かっこよさを殴り捨てて素直になるのも大事

かっこよさを殴り捨てて素直になるのも大事



※吸死クロスです


※かっこいいテスカくんなんていないのだ









 よう、ご機嫌よう諸君。オレの名はテスカトリポカ。昔は南米で神様やってた由緒正しき高等吸血鬼だ。

 オレは今、とある人間の世話をしている。古馴染み達は『世話をされてるの間違いじゃないか?』なんてクソ生意気なことを言ってくるがそれは置いておく。

 ソイツの名はデイビット・ゼム・ヴォイド。出会いのきっかけは・・・まぁアレだ、オレを猫だと勘違いしたアイツに拾われたんだよ。

 デイビットは幼い頃に巻き込まれた事故で父親を亡くしたそうだ。そのうえ記憶障害を患ったようで、一日のうち、五分しか記憶出来ないらしい。

 だからなのか、出会った頃のアイツは自分のことに無頓着というか何というか・・・『生きていればそれでいい』みたいなヤツだった。日々の生活に娯楽は一切なく、ただ食って寝る。人付き合いなんて皆無、そんな感じ。

 これじゃダメだと思い、オレは出来る限りアイツの世話をした。『必要な栄養さえ取れればいい』と言うアイツを黙らせて飯を用意し、『記憶に残らないから意味が無い』と言うアイツを無視してとことん遊びに連れてった。

 長年の努力が功を奏したのか分からんが、アイツは今オータム書店の編集者として、癖の強い作家や友人達と日々トンチキをしている。毎夜日記を書くアイツはとても楽しそうだし、明るい表情も増えたように思う。

 まぁ何が言いたいのかというと、オレはアイツのことを自分の子のように思っているってことだ。実際、アイツはオレからしたらガキもいいところだ。

 だから、アイツの笑顔を思い浮かべると妙な気分になるのも『これが父性ってやつか』とか考えてだんだよ、オレは。




 


 ・・・・・・なのにこれはどういうことだ。


 目を覚ますと見知らぬ部屋にいた、それはいい。全裸で寝ていた、これもまぁいいだろう。デイビットと暮らし始めてからは控えていたが、元々ワンナイトラブに否定的ではない。

 だがその相手が問題だ。

 隣で寝ているのは、デイビット。もちろん全裸だし、所々噛み跡やキスマークもある。

 ・・・落ち着けオレ、昨夜の事を思い出せ。ワンチャンに賭けろ。

 昨夜は確か、珍しく二人で飲みに行った。デイビットもだったが、オレもなかなかペースが早かった気がする。そして、酔ったオレはデイビットをホテルに連れてって、デイビットを押し倒して服を脱がせてー

 確定だ。ヤッてる。

 嘘だろ。オレはデイビットをそういう目で見てたのか。相手はまだガキだぞ?正気かオレ。

 きっと酒に酔った過ちだ、そこまで考えた時、隣からモゾモゾと音がした。デイビットが起きたのだろう。

 デイビットの少し気怠げな瞳を見た瞬間、オレの脳内はたった一言。

 

 うわ、エッロ。


 その後のオレの行動は速かった。

「おはようデイビット。早速だがオレは今から行く所がある。水はあそこ、風呂場はあっちだ。一人で帰れなさそうなら昼過ぎまで休んでオレに連絡しろ。」

 そこまで超速で捲し立て服を着た後、呆然とするデイビットを横目に、オレは窓から飛び出した。



 





「オレを殺せトリ公ォォォォ!!!!」


 シンヨコにあるトリ公の家のドアを思い切り開ける。何故かハチドリもいるが今は正直どうでもいい。


「へ⁈いきなり何なんですクソ蜘蛛!」

「いいから殺れェェ!オレの内なる獣が完全に覚醒する前に!!」

「に、兄様⁈気を確かに!しっかりして下さい!兄様ぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 トリ公のマカナを頭にぶち込まれ取り敢えず正気には戻ったが、その分罪悪感がすごい。

