お見合いSS
※1準拠の未来設定
※ペパーからオモダカさんへは敬語使ってない?何故か「ちゃん」に当たるところが「さん」になってるのでそれが敬語代わり?という感じなのでそんな感じにしています
※内心ウキウキペパーだけどオモダカさんとの会話メインなので描写は少なめ
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「ペパーさん。突然不躾な質問で申し訳ないのですが、お付き合いされている方はいらっしゃいますか」
仕事明けのペパーを訪ねてそんなことを言ってきたのは、誰あろうトップチャンピオンであるところのオモダカだった。
「いないけど……ホントに突然だな」
ペパーは怪訝そうに眉をひそめた。
例えば彼女がもじもじするなり頬を赤らめるなりしているなら唐突にしても質問の意図は分かりやすいのだが、実際はまったくの真顔。
そもそもあまり深い関わりがあるとは言えないトップチャンピオンに事務的に確認されるとなると、何か恐ろしいことの前触れなのではないかという気さえしてくる。
「そう身構えないでください」
ペパーの警戒を察したのか、オモダカはにこりと笑顔を浮かべた。
「貴方との食事会を是非こちらでセッティングさせていただきたい方がいらっしゃるのです。勘違いのないようにあけすけに言うならお見合いですね」
「お見合い?」
一介の料理人が身を固める話にトップチャンピオンが関わってくるなんて聞いたこともない。
そもそもペパーには、想いを寄せる相手はもう存在する。まだ伝えることこそできていないが。
「悪いけど今は忙しいんだ。誰かと付き合うとか結婚するとか、そういうのは別をあたってくれ」
「相手がチャンピオンアオイでも、ですか?」
「……なんでアオイが」
狙ったように出される想い人本人の名前に、無意識に睨むような表情に切り替わったペパー。
成長し体格の良くなった彼の威圧感を前にしても、どこ吹く風といった風にオモダカは続ける。
「近頃は彼女がとても多忙だというのは本人から聞いているでしょう?」
その通りだった。本人は自分からあちらこちらに首を突っ込んでいるからだとおどけたように話すが、色々な人に手を貸して目の回るような日々を過ごしているのだという。
毎日が充実しているのだと話すアオイの笑顔も輝いていたが、ペパーとてそれが心配なのは確かだった。
「どなたか心の支えになってくださる方がいればチャンピオンアオイの心労をいくらか和らげられるのではないか……そう考えたのです」
ここで一旦言葉を切り、オモダカはペパーの方をうかがった。
そして彼が何か思案している様子に満足したような様子を見せる。
「もちろん無理にとは言いませんし、断っていただいても構いません」
オモダカはなんでもないことのように言うが、もし自分が断れば他の誰かに話が行くだろう、とペパーは考えた。
そしてアオイは立場上も性格上もおそらくそれ自体を断ることはない。
アオイであればきちんと話をした上で断るであろうことまで予想はついたが、そもそもどこの馬の骨とも知れないヤツとアオイに結婚を前提とした話をされること自体がペパーには我慢ならなかった。
「わかった。オレはいいぜ」
オモダカはこくりと頷く。
「では、この件はチャンピオンアオイには内密に。相手が貴方であることは一旦伏せて打診します」
え、とペパーは目を瞬いた。
アオイとのお見合いなのにアオイに内緒にしろとはどういうことなのか。
「貴方相手と事前にわかっていては彼女の心構えも緩くなってしまうでしょう。それでは意味がないのです。お見合いをするのであれば相応の意識は持っていただかないと」
やっぱりどこか恐ろしいことを言って、それに、と薄く微笑むオモダカ。
「彼女の気持ちを確認するいい機会ではないでしょうか?貴方に相談をした上で引き止めて欲しいと思われる素振りがあれば脈がある……ということです」
ペパーは息を呑んだ。
今の自分の想いについて、おそらくは詳細なところまで察されている。
「それって……」
「ああ、ご心配なく。貴方の後見人はすでにこちらで手配済みです」
かけようとした質問は別の回答で封殺された。
言われてみればそれも重要な問題ではあるのかもしれないが。
「では、チャンピオンアオイにはこちらから声をおかけしておきます。貴方たちによき縁がありますように」
「……なんでもお見通しさんかよ」
ペパーはアオイのことが好きだ。
アオイもまたペパーを好いてくれていることはうっすらと感じていた。
それでも一歩踏み出さず親友の位置に甘んじているのは、アオイが誰にでも好意的に接する天才であったから。
彼女の周りにいる多くの仲良しちゃんの中の一人。
そういう立ち位置から自分が実際のところどの程度脱却できているのか。ペパーにはまだ掴めていなかったのだから。
「週末お見合いすることになった」と。
アオイがどこか物憂げな表情でそう伝えてきたのは翌日のことだった。
「なんか言わないの?」
恨みがましいとまで思えるその視線を受けて、当のペパーはといえば内心で歓喜に震えていた。
いつも快活でオモダカからの依頼も笑顔で快諾しているというアオイの眉が下がり、何かの言葉を求めるようにその瞳がこちらをまなざす。
オモダカの言を借りるのであれば完全に脈があるといって間違いはなかった。
飛び上がりそうになるのを抑えて、さも自分は気にしていませんといった風に振る舞うほどに、アオイの口元は不満げに結ばれる。
その目がもっと潤んだり、絶望の色を宿したりしようものならペパーはきっとすぐに求められた通りの言葉を吐き、なりふり構わず抱きしめていただろう。
気丈にも唇を尖らせるに留まったアオイが「時間できたら電話してもいい?」となおも食い下がるのに対して、いかにも冷静に「こっちの用事が終わってたらな」と返答できたのは奇跡のようなものだった。
自室に戻り、ペパーは相棒ポケモンにひしりと縋り付いた。
「マフィティフ!アオイ、オレのこと本当に好きかもしれねー!」
「バウ」
昨日も「もしアオイが相手もわからないお見合いにノリノリだったら」と散々気を揉むペパーに毛皮をもさもさにされたマフィティフである。特に動じることはなかった。
「お見合いの後に会えないかって言ってるの可愛いよな!?オレにコメント求めるつもりなんかな!?」
気が済むまでマフィティフを構い倒したペパーは、一呼吸置いて目つきを鋭くする。
「オレさぁ、週末……頑張ろうと思う」
全てがペパーの勘違いで、いざ姿を表してみれば「なんだペパーか」とつまらない顔をされる、なんていうのもまだ考えられる。
それでも、あの態度を見せられてしまっては適当なことはできない。
「プロポーズ……は早いか!?でもお見合いだしいいのか!?マフィティフはどう思う!?」
「バウフ……」
マフィティフは回答を持ち合わせない。どう見ても浮足立っている男を前に、軽く鼻を鳴らすくらいが関の山なのであった。