お姉ちゃんと私
小さいころ、私はお姉ちゃんが大好きだった。
お姉ちゃんは、歌が誰よりも上手くて、人一倍優しくて、みんなと仲良しで。私の一番の憧れだった。
私なんか全然ダメダメだった。歌もお姉ちゃんより下手で、すぐに風邪で寝込んでしまうくらい身体が弱くて。お父さんにも、ホンゴウさんにも迷惑をかけてばかり。
お姉ちゃんがいなかったら、多分私は船の上で一生を過ごしたに違いない。ルフィやフーシャ村の人達と、ベッドの上の私を繋げてくれたのは、間違いなくお姉ちゃんだったから。
ルフィと遊びに行った日、お姉ちゃんはウキウキで船に戻ってきた。なんでも、お互いに『新時代』をつくる夢を誓い合ったらしい。
「アドは夢ってないの?私達と一緒に『新時代』作る?」
そう尋ねてきた私にはそれがとても眩しくて、私が二人の円の中に入るのが憚られるようで。
「私は…お姉ちゃんの『新時代』の手助けがしたい…かな」
そう言って、自分の答えを放り投げてしまった。だって、私なんかが、そんな大それたことを出来るわけないと思ったから。
お姉ちゃんと、お父さん達さえいれば、それ以上は望まない。そう思っていた。
あの日が来るまでは。
音楽の都エレジア。次の航海の目的地はそこだった。
以前からお姉ちゃんと行きたいと言っていた島。それなのに、私の身体はまるでそこに行くなと言うように、重い風邪を発症した。
ホンゴウさんが言うには、少なくとも1週間以上は回復が望めないらしい。これでは、エレジアどころか航海すら満足に出来ないだろうと。
「だ、大丈夫!私は我慢出来るもん!お姉ちゃんだから!」
そう言って胸を張るお姉ちゃんは、私の目にもショボンと落胆しているのがわかってしまって、足を引っ張るのがとても申し訳なかった。
だから、風邪を拗らせた私をフーシャ村に置いて行って、お姉ちゃん達だけで行ってきてほしいと提案した。お姉ちゃんもお父さんもすごい渋ってたけど、なんとか頷いてくれた。
出港当日、マキノさんに支えられながら、何とか見送りに出ることができた。お姉ちゃんと抱き合って、いっぱい思い出話聞かせてあげるからねと、産まれて初めての離別を惜しんだ。
それが、私の見たお姉ちゃんの最後の姿だった。
「ウタは歌手になるために船を降りたんだ」
風邪が快癒し、今か今かとお姉ちゃんを待ち続けた私を、お父さんの一言が貫いた。
隣で一緒に出迎えたルフィが何かを叫んでいたことは覚えている。逆に言えば、その一言と、ルフィ以外のことは何も覚えていなかった。
ショックで気を失った私が改めて目を覚ました時、お姉ちゃんはやはりどこにもいなかった。
そこからのフーシャ村での日々は、もうほとんど覚えていない。