミは受け付けてません。しいていうなら非常に遠回しなファンサです。一応。返品不可ですご了承下さい。


『』←で表記されてた台詞の主は大尉の父祖神様って設定です。頑張って大尉の魂を捜索し続けた結果、大尉の魂が天国入り一歩手前だったので慌てて天国側から大尉を追い返しました。


結果、神様の魂を持った「少女」から人の魂を持った「彼女」へと戻った大尉は、二人の見覚えのある姿の門番達に背中を押されて現世へと突き落と…げふん。無事に帰される事となりました。


一度は書いてみたかった自分の好きな楽曲のパロディSS。書けて中の人は非常に満足です。


それではまた。

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