お久しぶりです科捜研

お久しぶりです科捜研



三人が、一枚の写真を覗き込んでいる。

「うーん、これは…」

そこには、見るも無惨に噛み殺された男の姿。科捜研は、今年一番と言えるほどの難事件に立ち向かっていた。


事の発端は二日前。

北海道のとある山奥で、行方不明になっていた男が発見されたと平太から息せき切って連絡があった。どうも不可解で力を借りたいと依頼され、今に至る。

「噛み殺されたように見えるが…」

関谷が写真を眺めて言う。男の首元や脇腹は血で染まっている。

「そうですねえ…その可能性が高いと思いますが、あいにくこの地域にはヒグマやイノシシは存在しません。傷の範囲から見ても小型の動物に噛まれたんでしょう」

姉畑が顎に手を置く。その後ろで家永も書類ファイルを閉じて言った。

「明日には司法解剖が入ります。その時に詳細に調べたらいいんじゃないですか?それにしてもこの人肌が綺麗ですね…」

事件があろうとなかろうと、科捜研は日々マイペースなのだ。


次の日。

「それでは、司法解剖を開始します。……黙祷」

三人とも静かに手を合わせる。そして1分も黙祷せず普通に作業を開始した。

「傷は右の方の首と脇腹、足に二箇所…全部同じ感じですね。傷は深いです。あと首は頚動脈を貫通してるので致命傷はここですかね」

「オオカミは賢くて獲物もまず首からというのは聞いたことありますが…」

たとえいつもの性格がアレでも腕の立つ研究員たちだ。やることは必ずやる。後ろでファイルをめくっている関谷に家永が話しかける。

「被害者は犬を飼っていたようですね。…その可能性は?」

「いや、それは無い。すでに飼い犬は数年前亡くなっている。確か遺品の切れたロケットに遺骨が入っていたはずだ」

「それもそうですね。…あら、何かしらこの…噛み跡じゃない」

家永が傷跡を少し開いて言った。姉畑もそれを見る。

「確かに、よく見るとなんらかの動物が噛んだ後ではありませんね。普通こう言う類の動物は噛んだ後引きちぎったりねじ切ります。これは、単純に噛んだ…挟んだだけ?それに、咬合力が野生動物ほど強くない犬でも、全力で噛めば100kgほど出ます。骨が折れていない方が不自然です」

「それじゃあ、これは…野生動物の仕業なんかじゃなくて…」

「それに見せかけた人為的なもの、殺人だな」

それを聞いた姉畑がわなわなと震える。

「…許せない。美しい自然や野生動物の行為と偽り、人間を殺すと言う醜い行為を行うなど…!必ずや犯人を捕まえましょう」

「姉畑さん…」

関谷が何か言いかけたのも聞かず、キッと目つきを鋭くすると、姉畑は出て行ってしまった。

バタン、と扉が音を立てて閉まる。関谷は腰あたりまで上げていた腕を降ろした。

「…アンタがそれ言うのか?」


この後、姉畑主導の怒涛の司法解剖(2回目)や被害者の手についた血などのDNA鑑定の結果犯人を特定、無事逮捕に至った。

解明は早いが解決は遅いと定評のある科捜研はこの日解決にかかった時間の記録を大幅に更新したとか、犯人がまた薬物関係で関谷と平太の頭痛の種を作ったとかは、また別の話。


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