おれ達の“宝”
レイレイーーーーー新世界 とある海域ーーーーー
レッドフォース号、四皇赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団の本船はその日もいつも通り、元気に宴をしていた。
ルウ「お頭〜、まだルフィに会ってやらねェのか?」
シャンクス「あいつも頑張ってるみたいだがまだまだだろ?
せめて懸賞金が10億を超えねェとな!」
ホンゴウ「ワハハ、厳しいなお頭は!それこそ四皇の最高幹部でも討ち取るくらいじゃなきゃ無理じゃねーか!」
ヤソップ「おれの息子もいるんだ、そんくらいできねえとな!」
ベックマン「お前は息子に合わせる顔が無いからだろうが」
船長も幹部たちも、12年前に東の海で別れた小さな友人の活躍を肴にいつものように酒を飲んでいたが…
ガシャン!!
突然、船長のシャンクスが持っていた酒瓶を取り落とした。
ロックスター「どうしたんですお頭?あんたが酒瓶を落とすなんて勿体無い真似するなんて…!?」
新入りのロックスターが疑問に思ってなんの気無しに尋ねる。
シャンクス「………ベック」
ベックマン「…ああ」
シャンクスはロックスターを無視して最も信頼する副船長の名前を呼ぶ。そして副船長のベックマンはそれだけで意図を察し、即座に船室へと消えた。
他の幹部たちや、12年以上船に乗っている古参の船員達も酒や料理を置き、即座に行動を開始する。
ロックスター「み、皆さんどうしたんで…」
ヤソップ「悪ィなロックスター、他の奴らに宴は中止だって言ってきてくれ。」
ロックスター「わ、わかりやした。でも、皆さん顔色が…」
ホンゴウ「いいから、行ってくれ。事情は後で話す…」
全員、まるで幽鬼のように青い顔になった幹部たちの様子に只ならないものを感じたロックスターは直ちに他の困惑している船員たちの所へ向かった。
ベックマン「お頭…」
船室へ何かを探しに行っていたベックマンは戻ってくると、悲しそうに首をふる。
ベックマン「案の定、何も残ってねェ。服も楽譜もな…」
シャンクス「そうか…。ビブルカードは?」
ベックマン「ない。もう12年も前だが確か、持ち主がわからないビブルカードを処分したはずだ。
…なあお頭、確かあんた切れ端を持ってなかったか?」
シャンクス「…麦わら帽子の中だ。今はルフィが持ってる」
ベックマン「…そうか」
船長と副船長の会話を無言で聞いていた幹部達も青い顔のまま項垂れる。
ルウ「お頭、最後にウタのことを覚えてるのは…?」
シャンクス「12年前、ルーツイマ島に停泊していた時だ…」
ルウ「おれもだ。他の奴らも…」
スネイク「まだフーシャ村を拠点にしてた頃だな。
クソ!今から偉大なる航路の前半の海のその島までかなりかかるぞ!」
ベックマン「…どの位かかる?」
スネイク「偉大なる航路を逆走するなら手間が掛かるが…、ここからなら一度凪の海域を突破してリヴァースマウンテンから向かったほうが早いな」
ベックマン「かなり危険な航海になるな…」
シャンクス「構わねェ、とにかくウタの手がかりを探すぞ!」
幹部達「「「おう!!」」」
その後、夜を徹して航海し一週間で新世界から凪の海域を突破し西の海へ到達したレッドフォース号は、脇目も振らずリヴァースマウンテンを通り、双子岬へ到着した。
ーーー双子岬ーーー
シャンクス「ラブーン、久しぶりだな!それにお前、そのマーク!」
ベックマン「下手くそだがあれは…」
ルウ「ルフィのマーク…だよな?」
ヤソップ「なにやったんだあいつ…?」
不眠不休でここまでたどり着いた赤髪海賊団の船員達は、双子岬の名物クジラの頭に描かれたマークを見て、一週間ぶりに口元に笑みを浮かべていた。
補給と休息の為に一度錨を下ろしたレッドフォース号へ一人の人物が近づいて来た。
クロッカス「シャンクスか!?」
シャンクス「クロッカスさん、久しぶ…!?」
船から飛び降り、懐かしい人物へ声をかけようとしたシャンクスの顔面を、双子岬の灯台守であり海賊王の船の元船医でもあった男が殴り飛ばした。
ロックスター「こいつ…!?」
ベックマン「待て!」
異常事態に気色ばむ船員たちを副船長が抑える。
シャンクス「…な、何を」
クロッカ「何故新世界にいるお前がこんなところにいる!!
