お前死んでも寺へはやらぬ 焼いて粉にして酒で飲む
タイトル通りの話
ちょっとカニバっぽい
炎の爆ぜる音がする。
兵士達の怒号も、動揺も、嘆きも今は遠い。黙らせなければと思いはするものの揺らぐ炎の中で崩れ落ちてゆく棺の前から立ち去る事はできなかった。
全く余計な事をしてくれた。ベラスケスも、アルバラードも、私の足を引っ張ることしか出来なかったらしい。せめてあと少し、もう少しでもタイミングが違っていたならばこんな事態を招きはしなかったものを。
暗い夜空に紛れて煙は天へと立ち昇る。けれど洗礼を拒んだ貴方は父の元へ迎え入れはしない。最後の日に楽園へ至る事もない。
どれだけ言葉を尽くそうと貴方は決して私の手を取ってはくれなかった。
だから、これが最後の別れだ。
途中部下達が代わる代わる私を呼びに来るのを下がらせ、私は一人きりで炎が消えるまでただそれを眺め、やがて炎が火となりすっかり消えてもなお白い灰に成り果てた王の傍らから離れがたかった。
ふと生温い風が吹く。夜の風が灰を拐って連れて行く。
その時私の中に湧き上がったのは強い怒りだった。
怯える兵士達を掻き分けラムの瓶を引っ掴む。彼らが引き留めるのを拒むも追っては来ない。王の呪いでも恐れているのか。それならそれで都合が良い。急いで私は彼の元へ戻り、手袋を投げ捨て跪く。
灰を掴み、口に押し込む。酷い味だ。人間が口にしていいものではない。構うものか。ラム酒で無理矢理流し込む。残っていた熱に皮膚が焼ける。なんの問題がある。奥歯が硬い物に触れる。そのまま噛み砕いて飲み込む。今のは土が混ざっていたかもしれないな。まあいいか。
途中何度もえずいて吐き戻しそうになるのを飲み込みながら、私は顔中を汚しながら彼を口に運び続けた。
気付けば私は灰と煤と土に塗れて蹲っていた。飲みすぎたせいか食べすぎたせいか気持ちが悪いが、気分は爽快だった。
我らの神を拒み、貴方の神に背を向け、貴方の民に拒まれた王よ。誰にも渡しはしない。私が貴方をどこまでも連れて行く。
「貴方が愛し、貴方を愛さなかった国を私は必ず滅ぼします。貴方は黙ってここで見ているがいい」
それが終われば私はこの地を統べる事となるだろう。だがその前に一度スペインに戻る事になるだろうが。
「ああ、その時は私の故郷を紹介しましょう。きっと貴方も気に入ってくださる」
温かくなった腹を抱えて丸くなる。一眠りしたら戦いが始まる。打開策を考えなくては。
夜の風はいつの間にか止んでいた。