からかい上手のフゥリさん前編

からかい上手のフゥリさん前編


「どうだキマってるか?」

「ピュ?」

飼い主である俺の問いかけに白く愛らしい四足歩行な我がマイフレンドのピュアリィは首をコテンと傾げる

「ういやつよ、ここからは大人の時間だから大人しくお留守番しような?」

「ピュ……」

飼い主が外出することを薄々察しているのだろう

少し寂しそうにしながらも、ピュイと一声鳴き返事をしてくれた

いい子だ

うまくいったら美味しいものをあげよう、しくじったら残念会で美味しいものやる

主食が思い出とはいえ最近は金欠で1日1食しかごはんあげられなくてごめんな

「ふぅ、こんなものか」

自身の格好を見渡してそう呟いた俺は自宅を出る

いつもよりもオシャレにコーディネートされた俺の服装は、水色のシャツに黒のスキニー、白のスニーカーを合わせた至ってシンプルなものだ

だが、そのシンプルさ故に素材の良さが光る……はず

自己評価ではまあまあ様になっているつもりではあるが、いかせん正解がわからず自宅を出てからずっとソワソワとしている

なにを隠そう今日は同じ素晴守護学園に通う友人のインパルスが幹事を務める男女混合での食事があるのだ

彼女いない歴が年齢とイコールな俺としてはこれを機会に親睦を深めて恋愛への第一歩を踏み出したいところ

「不審者はっけ〜ん」

「げっ、フゥリかよ……」

駅に到着した辺りで声をかけられた方に振り向くと、そこには昔からの幼なじみであるフゥリがニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながらバシバシと俺の背中を叩く

「なんでいるんだよ」

「偶然だね〜。最寄りなんだからいてもおかしくないでしょ、それよりなにその格好?いつものダサいのよりも気合入ってるじゃん。女の子にでも会うのかなあ?」

「フゥリには関係ないだろう」

フゥリは舞踊の名門である珠の家の御巫で品方向性で学業においても非常に優秀……なのは表向きで実態はすっかり高校デビューを決めて陽性キャリアライフを謳歌しているギャルである

彼女の十八番であるかみかくしでみせる儚げな表情は単なる演技である

「まあそう言わずにさ、ファッションチェック開始」

そういって俺のファッションチェックを開始したフゥリ まずは俺の格好から開始し、上から下まで眺めること十数秒

「んー……イマイチだね、無難オブ無難って感じ。開幕から守りに入るまさに童貞ファッション」

「うるせえ」

こいつのイヤなところは俺のことを事ある毎に童貞扱いして煽ってくるところだ

「なんて検索すればこんなの出てくるわけ?コピペするにしても保守的すぎるでしょ」

なんでこいつ俺のコーデがネットで調べたやつってわかるんだよ

「別にいいだろ。ちゃんと店行って、自分で見て選んでるんだから。それに生地もいいから長持ちしそうだしな」

「コーデでそういうところ気にするのはやんちゃ坊主に服を買うお母さんかファッションを知らない童貞だけだって。」

「なんなんだよお前は。童貞が童貞らしくてなにが悪いんだよ」

なんでセックスの経験だけでマウント取られないといけないんだよ

「あはは、開き直った。まあそう怒らないでよ。素人は自分で買うよりもマネキンそのまま買うか、有識者に頼ったほうがマシだって。というわけで今から服選んであげようか?」

「お断りだ。俺には用事がある」

「鈍いなあ、かわいい女の子が服選ぶって名目でデートしよって言ってるんだよ?それより大事な予定なんてある?」

「……ある!!!お前の着せ替え人形になんてならない」

俺は一瞬答えに詰まりながらもフゥリの誘いを断り、駅ま改札まで背を向けて歩く

「あっ!ズボンの後ろにタグついたままだよ

!」

「ん?あ、あれ?」

「うっそ〜ん。やっぱり買ったばかりなんだ」

「ちきしょおお!!」

ガタンゴトン

「なんでお前も乗ってるんだよ……」

「駅に来たんだがら電車に乗るのは当たり前でしょ。私も用事があるの

まさかそのまま乗り込んでくるとは

「そこまでは受け入れるとしてなんで俺の隣に来るんだよ」

休日でこの時間帯なら席なんていくらでもあるはずなのに

「いいじゃん。私たち幼馴染でしょ?」

フゥリはぴょんと一歩跳ねてから、俺にもたれかかってきた

こういうの本当にやめてほしい

デキる女子のモテテクなのかなんなのか知らないが、恋愛を知らない初心な男子高校生に刺激が強すぎるんだよ

こいつはかわいくてスタイルもいいから絶対モテるし、俺のことなんて恋愛対象として意識してないだろうってのが最高にたちが悪い

「あざといんだよ。そうやって思わせぶりな態度とってるといつか痛い目にあうぞ。そもそもこんなことしたって一時的な好感度稼ぎでしかない。言っておくがお前の性悪な本性を知る俺にはそんな小手先のテクニックで惑わさせたりしないからな。」

