お友達
今日、『お友達』が来る。
ここは矯正局。私は罪人。
待ち人は、一校のトップの一角。
本来なら、私などに時間を割くべきではない人。
罪悪感と歓喜の感情と共に、私は待ちわびる。
千秋の思いでいると、面会室の扉が開く。
———来た。
「久しぶりですね、ハナコちゃん!」
「…ええ、お久しぶりです。ヒフミちゃん」
阿慈谷ヒフミ。私の『お友達』。そして、現ティーパーティーの一角。
「ハナコちゃんが元気そうで何よりです!」
そういう彼女の顔には、疲労の痕が浮かんでいた。
慣れない仕事で疲れているのだろう。隠そうとしても疲労の痕跡が見て取れた。
———私のせいで。
「ヒフミちゃんは…どうもお疲れのようですね?」
「あはは…わかっちゃいます?」
彼女の顔を見ていられなくて、視線を下に落とす。
「ごめんなさい、私が———」
「———ハナコちゃん」
その声に視線を上げる。彼女の顔は、私を慈しむ笑顔をたたえていた。
「私が自分で選んだんです。だから、いいんです」
「…はい」
「それより!」
彼女が話題を変える。
「ハナコちゃんの方は最近どうでした?」
「うーん、流石の私も牢獄だとあまり話のレパートリーは増やせませんね…ヒフミちゃんの近況の方を教えてもらえませんか?」
「でも、それだと私が話でばかりに…」
「いいんですよ、私が聞きたいので」
「…分かりました!じゃあちょっと愚痴っちゃいますね!」
それから、彼女と他愛ない会話をした。
自身のこと、周囲のこと、学校のこと、新しい仕事のこと…。
その中で、彼女はある案件についての愚痴を漏らした。
「ヒフミちゃん、それは———」
「———駄目ですよ、ハナコちゃん」
つい、解決策を挟みそうになった私を、ヒフミちゃんが制した
「ハナコちゃんはもう、トリニティに関わっちゃいけない…いけないんです。ごめんなさい。私も軽率でした。」
「———いえ、そうでしたね。ごめんなさい、ヒフミちゃん」
間違いを犯しそうになり少し気落ちした私を、ヒフミちゃんが励まそうとする。
「あはは、いいんですよ!ハナコちゃんが私のためを思ってくれたことは分かってますから!でも…」
「今は私にも、補習授業部の皆や対策委員会の人たち以外にも仲間ができましたから!皆で頑張ってるから、きっと大丈夫です!」
『仲間』。
その言葉に、胸にズキリと痛みが走る。
———そんな資格、ありはしないのに。
「…ハナコちゃん?」
不味い。
「ああいえ…最初は一時はどうなることかと思いましたが、見違えたなぁと」
直ぐに仮面を被り直して、話を逸らす。
「…少しは、ティーパーティーらしくなりましたか?」
「ええ、もうすっかり」
「…ありがとうございます。ハナコちゃんにそう言ってもらえて、自信がつきました」
彼女がそう告げた瞬間。
キーンコーンカーンコーン
チャイムが鳴る…そろそろ、彼女の帰る時間だ。
「あ…もう時間ですか」
「そうですね…今日は休日でしょう?早く帰ってゆっくり休んでください」
「うー、そうですね。大事な役職についた以上、ちゃんと休むのも仕事ですし…」
残念そうな彼女だったが、直ぐに気を取り直して別れを告げる。
「———それじゃあ、ハナコちゃん。また会いましょうね!」
「———はい。また、いつか」
そういって、彼女は去っていた。
「………はぁ」
彼女の前では堰き止めていた感情が、顔から口から漏れ出てくる。
ああ。
私はもう、彼女の『お友達』にしか、なれないんだな。