かつての夢、新しい夢

かつての夢、新しい夢

鉄華団おいしーなタウン支部


拓海とソラの娘・そらみが

生まれてから間もない頃のこと…


ゆい

「え? 門平さん、

 ジンジャーさんのお墓参りに

 ソラちゃんと

 そらみちゃんを連れてったの?」


拓海

「……ああ、お師匠さんに孫を見せたい、ってさ。

 …あと、ソラにだけに伝えたい

 大事な話がある…とも言ってたな。」


ゆい

「門平さんからソラちゃんに

 大事な話、かぁ…なんだろうね?」


拓海

「さぁ…?

 あー…早い帰ってこないかな、

 ソラ…そらみ…。

 寂しいよぉ…(泣き)」


ゆい

「あはは…(呆れ笑い)」



……



~クッキングダム・ジンジャーの墓前~


シナモン

「お久しぶりです。 …突然のことで

 驚かれるかもしれないでしょうが…

 もう、自分に孫が出来ました。

 名前はそらみ、です。」


そらみ

「ですですよ~♪」


シナモン

「…で、この子が…」


ソラ

「初めまして。

 門平さん…シナモンさんのお師匠様。

 ソラ・品田・ハレワタール…

 シナモンさんの息子・拓海さんの伴侶です。

 …以後、お見知りおきを。」


【ジンジャーの墓に向かって頭を下げるソラ。】



……



シナモン

「…すまないね、ソラちゃん。

 お墓参りに付き合わせてしまって…」


ソラ

「いえ、お義父さんである門平さんの

 父親同然の方だったんですよね?

 …だったらわたしにとっても

 無関係ではありませんから問題ないです。

 …それに、初めてのクッキングダムに

 そらみもはしゃいでいるみたいですし。」


そらみ

「じーちゃ、ですよ~♪」


シナモン

「ふふっ、そうかい。」


ソラ

「……そういえば門平さん。

 『わたしに大事な話がある』

 …と言っていましたが…

 なんでしょうか?」


シナモン

「ああ。

 …少し、歩きながら話すよ。」



……



シナモン

「……かつて僕が、

 ある罪の濡れ衣を着せられ

 そのせいでこのクッキングダムに

 長年帰れなかった…ってことは

 拓海から聞いているね?」


ソラ

「はい。」


シナモン

「…あっちの世界であんちゃんに出会い、

 恋に落ちて、お互い結ばれ…

 家族を作り、あっちでの永住を心に決めた…

 …そのことに後悔は一切ない。

 …………ただ、ね……」


ソラ

「ただ…?」


シナモン

「それは…

 昔の自分の夢と、

 かつての自分を取り巻く全てとの

 決別と同じ意味だったのさ…」


ソラ

「…!」


シナモン

「……若い頃思い描いていた夢、

 友人、父親同然でもあった師…

 ……その全てを諦めて…

 あちらで出来た家族を選んだ。

 …辛くなかったといえば噓になる。

 『今までの僕』を形作っていたモノを

 僕の意思で手放したんだから。」


ソラ

「……」


シナモン

「本気でここに帰るつもりだったら…

 ちゃんと公の場に姿を見せ、

 例え誰も耳を貸さなくても

 自らの潔白を声高に主張すべきだった。

 そう、すべきはずだったんだ。

 …でも、僕はそれをしなかった。」


ソラ

「…どうして…ですか?」


シナモン

「…愛してしまったからさ、家族を。

 愛したからこそ…

 手放したく……なかった。」


ソラ

「………」


シナモン

「…結果、

 この足で故郷の土を再び踏むことが出来たのは

 20年以上の歳月が過ぎた後…

 師匠の死に目も見れず、

 既に他界した知人も存在していた…

 …当然、夢はもう叶わずじまい…」


ソラ

「門平さんの夢…?」


シナモン

「…師匠から学んだことを活かし、

 このクッキングダムを守り、導く…

 そして、僕が成長して立派になったその姿を

 お世話になった師匠に傍で見てもらいたかった…

 それが……僕のかつての夢…」


ソラ

「…門平さん………」


シナモン

「でも…選んだんだ、僕は。

 家族を…

 あんちゃんを…拓海を。」


【シナモン、立ち止まってソラを見る】


シナモン

「拓海は…そんな僕に

 似てしまったのかもしれない。」


ソラ

「え?」


シナモン

「…ゆいちゃんの隣で

 末永く幸せに暮らしてゆく…

 ……それが、拓海のかつての夢。

 …でも…今、拓海の隣にいるのは

 ソラちゃん……君だ。」


ソラ

「……」


シナモン

「君を手放したくなかった、

 君と離れたくなかった…

 だから、拓海は…君を選んだ。

 ……君が、拓海の選んだ『今』で

 拓海の……『新しい夢』だ。」


ソラ

「……わたしが…

 拓海さんの新しい夢?」


シナモン

「……そうだ。

 だから…拓海のことをこれからも頼む。」



【シナモン、ソラに頭を下げる】



シナモン

「…過去の自分に背を向け、夢を諦める…

 それはものすごく…辛いことだ。

 その傷を癒し、拓海を支えられるのは…

 今、拓海の隣にいるソラちゃんだけなんだ。」


ソラ

「………」


シナモン

「……もしかしたらこの先、

 過去の夢への未練で拓海は

 君を傷つけてしまうこともあるかもしれない…

 それでも…どうか拓海のこと…支えてくれ。

 ……よろしくお願いする、ソラちゃん…」


ソラ

「………………」


シナモン

「………………」



ソラ

「………………はい。

 任せて…ください…!

 だって、わたしは……

 拓海さんのヒーローマザーですから!」

【シナモンの頼みに対し、笑顔で返答するソラ】


シナモン

「ソラちゃん……ありがとう。」


ソラ

「えへへ……♪」


そらみ

「ですですよ~!」


シナモン

「……ふっ。

 そらみちゃんも『任せろ』って

 言っているみたいだな。」


ソラ

「ふふっ…はい♪

 わたしと拓海さんの子ですもんね。

 愛する人のため頑張る…

 それも立派なヒーローです。

 その言葉通りならば

 そらみもヒーローガール、ですね♪」



……


~帰り道~


ソラ

「…そういえば大分以前、

 わたしのパパも

 似たようなことを言ってました。」


シナモン

「ん?」


ソラ

「『夢は多分、ひとつきりじゃない。

 たとえ見失っても、たとえ壊れても…

 それは何度だって生まれかわる』…と。」

ソラ

「……わたしも拓海さんも、

 そしてシナモンさんも…その言葉の通り、

 新しく生まれかわった夢を抱いて

 今を生きているんでしょうね…きっと…」


シナモン

「ほう…シドさん、

 そのようなことを…。

 ……ふふっ、あの人とも

 案外気が合うかもしれないな。

 …いつか夜通しで語らい合い、

 飲み明かしたいものだ…」


そらみ

「ですよ~♪」

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