「どうしたの?急にたくさん喋りだして」

フゥリは俺を小馬鹿にしたようにクスクスと笑っている

正直むちゃくちゃ効いてる

俺を覗き込んでくる瞳はめちゃくちゃクリクリで可愛いし、シャンプーの匂いなのか甘い香りが漂ってきて目がずっと泳いでしまっている

近くや正面に他の乗客がイなくて本当にやかった

「でさ、今日はおめかししてどこに行くわけ?」

「いや、普通に鳥貴に……インパルスたちと」

別にやましいことじゃないから素直に話す

下手に隠すとしつこく聞いてくるしな

「へえ〜。こういうのに参加するのって結構珍しくない?私が誘っても断るじゃん」

「だってお前の友達ってThe陽キャみたいな感じだからノリについていけないし絶対孤立する」

「もしそうなっても私が守ってあげるって〜」

「うそつけ。絶対先頭にたって俺をからかうだろ」

このテンションでうざ絡みしてくるのは想像に難くない

だからこいつとは絶対に行かない

それにこいつが色目使って知らない男に媚びてる現場を見るのはなんかいやだ

恋愛感情の有無に関わらず

童貞は繊細なんだ

「ひどいな〜。てことは今回は好みの子がいるってこと?」

「お前が知ってそうなやつだと、インパルス、エアホイスター、リナルド……あとノアールさん」

「え~~!あのノアールちゃん?こういうとこ来るんだスーパーレアだね、それは」

ノアールさんは彼女が飼っているピュアリィからつけた仮称だ

ノアールさんは黒紫色の艶やかな髪が特徴で気品溢れるお嬢様って感じの人だ

所作に品があり、歩くだけで一挙手一投足にオーラを感じるし、ちょっと近寄り難いなって思うくらいには神々しい人だ

あまり特定の誰かとつるむ印象がなくてフゥリの言う通りこういった場所には来ないイメージがある

「もしかしてノアールちゃん狙いな感じ?ピュアリィを出汁にお近づきになろうって腹?」

「まあ、そんなとことろだ。やっぱり趣味が合う人だと話も弾みそうだしな」

ここで『ち、ちげーよ。そんなんじゃねえし』とか中学生ぐらいの俺だったら慌てふためいていたかもしれない

こういった交流は異性との交流が主たる目的のイベントであり、そのなかの誰か一人を意識しているのは別に普通なのだと俺は思う

「普通の彼女すら作ったことないのにノアールちゃんみたいな難しそうな女の子を落とそうなんてさすが童貞。 身の程をしらないね」

「うるせーよ。一応それなりに交流はあって動物の本を貸し借りしたことだってあるんだ」

デートしたりとかはないが

「それだけ?どうせ連絡先も知らないんでしょ?」

「うぐっ」

相変わらず人の痛いところを的確に突いてくる女だな

「確かに知らないけど、こういうところ来るってことは多少なりとも異性に興味はあるわけだろ?少しでも面識があるならアドバンテージだろ」

「それで童貞のディスアドを覆せるの?」

「知るかよ。別に言わなきゃわからないだろ」

「女の子はそういうのすぐにわかるよ〜。いまでも童貞臭がプンプンだもん」

「いまにみてろよ。絶対ノアールさんと連絡先交換してやる」

「ハードルひくっ。付き合うくらい言えよど・う・て・い」

ニヤニヤしながら俺に密着して肩に頭をのせるフゥリ

わざと胸を当ててくるからその感触にドキドキしてしまう

フゥリの服装は膝上まであるロングのTシャツだ

フゥリはギャルだが胸元を露出することは殆どなく、いくら密着されても見えるのはせいぜい鎖骨程度だがTシャツを押し上げて主張する膨らみがどうしても目に入ってきてしまう

