お見合い
※1の設定の行間を妄想、未来設定
アギャア? と鳴き声がして、アオイはハッと我に返った。すぐ近くで、ミライドンがアオイの手にあるサンドウィッチをスンスン嗅いでいる。作ってからずっと、ポケモンたちが食べ終わっても一口さえかじらずにただ持っているだけだったのを、ミライドンが不思議に思っていたらしい。
「何でもないよ、食べるよ」
そう言って口を開けたが、どうしても中にいれることができない。
「ミライドン、やっぱりあげる」
サンドウィッチを差し出すと、ミライドンは待ってましたと言わんばかりにガツガツと食べ始めた。
その姿を見ていると、学生の頃を思い出す。
ペパーとスパイス巡りをしていたあの時も、ミライドンはこうやってアオイのサンドウィッチを欲しがった。
あのときは、ペパーが自分の分を半分くれたり、二回目以降は二つ作っておいてくれていた。
堪らず、大きなため息が出る。
「はぁあ〜……ミライドン……ペパー、やっぱり私のこと友達としか思ってないのかな……」
ペロリとサンドウィッチを平らげたミライドンは、アオイのため息交じりの弱音に「アギャ?」と首を傾げる。
やっぱり、お見合いをすることになった、なんて試すようなことを言わなければよかった。
試すも何も、お見合いをするのは事実なのだけれど。
トップオモダカにいきなり話を持ってこられた時は驚いた。お見合いの予定ができました、なんて言うものだから、ついにトップにいい人が!? と色めきだったのに、すぐ自分のことだと知らされてヤヤコマが豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。
慰労だとか何だとかだそうだが、アオイは断ろうとした。
そうしたら、トップは『差し出がましいようですが、既に決まった相手が?』などと聞いてくるのだから、アオイはつい、出来心が生まれてしまった。
─お見合いすること、ペパーは反対してくれるかな?
あのエリアゼロの出来事以降卒業するまで、卒業してからも、ペパーとアオイは友達だった。大切な友達だった。ネモや、ボタンと同じく。
友達ならば、それこそネモやボタンならば、アオイが乗り気で相手が─どこのバンバドロの骨か知らずとも─いい人ならば、会うだけ会ってみてもいいんじゃないか、ときっと言う。
ペパーも、そうだろうか。
唐突で厄介なお節介話だったが、アオイはトップオモダカが持ってきたその唐突で厄介なお節介話を、リトマス紙にすることを思いついたのだった。
その結果、惨敗。
例えるなら、行けるかなと思ったら相手が平均レベル10以上上のフルパーティを組んでいて、相手の二、三体目にこちらの最後の六匹目をひんしにさせられてめのまえがまっくらになったような気分だ。
会ってみてもいいんじゃないか、とも言われなかったけれど、止められもしなかった。
しばらくミライドンの体に寄り添って深い溜め息を吐く。
なんだなんだと手持ちみんなが周りに寄ってきて心配するから、アオイは三度目の溜め息を最後に、顔を上げた。
「……まあ、仕方ないか。友達なのは本当だし。うん、大丈夫、大丈夫」
大切な友達。それは変わらないのだから、嘆く必要などない。ポケモン勝負の戦略ならともかく、思いつきの色恋の駆け引きが空振りしたところで、落ち込む必要はないのだ。
アオイは、そういうことにすることにした。
「相手の人には、ちゃんと誠心誠意断りを入れて……あーあ、変な人じゃないといいな」
ミライドンにもたれかかりながら、その日のことを思う。少し憂鬱。
お見合いが終わったら、ペパーの店に行ってサンドウィッチを作ってもらおう。ミライドンの力を少しずつ取り戻させて、ペパーの大切なマフィティフを少しずつ元気にさせたあの日のサンドウィッチのような。
アオイはそう決めた。
それだけで、色恋勝負の惨敗や、きたる日の憂鬱が、きりばらいされていくようだった。