ウタはどうした!!!」
双子岬の灯台守であり、シャンクスの古い知人でもあったクロッカスは当然、シャンクスの“娘”であるウタとも面識があった。
シャンクス「待ってくれクロッカスさん、俺たちはそのウタを探しに…」
クロッカス「…知らなんだのか?新聞を見てなかったのか!?」
シャンクス「あ、ああ。凪の海を通ってきたからニュース・クーも来なかっ…」
もう一度シャンクスの顔面を殴り飛ばすクロッカス。その威力は老人とは思えない程で伊達に海賊王の船に乗っていた訳では無いことをうかがわせた。
クロッカス「これを見ろ!」
二度も殴り飛ばされ情けなく尻餅をついたシャンクスに、クロッカスは数日前に届いた新聞を投げ渡す。
そこには、海兵に追いかけられながらも満面の笑みのを浮かべる麦わら帽子をかぶった少年と、彼にお姫様抱っこされ赤面する赤と白の特徴的な髪色をした少女が写っていた。
シャンクス「こ、これは!?」
クロッカス「その様子だと、ドレスローザの事件も知らず慌ててここまで来たようだな…」
新聞に写った二人を、かつて麦わら帽子を託した少年と、彼に抱かれる少女を食い入るように見つめるシャンクス。
四皇と恐れられる海賊からかけ離れたその姿に呆れたように、クロッカスは毒気を抜かれ、シャンクスと彼を心配して船から降りてきた幹部たちに新聞の内容を説明した。
ベックマン「ドレスローザでそんなことが…」
ヤソップ「あの人形が…」
ルウ「ルフィのやつ、本当に立派になったんだな…」
スネイク「どうする、お頭?
ウタはルフィの所にいるならひとまず安心だとは思うが?」
シャンクス「……ドレスローザへ行くぞ」
悩んだ末に、シャンクスは船長として答えを出す。
ルフィ達の行き先は分からないが、ドレスローザに行けば手がかりは得られるはずだ。
シャンクス「クロッカスさん、ありがとう」
クロッカス「…ルフィ君達は、人形だったウタを仲間として大切にしていたよ」
シャンス「…そうか」
クロッカス「早く行ってやれ」
そしてシャンクス達は再び新世界へ向かう為に、まずは進路をシャボンディ諸島へ向けた。
ーーーシャボンディ諸島 シャッキーのぼったくりバーーーー
ドゴォォォン!!