馴れ馴れしく近づいてくるくせに1ミリも気を許すことのないそれはまさにフゥリの性悪さをそのまま形にしたようなガチガチ耐性のおっぱいである

「お前、そんなことばっか言ってるとぶっ飛ばすぞ」

「こわいなあ〜。でも君は『優しい』からそんなことできないもんね」

優しいは褒め言葉はない

他に不随する個性がなければなんら価値のないものだ

こうやって馬鹿にされるフゥリも俺なんかよりもチャラチャラした格好で、中身のない会話を繰り返す、その場のノリで生きてきたような軽薄な男にその揉み応えのありそうな乳を揉ませたりしているのだろう

フゥリに特定の彼氏がいるなんて話は聞いたことはないが、チンポでしかものを考えられないようなアホな男を取っ替え引っ替えして遊んでるんだろうな

「じゃあさ駅に着く前に女の子に慣れる練習してみようか」

そういうとフゥリはなんとシャツの襟に指をかけて引っ張り、胸元をはだけさせる

「なっ!?なにしてんだよっ!」

突如として目に飛び込んだフゥリの双丘に俺はひどく動揺してしまい、おもわず声を上げてしまう

「あはは、なにその反応」

「お前、ちょっとやりすぎだろ!!彼氏でもない相手に……」

ある種拝めることが覚悟できるグラビアやAVと違い日常で、しかもさっきまで横にいた女の子の生乳という不意打ちなんてものは耐性のない童貞にとって凶器に近い

「しょうがないじゃん、君が緊張してるからリラックスさせてあげようと思って」

「そんなのいらんわ!!」

普段は胸元の空いた服とか着ないから、腐っても名家の生まれだし意外と貞淑なのかと思ってたけど、やっぱりただのビッチなのか?

「なに、興奮したの?顔が真っ赤だけど」

「そんなわけないだろ!!」

「さっきおっぱいチラ見してたのに?」

ぐはっ!?バレてた?

