お兄ちゃんと一緒(4号編)

お兄ちゃんと一緒(4号編)


「スレッタ・マーキュリー、今日は何が読みたい?」

膝の上にお行儀よく座っているスレッタにエランは問いかける。スレッタは、

「シェフのおまかせ!」

「それ、誰から聞いたの?」

「けれちゅ!」

初めて聞いた言葉はとりあえず使ってみたいお年頃なスレッタ、上手く言えてふふんと胸を張っている。

ちなみに”けれちゅ”はエラン様のことを指してスレッタが使っている。ケレスと言いたいが、上手く発音できずにけれちゅになっている。

ともかく今日はおまかせの気分らしい、エランは本棚を眺めてどの絵本にしようか吟味する。ふと、黒い鳥が色とりどりの羽をつけている表紙の絵本が目に留まった。題名は【おしゃれなカラス】、せっかくなのでこれにしてみよう。

本棚から取り出して、表紙をスレッタに見せてみる。

「とりさん!」

「この鳥はカラスだよ。そして、題名はおしゃれなカラス」

「カラスさんなのに、いろついてるね?」

「うん、どういうことかこの中に書いてあるんだろう」

スレッタはカラフルなカラスに興味津々だ。エランが絵本を開き、静かな落ち着いた声で読み上げ始める。


あるとき、神様が鳥たちを集めて言いました。

『明日の朝、鳥の王様を決めることにしよう。みなの中で、一番美しい者が王様だ』

それを聞いて鳥たちは大慌てです。

『七色に輝く、ぼくが王様さ!』

クジャクが大きな羽を広げました。

『わたしの真っ白い羽が、一番きれいでおしゃれでしょう?』

白鳥が気取って言いました。

『お日さまの色の、ぼくが王様だ!』

真っ赤なオウムも自信満々に叫びました。

鳥たちは、みんな自分が一番美しいと思っていました。

みんな口々に自分の美しさをアピールし、もっときれいに見えるように、川へ行って水浴びをしたり、くちばしで羽を整えたりしました。

ところがカラスは、

『あーあ、ぼくは全身真っ黒だから王様になれない。でも、王様になってみたいなぁ』

そして、みんなのまねをして川へ行きました。

すると、鳥たちはみんな水浴びを終えて、帰った後でした。

あちこちに、いろいろな鳥の羽がいっぱい落ちています。

カラスは、いいことを思いつきました。

『これは使えるぞ……!』

カラスは大喜びで、赤、黄色、ピンクに緑、白に紫……と、すべての羽を拾い集めました

そして、一晩中かけて真っ黒いからだに美しい羽をつけていきました。

さて次の朝、鳥たちは神様のところに集まりました。

『まあ、あのすてきな方はだれ?』

『なんてすばらしい羽なんだ!』

鳥たちは色鮮やかなカラスを見て、言いました。

神様もとても感心して、

『これほど美しい鳥は見たことがない。王様に決めよう』

と言いました。


「カラスさん、きれいだね!」

スレッタは絵本に描かれた色とりどりの羽をまとったカラスを指さして、キャッキャッと楽しそうにしている。

「そう、だね。綺麗だね……」

エランは悲しげな表情で、膝の上で足をゆらゆらと揺らしているスレッタを見つめた。スレッタは振り返って、

「おにいちゃん、つづきよんで!」

おねだりしてきた。気を取り直して続きを読み上げる。


そのとき、一羽の鳥が言いました。

『あっ、これぼくの羽だよ!』

ほかの鳥たちも、気が付きました。

『真っ白い羽は、わたしのよ!』

『真っ赤な羽は、ぼくのだ!』

みんなは、カラスのからだから、自分の羽をむしり取りました。

そしてカラスはもとの真っ黒に戻ってしまっただけでなく、たくさんつつかれて元の姿よりみすぼらしくなってしまいました。

おしまい。


「カラスさんかわいそう……」

絵本に描かれたボロボロのカラスを見つめて、ポツリと呟いた。

「このお話の教訓は、人は借りものではなく、持って生まれたもので生きていくべきである、ということらしいよ。カラスは自分のことを信じられず、借りものの姿形で勝負をしたから、こんな結末を迎えたのかもしれないね」

スレッタに言い聞かせているようで、どこか自分に対して戒めているように教訓を述べる。

「でも……」

それでもスレッタは納得ができないようで、うつむいて頬を膨らませている。不満げなスレッタを淡く笑んで見つめ、静かに語りかける。

「君の感想だって、間違いじゃない」

「そうなの?」

「それは君のもの、君の優しさ。その心は、いつまでも大切にして欲しいな」

「むつかしいけど、わかった。たいせつにするね!」

二っと笑うスレッタをそっと抱きしめるとむずがって声をあげる。今はそうしていたくて、腕の中に熱を閉じ込めた。

「おにいちゃん、ひんやりしてるね」

「それは僕の、僕だけのものだから。覚えていてくれる?」

「よくわかんないけど、おぼえておくね。おにいちゃんはひんやり!」

その後も自分のものと確信がもてるものを、スレッタに覚えておいてもらった。自分の持ち物はずいぶん軽くなってしまったけれど、せめて残されたものは大切な人にも持っておいてもらいたいと思えた。

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