かくしん

かくしん

鰐が20歳のイメージです駱駝は24

✂親殺し失敗して弟が売られてしまったルート(>>118)

✂待機19の流れから拾ってる設定あります

ifにifを重ねているのであまり深く考えない方向で⋯







「外に出るのと海図を描ける事になんの関係があるんだ」

羽ペンを手に隣に広げられた海図を写しながら尋ねると、男は何時もと同じ微笑みを浮かべる。

「仲間がいれば必要ないけれど、ある程度知識があって困ることはないよ。特にこの“偉大なる航路”ならね。自分が描ければ航海士を仲間にした時指示しやすいし、地図が読めなくて合流できない⋯⋯なんて、笑い話にもならないからね」

「おれは」

海岸線を引く手が止まってインクが滲む。

「外に出たいだけ」

「外で生きる為には色んなものが足りないよ。特にクロは人より少し、遅れて勉強してるんだから。しっかり学んでちゃんと私を」

駱駝と同じ瞳が子供の様に輝くのを見て思う。

「殺さないと」

とんだ嘘つきだ。おれをここから出す気なんて更々ないくせに。



手錠の重さも感じなくなった頃に突然現れた男は声を出す暇もなく天竜人の首を刈り取り周囲にいた人間で血の海を作り出すといつの間にかおれはどこか懐かしい船にいて目の前には大きな鋏を持つかつて兄だった男がいた。

「良かった。生きてた⋯」

クロ、と何度も一人からしか聞かなかった愛称を繰り返されて自分の名前と売られる前の事をぼんやりと思い出すが男の名前は出てこなかった。

両親は死んだこと、半数以上の部下がその時一緒に死んで今船員は新人ばかりだという話だったが最後まで両親の詳しい最期や事情は聞けなかった。

「安全だから」

そうやって男に連れてこられて人の喋り方から読み書きまでなんでも教えられたが外へ出れることはなく

「ここから出ちゃダメだよ」

結局自由はないまま何年か過ぎた頃、

「危険でもいい。外へ行く」

投げやりな言葉に驚く男は想像していた通りのものだ。どうせ何処へ行っても自由がないなら海にでも飛び込んで死んでやる。言うことを聞かないならと怒り狂った男に殺されるのが先だろうが。

そう考えていたのに出てきたのは予想とは違った答えだった。

「本当? じゃあ私を殺したら出て良いよ」

「は?」

「体力作りはしてきたし。リハビリも十分やってきた。覇気って分かる? ちょっと試しに感じてみようか。覇王色はこう」


ベッドで目覚めてから改めて説明を受けた。

「勉強をたくさんしなさい。全部学んで強くなって私を殺して出ていく事」

諦めさせる為の行動が遠回し過ぎる。

兄の名前も思い出せない元弟に何故こんな事をするんだ。早く棄てろと言いたかったが。

「頑張ろうね」

気味の悪い笑顔を見て止めた。








「少し休憩しようか」

1日数度、休憩と言ってはお菓子を出してくる。どうやら甘党の様で毎回量が馬鹿みたいに多い。

「どのケーキがいい?」

と聞かれたので適当に指差すとモンブラン美味しいよね!と言いながら残りのケーキを自分の前に並べだす。一度、毎食その量を食べるなと睨んだが

「あ⋯⋯まだ食べる?」

と苦しそうに言いながら別けようとするのでそれから余計なことはしないようにしている。

「なにか聞いておきたいことある?」

「名前」

「お兄ちゃんで!」

呼ぶわけないだろ。

「思い出してないならどうでも良いんじゃないかな。大丈夫問題ないよ」 

続けられた言葉にムカムカしながらケーキを食べる。ここに来てから多分世界中の甘いものを食べ尽くしたのではないだろうか。

「じゃあ、その傷」

「傷?」

「おれが子供の頃顔に傷は無かった。誰に負けた?」

あれだけ大暴れして天竜人まで殺せるような男が誰に負けたのか興味があった。

「なるほど。そう⋯⋯だね」

男は少し悩む素振りをしたが本当に素振りだけであっさりと明かした。

「親とちょっとね。その時に」

「親⋯」

「そう。負けちゃって大事なもの失くしちゃった」

宝の取り分で揉めでもしたのだろうか。僅かに残る記憶の中で親に逆らう場面など無かったが男はおれの世話を押し付けられていた様子だったから解放された分、欲が出たのかもしれない。

「船長の命令は絶対だろう」

「私は嫌だったからね。リベンジしたから問題ないよ」

「取り返したのか」

「まあ、結果的にはそうかな。ケーキ美味しかった?」

「⋯⋯半分やるよ」

「朝食べたのとどっちが良かった?」

答えるまでしつこいのは知っているので渋々モンブランと呟くと笑って皿を下げる。

「紅茶のおかわり持ってくる。その後はまた実習ね」

いつでも楽しそうなのが不思議で以前理由を訊ねた。

「クロが夢を追いかけてるから」

外に出たいとしか言っていないし出たら最初死ぬ気だったのに夢もなにも有るわけない。

今は⋯⋯まあこいつを殺せたら自由に生きれる確率は大いに高くなるだろう。少しくらい楽しんでも良いかもしれない。

殺せたら死ぬ前に名前だけでも聞き出して墓建ててやる。勿論、大量のお菓子を棺桶にぶちこんで。

その日の為にまずは紅茶を待つことにした。















蛇足の記憶(喪失済)











やっぱりあかない。

目隠しをされて両手足を縛られて狭い檻に押し込まれてどのくらいの時間が経っただろう。

待ってて、というアニキの声を聞いてから待ち続けたがそれから何も起こらない。なにを待てば良いのかも分からない。

──殺されるのをだろうか。

そう考え始めていたところに布越しに光と何かが放り込まれる音と呻く声が宝物庫に響いてすぐに扉は閉まりまた暗闇が広がった。

「アニキ⋯⋯?」

恐々と出した声に兄の今まで聞いたことのない弱った声が聞こえて勝手に涙が出てきた。

「クロ⋯⋯⋯泣かないで」

「泣い、てない」

そう。と声と共に何か水のような物が落ちる音がして檻に何かが当たる音と頭を撫でられる感触に顔を上げてもアニキがどんな顔をしているのか見えることはなかった。

「クロ、絶対迎えに行く」

「迎えに」

「信じて」

いつもなにを考えているか分からなかったが今のアニキが必死な声だということは理解できた。

「クロ、夢はある?」

「ゆ⋯? なに、いきなり」

「聞かせて」

「こんな時に言ってどうなるんだよ⋯⋯」

叶わないのに。

「クロ」

「だって」

「クロ」

「じ、自由になりたい。海を好き勝手に旅したい。昔の人が言った空にだって海の底にだっておれ⋯⋯いきたい」

「行こう」

短い人生の中で聞いた一番力強い声だった。

「私がクロの夢を叶えるから。待ってて。忘れそうになったら夢の事だけ考えて。なにを忘れても良いからそれだけ覚えてて」


絶対行くから。叶えに行くから。


アニキはただそれだけを刻み込むように繰り返していた。

おれは動けない体でバカみたいに泣きながら、頷いていた。













アニキといきたいとは、さいごまでいえなかった。

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