「だいたいこれくらいなら胸出す子だってそれなりにいるでしょ?君はその度にチラチラみながら童貞丸出しで慌てふためくわけ?いまのうちにおっぱい見て免疫つけなよ」

そういうとフゥリは俺の耳に顔を近づける

「ノアールちゃんって脱いだらすごいタイプだよ」

「やめろ!!」

フゥリがこんなこと言ったからにはこれからずっとノアールさんの身体をそういう目でみてしまうだろう

「で、どうする?おっぱい見る練習するの?しないの?」

「なんでお前、ここまで……」

あまりのサービスのよさに俺は面を喰らってしまう

確かにフゥリは俺を事ある毎に童貞だのなんだのと言いながらもからかってくるがその内容は全年齢向けのポップな内容であくまでじゃれあいの範疇のはずだ

だからフゥリの詳しい性事情や行為に関する具体的な話題はしたことがない

スキンシップでちょっとドキッとさせられるくらいでましてや直接胸を見せてくるなんていつもなら絶対にあり得ない

俺たちは互いに暗黙の了解を以て引いたラインが存在していたはずだと思っていたのだが

「まあ、付き合い長いしそろそろおっぱいくらいなら許してあげようかなって?それより返事は?」

「……まあ、お前も言うことも一理あるかもしれない。そこまで言うなら今回は甘んじて胸を見させてもらうことにするか」

我ながら情けない

おっぱいで簡単に脳のリソースを奪われてしまう自分が恨めしい

「うわぁキモっ。それが人にものを頼む態度なの?」

そういってフゥリはシャツを正して魅惑的な双丘を隠す

なんなんだよこいつ

俺がその気になったら途端にマウント取ってきやがって

「お願いします。見せてください」

「よくできました。じゃあシャツに人差し指だけ引っ掛けていいよ」

俺は手を震わせるながらなんとかシャツの襟に人差し指を添える

「それじゃあ、自分の手で私の服引っ張って、好きな角度で見ていいよ。でもあくまでそれだけね。もし破ったら痴漢だって叫んでやるから」

ご丁寧にペナルティ付きだ

ていうかそもそもおっぱい見せてきたお前のほうが痴漢だろ

エロければ許されるのか?この世界は理不尽だ

俺はゆっくりと慎重に指を引いて、少しずつ露になるおっぱいの面積を増やしていく

「お前がここまでヤベーやつだとは思わなかった」

「電車で女の子のおっぱい見てる君が言う?」

「ぐっ、お前だってノリノリじゃないか」

フゥリは否定せずクスクスと笑っている

「恥ずかしくないのかよ」

「ぜんぜん。御巫ってみられてなんぼでしょ」

確かに御巫の衣装はお腹やら太腿やらが大胆に露出されていてこいつからすれば胸の1つや2つ見せるくらいなんともないのかもしれない

「ブラも見なよ。ダッサイ君と違ってちゃんと拘ってるの。かわいいでしょ」

正直わからん

おっぱいを見てるという状況だけで

頭がいっぱいなのにそこに下着の色やら形なんて完全にキャパオーバーだ

デザインの良し悪しはともかくエロいことは確かだ

「そんなの今更意識してもどうしようもねえし」

俺はフゥリから目を逸らす

「折角会えたし、賭けでもしよっか?もしノアールちゃんの連絡先交換できたらなんでもしてあげる。できなかったら私の言うことなんでも聞く。どう?失敗が怖くてできないかなあ」

「上等だ!やってやるよ!絶対にノアールさんと連絡先交換してやる!!」

フゥリに煽られて俺は熱くなっていた

「じゃあ最後にアドバイス。スキニーで座ってるときに膨らませるとモロバレだから注意してね」

「なっ!?」

おっぱいを見せられて元気になったそれを揶揄するような視線を送るとフゥリは

「じゃあね」と手を振って去っていく

なんかすげえ疲れた

あいつといると体力的にも精神的にもくる

とりあえず俺は先に駅内のトイレで用を足す

別に深い意味はないぞ

そんなこんなで頭と荒ぶっていた下半身をクールにして俺は目的地へと向かう

「着いたか」

機巧鳥貴族-常世宇受賣長鳴ヘッドクォーター前店

焼き鳥を中心としたリーズナブルな値段の料理が売りで学生の懐に優しい俺たちの行きつけ

今日はここでノアールさんとうまいこと仲良くなってあのノーチャンビッチに俺がただの童貞でないことを思い知らせてやるんだ

「久しぶり。駅以来かなあ」

「なん……だと」

「いやあ、目的地が同じだったなんて偶然って怖いね」

何故か俺の席の隣にフゥリが居座っている

なにが偶然だ!白々しいにも程がある

お前は俺のストーカーか!訴えるぞ!

「インパルスこれは一体?」

インパルスは消防士を志す俺の友人である

何故フゥリを呼んだ

俺がそういった場であいつを避けてるのことは知っているはずだ

お前らしくないぞ

フゥリになにか弱みでも握られているのか?

「あれ?フゥリちゃんから聞いてない?来る予定だった女の子がEMERGENCY!な急用が入ってEXTINGUISH!しちゃったんだよね。そしたらフゥリちゃんがRESCUE!してくれるって連絡が来たからREINFORCE!してもろったのさ」

