お題:『手をつないでもいいですか?』

お題:『手をつないでもいいですか?』


・トレーナーは男女どっちか決めてません

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 艶やかな銀色が夕日によってますます輝く。サラサラの長髪とよく動く尾が、まるで気まぐれな彼女のように揺らめいていた。

 いつものトレーニングを終え、ウッドチップコースから、夕暮れに染まる校舎へ戻る道中。先を行くゴールドシップを見て、トレーナーはその疲れ知らずな足取りに感心していた。

 ここ数ヶ月のトレーニングにより、ゴールドシップの足腰の強さやスタミナはかなり鍛えることができた。今度はスピードを意識したトレーニングメニューを考案しなければ。年末の大レースまであと1ヶ月もない。

 今後のスケジュールを脳内で整理していると、ひゅう、と勢いよく北風が吹き、トレーナーは思わず肩をすぼめた。

(うう、寒い)

 ジャパンカップが終わった段階で、本格的に冬が到来したと言っても過言ではないのだから、納得の寒さではある。体に耐寒性があるかどうかは別として。

「なー」

 自身の息で手のひらを温めているうちに、いつの間にか歩みを止めていたゴールドシップが、トレーナーの前に立ちふさがっていた。

「手繋ごうぜ」

 そう言って彼女はすっと左手を差し出す。再びひゅうと北風が吹いた。

 ゴールドシップとはたいてい想像の範疇を超えるウマ娘である。それはトレーニングやレース中のみならず、日頃の生活でも該当する。例えば突然宇宙の話をし始めたり、漁に出向いたり、メジロマックイーンやトーセンジョーダンに勝負を挑んだり。その動機や理由は誰にもわからない。彼女がそう思ったからそうしただけのこと。

 さて、そんなゴールドシップにとって、手を繋ぐ行為にはどんな狙いがあるのだろうか。

「おーい? 聞いてんのかー?」

 彼女が小首をかしげると、長い銀の髪がさらさらなびく。ぎゅう、と寄せられた眉根は、沈黙を続けるトレーナーへの不満を表していた。このままだときっと、ゴルシちゃんはなんて可哀想なんだと下手くそな泣き真似をされるに違いない。

(……まあ、この後何も無いからな……)

 もしもとんでもないことになったとしても、この後特に用事はないから大丈夫だろう。

 多少のトラブルを覚悟して、トレーナーは彼女から伸ばされた手を握った。同時に再び冷えた風が吹く。カサカサと枯れ葉が道を転がっていく音がする。けれどゴールドシップとトレーナーの間にはなんの音もなかった。痛みも、しびれる感覚もない。爆発もしない。ただ彼女の手が温かいだけだ。

「……なんだー? その顔」

 自分の神妙な顔を不思議に思ったらしく、ゴールドシップは先ほどとは真逆に頭を傾けた。

 何か理由があるかと思って。素直に伝えると、彼女は目を丸くして、ぱちり、瞬く。

「さみーんだろ。ほら、さっさと帰るぞ!」


そうして手を繋ぎ帰る二人を、ほんのり光る月だけが見ていた。


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