おれ/私の心は、決して挫けない

おれ/私の心は、決して挫けない


──夜が明けて、朝日が昇る。

今日をもって、私はこの村を離れて海に出る。


「…うん、こんなんで良いかな?」


マキノから貰ったシャツとズボン、私達の『新時代』のマークが刺繍された水色のアームカバーを左腕に身に着けた私は、映像電伝虫をゴードンのいるエレジアへと繋げる。


「あーあー、うん……おはようゴードン!今日は絶世の出航日和だよ!」

『あぁ、おはようウタ。私も君が元気で嬉しいよ』


そんな他愛のない挨拶から始まった会話は、思った以上に弾んだ。

なんせこの映像電伝虫を使った会話は、今日が最後になるのだ。むしろ弾まない方が失礼なんだから、これでいいのだ。


「それでね!ルフィったらこの間のチキンレースの時、またジュースに引っかかっちゃって───あ、そろそろかな?」

『……そのようだね、ウタ』


そして弾みに弾んだ会話は、近づいてきた出航時間によって終わりを迎えた。


「……それじゃあ、行ってくるねゴードン」

『……あぁ、いってらっしゃい』


その会話を最後に、役目を終えた映像電伝虫は目をつむり、机の上で眠りについた。

それを見ながら私は、いままでお世話になったこの部屋にお別れを言った。



それから私はルフィと一緒に、お世話になった人達へと挨拶回りをしていた。

その途中で立ち寄ったダダン一家のアジトで彼らにお礼を言いに行った際、ダダンがびっくりするくらいに号泣した時は、思わず笑みがこぼれたものだ。


「よっし、行くかウタァ!」

「うん!じゃーねーみんなー!!」


やがてあいさつ回りを終えた二人は、漁師のおじさんから譲ってもらった二人乗りの古い漁船に乗ってフーシャ村の港から出航した。

そのまま船に揺られていると、更なる波の揺れが発生。

揺れに気付いた二人が波の発生源へと目を向けると、そこから巨大なウツボの姿をした海王類が唸り声を上げて睨みをきかせる。


「出たか"近海の主"!!」

「ふーん…コイツがシャンクスの片腕を取ったっていう……

でも、相手が悪かったね」

「あぁ、十年鍛えたおれの技を見ろ!!」


余裕そうな雰囲気の人間二匹が気に入らないのか、それとも只の獲物としてしか見てないのか、近海の主は大口を開けながら船を丸のみしようとする。

しかし──


「ゴムゴムのォ……銃(ピストル)!!」


その前にルフィが放った、ゴムのように伸縮した拳が近海の主の顔面に見事ヒットし、あっという間に海へ沈んだ。


「思い知ったか、魚め!!」


かくして友人の仇を討ったルフィと、一発のパンチで撃沈した近海の主の姿を見て、ウタは笑みを浮かべる。


「ふふっ、本当に強くなったねルフィ」

「当たり前だろ?俺のパンチは、ピストルの様に強いんだ!」

「うん。知ってる」

「そっか!ニシシ‼……よし、まずは仲間集めだな。十人は欲しいなァ。そして海賊旗!!」


こうして二人の、互いの夢を叶えるための、其々の目標を達成するための旅が始まった。


(……ねぇシャンクス。みんなは今、なにしてる?私は、ルフィと海に出てる。

待っててね。いつか絶対に追いついて、私を置いてった事に文句いっぱい言って、一発ぶん殴ってやって、それでまたみんなと航海をする。

今度は箱入り娘としてじゃなくて、ひとりの海賊として)


「━━よっしゃ、いくぞ!!

海賊王に、おれはなるッ!!」


(そして私は、歌で皆が自由で幸せになれる、そんな新時代を作る──!)









──やがて時は流れ、現在。


『愛してくれて……ありがとう!!!』

『……あの子の歌は世界を滅ぼす!!!!』


彼/彼女は、泣いていた。


どんな壁をも越えられると思っていた"自信"、疑う事の無かった己の"強さ"、憧れであり道標だった"兄"。それらが無惨に打ち砕かれていった。

平気な顔で人の平穏と幸福を壊し、他人のモノを笑って強奪し、踏みにじっていく。そんな大嫌いな海賊と同じ存在である事を知った。


──何が「ひとりにしねぇ」だ!!何が新時代だ!!何が…海賊王だ…!!

──"私"の罪だ!!!!エレジアを滅ぼしたのは、他の誰でもない"私"なんだ………


そのうち、彼/彼女の心は────


「おれは‼‼ 弱いっ‼‼」


「………なんで………なんでこんなことに…………ルフィ…………シャンクス……………」


───どうしようもない位に、完全にへし折れていた。

Report Page