やっぱそういうことか

俺は諸悪の根源であるセクハラ女を睨みつける

「ごめ〜ん。言い忘れちゃった」

「うそつけ」

こんな誠意のない謝罪を受けたのは生まれて初めてだ

駅で会ったのも、同じ電車に乗ったのも偶然なんかじゃなくて全部わかっていながら散々俺のことを馬鹿にしてたのか

「まあまあ、CONTAIN!CONTAIN!2人は仲が良いって聞いてたからその方が君も馴染みやすいって思ったんだけど余計なお世話だったかな?」

インパルスは悪くないんだ悪いのは全部フゥリがその気遣いを台無しにするほどアレな性格なだけだ

「ぜ〜んぜん。そんなことないよ。私たち

仲良しだよ、ね?」

「………」

落ち着け俺

騒いだってなにもいいことはない

フゥリのことなんて放っておいてただ粛々とやるべきことをやるんだ

この恨みを晴らすのは賭けに勝ってからでいい

しかし、俺の認識は甘かった

フゥリは開幕の自己紹介からフルスロットルで絡んできてピュアリィ以上のピュアボーイだのと俺が恋愛経験がないことを暴露してきた

思わずそれにツッコんでしまったのが悪かった

それによって俺はこの空間においてはイジってもいいやつという風潮が生まれてしまった

「ねえ、ノアールちゃんに話しかけなくていいの?」

「いまはタイミングをだな……」

ノアールちゃんは俺が想像していたほど大人しい子ではなかった

クールな雰囲気を出しながらも決して冷たくはなく、むしろ親しみやすそうな印象がある 

加えて服装は肩出しで生地が薄く身体のラインがはっきりしていてフゥリよりもずっと肌を見せている

チラ見は危険だと電車で学習済みだからあんまり見てないけど脱がなくてもすごかった

「でさ、君的にノアールちゃんってアリなわけ?」

フゥリが小声で尋ねてきた

「思ってた感じと違ってびっくりしてる。なんか底が知れない感じ」

「だよね。孤高のお嬢様タイプと見せかけて結構隙がある、モテない男にワンチャン夢を見させてあげちゃうタイプだよね」

「誰のこと言ってんだよ。でも正直かなりそそられる……なんかエロいし」

「流石クソ童貞。女の子の服見てすぐエロいこと考えるのはどうかと思う。電車でのトレーニングを忘れた?」

「やめろって思い出しちまうだろ」

折角頭をクールにして臨んだのに

電車で見せつけられたおっぱいやら髪の匂いやらがフラッシュバックして思わず生唾を飲み込む

なにがトレーニングだ!逆効果じゃねえか

「キモっ、エロい目で見ないでよ」

「仕掛けてきたのはお前だろ」

「ふふっ、2人はいつも仲がいいね」

「ノ、ノアールさん!?」

ついヒートアップして声量をあげてしまったからかノアールさんはこちらを向いて話しかけてきた

「ノアールさんは学校のときと髪型が違うんだね……え、えと……」

「知らないの?ウルフカットのレイヤーだよ」

お前は口を挟むな

「学校の真っ直ぐなのもクールなお姫様って感じで素敵だけど、今のアンニュイな雰囲気もいいね」

「ふふ、ありがとう」

カールした髪をくるくると弄るノアールさんは少し大人びてみえる

「2人は幼馴染なんでだよね?いいなあそういうの憧れちゃう」

「いや、ノアールさんが想像してるような関係じゃないんだ。向こうがちょっかいかけてくるだけで、遊びに行ったりとかはないし」

「誘っても断るからでしょ」

そう言ってフゥリは唇を尖らせる

やめろよそういう態度

ノアールさんに誤解されるだろ

「そうなんだ。付き合ってると思ってた。じゃあ私も案外脈あり?」

「えっ!!!!」

「うふふ」

くすんと笑うノアールさんに俺はつい童貞丸出しな反応をしてしまった

「彼女いないって話は本当だったんだね」

「バーカ、そんなんだからからかわれるんだよ」

クソッ、ノアールさんにまでからかわれてしまった

恋愛経験なしバレのディスアドが重すぎる

フゥリのやつそこまで考えていたのか

「私と同じだね」

ノアールちゃんは蠱惑的に笑うと顔をこちらに近づけけてふわりと香水のような匂いが舞う

なんですかその妖しい笑みは?

