お披露目会

お披露目会




※🌍視点のお話。

ドレスと騎士の衣装のモデルに選ばれた二人という設定。

ファン向けにお披露目会があり、控室から会場へ向かう道中の一幕。

明言されていませんが、🌗→←🌍くらいの距離感。



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うう、ヒールなんて普段履かないから歩きにくい……。

人前ではまず絶対しないようなひどいしかめっ面をしながら、私はどうにか歩を進めていた。

綺麗に着飾ったドレスを着崩さないよう、慎重に。


いつも周囲からはしっかり者と見られているし、自身でもそれを意識して行動している。

だから今回、特別なドレスのモデルに選ばれ、ファンたちに向けたお披露目会も完璧にこなさなければと気合を入れて臨むのだ。

それだけに。


――こんな姿、彼にだけは見られたくない。


ただの靴に苦戦する自分の姿を誰かに見られるのはごめんだった。ましてや、今日のお相手は彼なのだ。

意識していないといえば嘘だ。

美男美女でお似合いだよね、というファン同士の会話だって耳にすることもある。正直、満更でもない。

が、「完璧な私」を求める周囲の期待をいつの日か裏切ってしまいそうで怖くもある。


私が、しっかりしなければ。


きっと彼はこういう場は緊張するに決まっている。だから私がフォローして彼をリードしなければ。

だから早めに出てきたというのに、お披露目会の開始時刻が迫っている。

晴れ姿を楽しみに集まってくれているファンたちのためにも急がないと。

しかし、慣れない靴のせいでいつものように颯爽と歩くこともままならず、焦る気持ちだけが上手く動かせない脚を置いて、どんどん先へ行ってしまう。

と、


「あ、っ!」

脚がもつれる、まずい!

咄嗟に大事な脚は庇ったものの、このままだと背中から…!



「あ、あれ?」

「……間に合った」

待ち構えていた衝撃は無く。

ふう、と安堵の息を吐きながら隣に現れた彼の表情は、少し焦りの色が混じっていて。

息は切れていなくても急いで駆けつけて後ろから抱きとめてくれたのは状況から見ても明白で。

「ご、ごめん!」

途端にこんな自分を見られたことが情けなくて恥ずかしくなって、泣きそうになる。そんな表情も見せたくなくて、顔を伏せて彼の腕から抜け出そうとした。


しかし、彼はそれを許さなかった。

「一緒に行こう」

そう言って肩を支えていた手が腰に回る。

「え、ううん、1人で大丈夫だよ!」

思わず顔を上げてしまった。バッチリ目が合う。

髪型キマってる…カッコいい……。

しっかりと自分の腰を支える彼の腕はがっしりと逞しくて男性的で、男女の違いをまざまざと感じて心臓が跳ねる。

「じゃあお披露目会の予行演習だと思って。ね?」

一気に思いもよらないことが起こりすぎて何だか頭が回らない。

彼の目を見つめたまま、生返事で了承せざるを得なかった。


それから二人並んで会場へ向かう。

少し状況が整理できた私は、回転を始めた頭で彼のことを考えながら歩いていた。

彼は与えられた騎士(ナイト)風の衣装をまるで最初から自分のものであったかのように着こなしている。

セットした髪型もいつもと違う雰囲気があって、コロンか整髪料の香りもする。

――すごい、大人びて見える。

スタートラインは同じだったはずなのに。何なら私のほうが少し早くメイクデビューの日を迎えたのに。

そして誕生日だって私のほうが約1ヶ月早い。少しだけ私がお姉ちゃんなのに。

隣を歩く彼はいつの間にか、しっかりと"大人の男性"になっていた。


以前は誰かと一緒でないと緊張していたのに、こんな堂々と1人で歩いているなんて。いつの間にこんなに変わったんだろう。

なんだか遠い存在になってしまったような気がするな…なんて少し切なくなった。

ふと視線を感じて顔を上げると、彼の目が真っ直ぐ私を射抜いていた。

目力に思わずドキリとして息を呑む。

見つめ合ってから長い時間にも一瞬にも感じた刹那、

「だいじょうぶ。ほら、ちゃんと君の隣にいるよ」

なんて言って、鋭かった目を細めてふわりと笑うものだから。

「一緒にゆっくり、歩いて行こう。僕がついてるから」

「……そうだね、一緒に行こう」

「じゃあ、…お手をどうぞ、女王様?」

やや仰々しくそう言った彼の手を、笑いながら取ってから、負けじと彼の腕に自分の腕を絡ませる。

彼は不意打ちに驚いたようで肩が跳ねていたが、少しでも私をドキドキさせた仕返しになっただろうか。


私は先程よりもしっかりした足取りで会場に向かうのだった。

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