 最悪だ、死にたい。まさかオレが父性だと思っていたのが恋愛感情だったなんて。アイツの気持ちになって考えてもみろ、今まで親のように思ってた相手が自分に性的欲求を抱いてたんだぞ。ショックすぎるだろ。


「えっと、兄様・・・ひょっとして昨夜あの後、あの人間と何かありましたか?」

「・・・『あの後』ってお前まさか」

「えっと、はい・・・見ました。兄様が、あの人間と、その、ホテル街に入ってく姿を。」

「なんで止めねぇんだよお前ェ!!」

  なんてこった、まさか目撃者がいるとは。もうこうなったら誤魔化しは効かねぇ。

「あぁそうだよ!デイビットとヤったよヤっちまったよ!!なんて説明すりゃいいんだよどうすんだよこれから!!」


 嫌われたら、恐らく立ち直れない。それぐらいデイビットが好きだと自覚してしまった。それに、オレが知る限りデイビットに恋愛経験はない。もしオレを受け入れてくれても、それは本当に俺を好いていることになるのか?家族愛と恋情を混合しているだけなのでは?そんな考えが頭の中をぐちゃぐちゃに掻き乱している。


「・・・兄様、今は彼のところに行って下さい。」

 普段はオレに意見をしないハチドリが力強く言う。だが、今のオレはアイツに何か言われた耐えられる気がしない。

「・・・・・・今アイツのところに行くのは」

「大丈夫です。」

 普段の湿り気はどこへ行ったのやら、オレの目をまっすぐ見るハチドリ。

 そこまで言われたら、行くしかないだろう。

「・・・・・・・・・邪魔したな。」




「・・・止める必要なんてないのに。兄様って、鈍いのかしら。」

「あれは鈍いと言うより『親』のフィルターが掛かっているわね。」

「あぁ、だからあんなに取り乱して・・・」







 ドアの前で佇むテスカトリポカ。冷や汗びっしょりで手も震えているので、側から見たら「大丈夫かコイツ?」ってレベルである。

 大丈夫だ、落ち着け。いつも通りに入ればいい。そもそもここはオレの家でもありますし?何も気負うことありませんし?オッシ、行くぞ!!

 力んでドアを開けるも、特に変わった様子はない。そのまま静かに廊下を歩いていく。もしかしたらまだ帰ってきてないのでは?と思い、リビングのドアを開けた瞬間、

 デイビットが飛び込んできた。

「どわっ!!?で、デイビット⁉︎」

 後ろに勢いよく倒されるも、何とか頭を上げて胴体にしがみつくデイビットを見る。

「・・・・・・って・・・ないかと・・・・・・」

声が震えていてうまく聞き取れない。そうしたらデイビットはオレに覆い被さるように体勢を変えた。

「もう、帰ってきてくれないんじゃないかと思った・・・!」

 デイビットは泣いていた。ポロポロと止まることなく、涙がオレの顔を濡らしていく。

「やっと、お前と通じ合えたのにっ、急にいなくなるから、もう、会えなくなるのかと思って、俺、怖くて・・・!」

「は、おいおまっ!」

 デイビットの唇がオレの唇を塞ぐ。触れるだけの、軽いキス。

「・・・・・好き、なんだ、テスカトリポカ。ずっと前から。お前のことを考えると、胸が温かくなる。お前がいない事を想像するだけで、苦しい。耐えられない。」

 不器用な愛の告白。洒落た言葉なんて一つもない。

 だが、それで充分だ。

 体を起こし、そのままデイビットを押し倒す。さっきとは真逆の体勢だ。

「・・・いいのか、絶対離さねぇぞ。」

「うん、いいよ。ずっと側にいて。」

「ハッ、そうかい。」

愛してる、そう言ってオレはデイビットに深く口付けした。









後日、古馴染みや知り合い達から「やっとかニブチン」だの「おせーんだよ、金玉付いてんのか?」だの何だの言われることをテスカトリポカはまだ知らない。

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