枕詩に『今は』がつくやつですよね

「ははっ、ノアールさんだったらその気になれば男なんて選び放題でしょ」

俺はその蠱惑的な雰囲気に呑まれないよう必死に言葉を捻り出した

「今日いる女の子の中だと誰が一番タイプ?やっぱりフゥリさん?」

ノアールさんは不意に席の隣に座ると俺の太ももに触れる

「いや、だから……そういうつもりは」

「だったら私は何番目?」

もう片方の手で腕を軽く掴みながら上目遣いで俺を見つめるノアールさんからはなんだか大人の色気が感じられる

認識が甘かった、この子は俺が手を出していい領域じゃなかった

この子はピュアリィじゃなくて狼だ

「ノアールちゃん、からかいすぎだよ。あいつは私の玩具にされるので手一杯なんだからさ」

するとフゥリも体重をかけるように俺に抱きつく

オーバーキルやめろ!柔らかいもの押し付けるな!俺のライフはとっくにゼロだ

「なんなんだよお前!引っ付くなよ。背負投げするぞ」

「御巫に物理は効きませ〜ん」

「うふふ、2人は本当に仲良しだね」

ノアールさんは2人を見て微笑むと楽しそうに席を立った

「じゃあ頑張って」

ノアールさんは小さく舌を出す

俺は完全に弄ばれていた

行かないで、ノアールさん

たぶんノーチャンだろうけどせめて連絡先だけでも交換しないと俺は……

そのあとも、俺は特に収穫がないまま無為に時間を過ごした

ピュアリィの話とかしたかったけどノアールさんは倍率が高くて声をかけるチャンスは訪れなかった

フゥリは賑やかしとして周囲を盛り上げるのに徹っする……と見せかけて時折俺に絡むことで俺のいじられ役としての地位を確固たるものにしてこの会は幕を閉じた

正直言えば楽しかった

みんなとワイワイと騒ぐことそのものは

みんなは積極的に自分の強みを押し出して

いるなか俺はただ流されていただけな気がする

今思えばいじられてたのも俺が馴染めるように気を遣ってくれていたのかもしれない

「で、連絡先交換できたの?」

「………できませんでした」

「うひゃあ。頼めばいけそうな感じだったよね?推定〇〇番目の履いて捨てるほどいそうな男友達に」

「やめろ、それ以上言うな」

こいつ……さてはプライベートなノアールさんがどんな子か知ってたな

俺が気遅れするとわかっていてわざと焚きつけていたんだな

「まあでも連絡先交換するだけがすべてびゃないからな。こういう積み重ねがゆくゆくは……」

「それ言いながら何年童貞やってるの?気づいたらそのままおじさんになってそう。まだ若いのに大丈夫?」

「ほっとけ!むしろ早く大人になりたいよ。フゥリみたいなウザいやつに絡まれずに過ごせるからな」

「ふーん……」

「なんだよその顔。俺なんてノーチャンな幼馴染なんだろ?お前が家継いで、俺が進学なり就職したらそれで終わりだろ」

「いやあ、そうなったら君の1人しかいない女友達がいなくなると思うと可哀想だなあって」

「黙れ、お前なんて友達じゃない」

「哀れ、すでにぼっちだったか」

そんなこんなで俺たちはくだらないことをダベりながら電車に乗って帰路についた

「ねえ、愚鈍に寄っていこうよ。賭けに負けたらなんでもする約束忘れてないよね?」

「わかったよ。でもそんな金ないぞ」

「ピュアリィに搾取されてる君の財布なんてはじめから期待してないから安心して」

くそっ、有耶無耶にして帰ってやろうと思ったが流石に甘くなかったか

愚鈍斧放手

なんでも売ってる驚安の殿堂

端数が5円か0円に調整できるのが地味にありがたい

なぜか近年では御巫たちがこの周辺でダベるのが流行しており、愚鈍横の御巫かみくらべと呼ばれている

「ねえ、どれがいいと思う?」

「童貞が知るわけないだろ!」

フゥリは生理用品売り場にある避妊具の箱を持って、俺に尋ねてくる

好きでもない男と堂々とコンドームを物色するとかどんな神経してんだよ

「今日のお前はちょっとやりすぎじゃないか?いくら俺でもなにされたって平気なわけじゃないぞ」

「それって、私にムラムラしてヤりたくなっちゃうかもってこと?」

「ちげえよ。TPOを弁えろって言いたいんだよ」

正直ヤりたいかヤリたくないかで言ったらヤリたい

顔はかわいいし、身体はエロい

それに変に気を遣わなくていいから気楽だウザいけど嫌いではないし、どちらかと言えば好きだ

でも、こいつに惚れたらなんか負けな気がするし、ムカつく

それにノーチャン女に攻撃したって反射ダメージ喰らうだけだからな

「う~~ん。じゃ、この0.01ミリのやつかな。薄い方が嬉しいでしょ?」

「なんで俺の顔見ながら言うんだよ。勝手にしてくれ」

「はい、お会計よろしく」

そう言ってフゥリはコンドームの箱と代金を俺に手渡す

「ちょ、待て。嘘だろ」

「なんでもするって言ったでしょ?」

「ぐっ」

勢いで賭けを受けたのは間違いだった

俺は大人しく代金を払った

これほどの屈辱を受けたのははじめてだ

俺がネオタキオンだったらこんなやつ一撃なのに

しかしなんでまたこんなことを

悪戯で買うには決して安いものじゃない

まあ、フゥリの実家は金持ちだし、加えてヤる相手には困らないだろうけど

「ほらよ」

「ふふ、どうも」

フゥリはコンドームの箱を受け取る

「ゴムの両側にピュアリィの餌でサンドイッチしてたけど、あれって君が昔グラドルの写真集買うときに間に読みもしない別の雑誌挟んでたのと同じ心理なの?成長してなくない?」

「よく覚えてるなそんなこと……あと、ピュアリィの餌は元から買うつもりだったからな。実用性を兼ねて……ってなに言わせてんだ」

「いや、これは自爆でしょ。完全に自己責任」

「俺にはピュアリィがいる……ピュアリィさえいれば……はあ、もう疲れた……頼むからもう放っておいてくれ」

「連れないなあ。一緒に行こうよ。ピュアリィと慰めてあげるから」

「はあっ!?」

フゥリのとんでもない発言に俺は思わず大きな声を出してしまう




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