全速力で偉大なる航路前半の海を駆け抜け、シャボンディ諸島へ2週間でたどり着いたシャンクス達は魚人島へ向かう為に、古い知り合いであり、現在はコーティング職人でもある海賊王の元右腕“冥王”シルバーズ・レイリーを訪ねて、彼の住むバーを訪ねたのだが…。
シャッキー「………」
シャンクスは再び、地獄の獄卒も裸足で逃げ出す程の怒気を放つ店主に蹴り飛ばされ、ドアをぶち抜いて外へと叩き出された。
ベックマン「あー、これは一体…?」
レイリー「すまないなベックマン、彼女は2年間、人形だったウタに修行をつけてくれていたからね。」
ベックマン「……なるほど」
そしてバーを訪ねた赤髪海賊団の幹部達は全員、シャッキーの手厳しい制裁を受けて地面に沈むことになった。
レイリー「コーティングは請け負おう。可能な限りすぐに出発できるよう準備をしておけ」
シャンクス「ありがとうレイリーさん」
レイリー「ふふ、お前がそこまで取り乱すとは長生きはするものだ」
シャッキー「慌てるのはわかるけど、なんで新世界から偉大なる航路をもう一周するようなことになるのかしら…」
ベックマン「面目ない…、俺達も冷静ではいられなかったみたいでな…」
ひとまず溜飲を下げたシャッキーとレイリーに事情を話し、船のコーティングを依頼したシャンクス達はバーでもてなしを受けた。
シャッキー「ウタちゃんは、命懸けでルフィ君の航海について行こうと頑張ってたわよ。ルフィ君もあの子のことを本当に大切にしてたわ」
シャンクス「そうか…、あいつ本当に成長したんだな」
レイリー「戦争の後、あの子がわたしにしがみついてルフィ君の所に行かなければ、ルフィ君があれほど早く立ち直れなかっただろうな」
シャンクス「ウタ…」
3日後、コーティングの完了したレッドフォース号で赤髪海賊団は魚人島へ向けて出港した。
ーーードレスローザーーー
ドレスローザへたどり着いた赤髪海賊団は、彼らを待っていたという片足の戦士キュロスから、ルフィとウタの伝言を受け取った。
シャンクス「ウタァ…、すまん……」
ベックマン「ルフィの奴、いっちょ前なこと言うようになったな」
ウタからは“自分は元気にルフィの船に乗って冒険をしているから気に病むな”と、ルフィからは“ウタはもうおれの仲間だからシャンクス達には返さねェ、でも父ちゃんには会わせてやりてェから海賊王になったら会いに行く”とそれぞれ慣れないだろうにわざわざ手紙に書いてキュロスへ託していったとのことだった。
シャンクス「そうか、ルフィとウタはきちんとケジメをつけたんだな」
キュロス「ああ、あの二人と仲間たちのお陰でこの国は救われた。それと…彼らは“ゾウ”へ向かうと言っていた」
シャンクス「ゾウか…、あそこはログがないからな」
ベックマン「お頭、どうする?」
シャンクス「一応ウタが無事にルフィ達といることはわかった。早く会いたいが…」
キュロス「手掛かりとまでは言わないが、ルフィランド達がこの国に来た目的は、四皇カイドウを倒す布石だったそうだ」
シャンクス「カイドウを…?」
キュロス「そうだ、ただ計画がだいぶ狂ったとも言っていたな」
キュロスから断片的にだがルフィとローの海賊同盟の目的を伝えられたシャンクス達は呆れたようにため息をついた。
ヤソップ「あいつら、とんでもないことをやろうとしてやがる」
ルウ「ルフィらしいじゃねーか」
ホンゴウ「いくらなんでもいきなり四皇は無茶だろ!?」
スネイク「そんぐれェ気合はいってないとうちの娘を預けらんねェだろ、お頭!」
シャンクス「この先はあいつらの航海だ、邪魔も手助けもするのは野暮だ。俺たちは俺たちの航海に戻るぞ!」
ベックマン「縄張りも随分と放っておいたからな、取り敢えずその見回りだ!」
幹部達「「「おうよ!」」」
こうして赤髪海賊団はドレスローザを出港し自分達の縄張りへと戻った。
シャンクス「ウタ、ルフィ。待ってるぞ、この海の先で…」
ドレスローザから出港した日、シャンクスは久しぶりに酒を飲んだ。愛する娘と、己の帽子を託した少年を想いながら。
目に浮かぶのはかつて宝箱の中から見出した子供、その子供を“娘”として育てた懐かしい記憶…。
シャンクス「ルフィ…おれの、おれ達の“宝”を頼むぞ…」
彼らが、ルフィの子分だというバルトロメオが自分の縄張の旗を燃やすという事件をおこしたことを知るのは、もう少し先のお話…。