お兄ちゃんと一緒(5号編)

お兄ちゃんと一緒(5号編)


エランは出掛ける支度をしていた。これには特に深くもない理由がある。


――時は少し遡る。

「5号、お前さあ、俺のプリン食べただろ」

「えー、何の話?」

いきなり苛立った口調で絡んできたエラン様に5号は適当に答える。

「忘れたとは言わせねえぞ。俺のマロンプリン」

「ああ、あれエランさまのだったんだ。美味しかったよ♪」

てへっと舌を出してみると、エラン様はオエーと吐くジェスチャーをしている。

「だから代わりにお前のおやつ食ってやった。」

「は!?マジかよ」

冷蔵庫を探す。ない、どこにもない。僕のガトーショコラ!

「うーわ、ほんっとエランさまって性格悪いよね」

「お前が言えたことか。懲りたら俺に詫びプリン寄こせ。栗味のだぞ、間違えるなよ?」

「性格悪くて、人使いも荒いし最悪~。睨まないでよ、買ってくるって」


回想終了。この上なくどうでもよくて、捨て置けない事情のため、エランは買い出しに向かおうとしていた。

準備をしている間、ずっと足元でちょろちょろと動き回っているチビがいてやりにくい。

「にぃに、おでかけ?つれてって!」

「だーめ、スレッタはお留守番」

「けち!」

スレッタはむうっと頬を膨らませて怒っている。しかし、手はがっしりと足を掴んでいて離そうとしない。

エランはしゃがんでスレッタと目を合わせて、お願いをしてみる。

「君にもプリン買ってあげるから。いい子で待っててね」

「ぷりん……」

手が離れた隙にサッと抜け出して、外へと向かう。一応チラリと後ろを確認してみると、スレッタは動いていないようだった。

「じゃあ、お留守番頼んだよ」

「うん」

エランが出ていったのを確認してから、スレッタも靴を履いて外に駈け出す。やはりどこに行くのか気になったし、寄り道?が酷いと聞いたことがあるし、これは監視なのだ。


近くのスーパーまで歩いている途中、後ろからずっとピッピッという可愛らしい音が聞こえてくる。立ち止まってみると音も止まり、歩きだすと音もまた鳴り始めた。

急に後ろを振り向いてみると、慌てて物陰に隠れるチビの姿が見えた。身は隠しているが、飛び出した赤毛がぴょこぴょこと揺れている。

気付かないフリをして歩きだせば、音も後ろからついてくる。

試しに聞こえるように大きな声で、独り言を言ってみた。

「スレッタはちゃんとお留守番できてるかな?まさか、ついて来てたりしないよねぇ」

「ないないだよ!」

「そっかー」

思いっきり返事をしているのに、気付かれていないと思っているのが可愛い。面白くなってきたエランは、もう少し泳がせてみることにした。残念なことに可愛いものはいじめたくなるタイプなのだった。

少し歩く速度を速めてみると、足音も忙しなくなる。早歩きをしながら歌うように、独り言のていでスレッタに話しかける。

「ああ……一人で寂しいな。寂しくて僕は死んでしまいそうだよ。スレッタがいてくれたらな」

「へ?」

突然立ち止まると、止まり切れなかったスレッタが背中にぶつかった。

「ふにゃ!」

「つかまえた♡」

ぶつかった衝撃でこてんと尻もちをついたスレッタを、腕の中に囲い込んで抱き上げて逃げられなくする。スレッタは気まずいのか、出来るだけ顔を逸らそうと無駄な足掻きをしている。

「お留守番ほっぽりだして、スレッタは悪い子だねぇ」

「スレッタちがうもん」

「じゃあ君はだれかな?」

「にごう?だもん」

普段のエラン達のやり取りを真似したらしい自称スレッタ2号。エランはスレッタ2号をにんまりとした顔で見つめる。

「スレッタは一人しかいないでしょ。僕のことが心配でついてきてくれたんだよね?嬉しいな」

「え?う、うん!そうだよ!えらい?」

えらいえらいと撫でていると、ばつの悪そうな顔はどこかに吹き飛んで、ふにゃりと頬を緩めている。

スレッタで遊んでいるとスーパーまですぐそこまで来ていた。


エラン様所望の詫びプリン(栗味)と勝手に食べられたガトーショコラを選んで、スレッタにも約束していたプリンを買ってあげる。プッチンするタイプのアレと抹茶プリンで迷っていたが、抹茶プリンにしたようだ。決める時に妙に目や髪を見られていた気がする。ついでに4号のぶんのおやつも買っておく。興味ない顔をしているが、ハブられたらそれはそれで不機嫌になるから面倒なのだ。

「そういえば、なんでスレッタは抹茶プリンにしたの?」

帰り道でなんとなく気になって聞いてみる。何故かスレッタは恥ずかしそうにもじもじとしている。

「いろ、にてるから」

「僕の目と髪が抹茶色か……じゃあ、これから僕はスレッタに食べられちゃうんだ。優しくしてね」

そっと耳元で囁くと、スレッタはよく分かっていないようで首をかしげている。しばらくすると、何か思いついたのかハッとした顔をして、

「マルカジリだよ!」

無邪気な笑顔で悪魔的な発言をした。頭からバリバリいかれるのは勘弁願いたいな……

「プリン、プリン!」

さっきのことなんて、何でもなかったようにプリンに夢中になっている。ああいうジョークは早かったと心の中で反省だ。これからはより健全な行動を心がけようと誓った。

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