「お代…です。」

「お代…です。」

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「お代…です。」


「お代なんていいよ、拓海くんだし。」

あきほさんはオレの手をつっぱねようとする。

「オレ、もう高校生ですし…、いつまでも甘えてばかりなのも悪いかなって…。

ほら、アルバイトも始めて…、自分のお金も持つようになったから、そろそろお支払いしないといけないと思って…。【親しき仲にも礼儀あり】って言いますし。」

「そんな、いいのに。拓海くんウチのお手伝いもよくしてくれるし、マカナイだと思ってくれればいいよ。

それに、まだちょっと先とはいえ、身内からは取れないよ。」

「でも…」

「うーん、拓海くんの申し出も嬉しいけど…」


あきほさんは少し考え込む。

「…じゃあ五百円!これから一食五百円ね。」

満額ではないけど…これ以上は譲ってくれそうもないなぁ。

「それで、もらったお代をゆいと結婚式を開くにあたっての費用の積立として預かっておくね。」

「あきほさん!?え!?な"?なに"いっで!?」

「そういえば聞きたかったんだけど、ふたり的には今って付き合ってるの?」

「あきほさん!?」

「ほら…ゆいってああだし、拓海くんからも特にプロポーズみたいなこともしてないんでしょ?」

(えぇ…決めつけないでくださいよ…)

「……そっ…そうですね…」

「………キスとかは…もうしたの?」

「あきほさん!?」



そんな質問攻めを喰らっているうちに、なごみ亭の入り口からゆいが帰ってきた。

「ただいま〜!あっ、拓海だ〜お手伝い?」

「今日は食べに来た。」

「そうなんだ〜。あたしはあまねちゃんたちとオムライス食べに行ったんだ〜。」

「フワフワのトロトロで、デリシャスマイル〜だったよ〜えへへ〜。」

「ああ、前にオレと行ったところだな。」

「またいっしょにいこうね!」

「おう。…ってかこっちから入ってきたってコトは、またカギ持ってくの忘れてたんだろ。」

ちょっとムキになったのか頬をぷくっと膨らませてる。…かわいい。

「そっ…そうだけど、ベツにこっちから入ればいいし〜!」 

「はいはい」

「も〜! 」

「拓海くん、これから定食を食べるとき、五百円くれるんだって。ゆいも高校入ったらこっちで食べるときはそうする?」

「え〜?それってイミあるの?」

「まあほとんどないけど、【親しき仲にも礼儀あり】っていうしね。お客さんにお出しする定食を頂く以上は、たとえ家族といえどももらわないといけないんじゃないかってね。」

柔軟な考えができる人だ。

これがさっきオレに「いいのに…」って言ってた人の言葉か?当分はこの人に敵いそうもない。

「うーん…。じぁあ…拓海がそうするなら私もそうしよっかな。」

「じゃあ拓海くん、次からはココに貯金箱置いとくからそれに入れてね。ゆいも来年からはココにね。」

あきほさんはそう言いながら、レジスターの横のちょっと空いたスペースを指した。

「分かりました。」

一方、この貯金の使い道を知らないゆいは不思議そうな顔をしている。

「なんで分けるの?一緒でよくない?」

「いいの、従業員(かぞく)はこっちね」

やや強引に丸め込もうとしているのがよく分かる。ゆいは全然納得はしていないようだが、とりあえず返事をする。そんな感じだ。

「はーい」

「拓海はなんでわけるかしってる?」

「いや…知らない…」

「そっか」


ゆいがこの貯金の使い道を知るのはこの日から数年後、オレとゆいの結婚式の計画を立てている時だった。


ED No.1(1/7)袋のネズミ




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