おれのこども
続き書き切るまでスレが残ってるか心配です薬と快楽によってすっかりふやけた頭を、黒名は白の水溜まりに擡げた。お気に入りの三つ編みに白濁が染みていくのがよく分かったが、避けようと寝返りを打つ気力はもう残っていなかった。
「……」つぷりと表面張力が切れて涙が零れる。滲んだ視界に、無機質に去っていく足元が映った。もうあの足からは一生逃げられない、そんな哀れな自覚に、忘れていた下腹部の痛みがぶり返す。
噛み付いて殴られた時のとも、閉じきった穴を無理やりこじ開けられた時のとも違う、鈍く重たい痛み__
__その内側で、確かに感じた小さな生命の瞬きに、黒名は目を見張った。きゅっと縮んだ牡丹色の瞳がみるみる絶望に染まる。
そんな、まさか。
掠れきってほとんど空気のような声が溢れる。
嘘だ、嘘だ。だって俺。
どくん。
「ぉえっ、」一際大きく心臓が跳ね、それに伴って鳩尾を殴られるような痛みが押し寄せた。嗚咽を漏らしながら、息の塊を気道から無理やり押し出そうと蹲る。
その時、年齢にしては少し小さめの手のひらが、ぽっこりと膨らんだお腹に触れた。
「は……」
嫌な予感の的中。信じられない気持ちでそれを見つめる。
__俺、男なのに。
それは、多量に吐き出された精液で膨らんだどころの話ではなかった。力が上手く出ないながらも必死に腹を押してみるが、後孔から精液が吹き出すことも無く、しっかり中の詰まったような弾力と、……僅かな中からの抵抗を感じて、黒名は恐怖を加速させる。
いくら性経験の少ない黒名といっても、さっきまでされていたことと、この状況を結びつけるのはあまりにも容易だった。
妊娠。している。
あの化け物の子どもを。
「ッ……」
特大の衝撃を食らった頭が一気に理性を取り戻して、ぐるぐると回り始めた。状況を知覚していく内に、身体中から冷や汗が湧いてきて、息が荒くなっていく。
気持ち悪い。
気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
黒名の顔ほどもあった肉棒。そこから大量に吐き出される精液じみた液体。終わらない快感と、そんな自分への嫌悪。十数分前まで延々とされてきたことがフラッシュバックして、胃がひっくり返る心地がした。
「げ、ぇ"、っお"、……」
乳白色の液体が喉奥から逆流して、そのままびちゃびちゃと床にぶちまけられた。今日食べた朝食は消化されきっているので悪臭は薄いが、それでも記憶に直に結びつく強い精液の匂いは黒名に吐き気を催させる。
口の周りどころか顔中を汚しながら嘔吐を続け、白の中に黄色が混じり始めた辺りで、ようやく物理的な気持ち悪さが収まった。
黒名は腕で顔を拭い、体勢を整える。身重にふらつきながらも、壁に寄りかかりつつ立つことは出来た。
さて、"これ"をどうしようか。
"どうやったら殺せるか"。
壁伝いにゆっくりと歩き出す。幸い、というか、黒名を捕まえ犯した張本人は黒名を気に入ったらしく、黒名は他の面子とは違う部屋に閉じ込められていた。奴は先程部屋を出ていった。これ以上成長したら動けなくなるだろうから、どうにかするなら今のうちだ。
……とはいえ。
どうすればいいのだろうか。
この部屋にはナイフとか、そういう類のものはもちろんない、いや、そもそも床には何も転がっていない。まさに閉じ込めておくだけの部屋といった様相で、家具も何も無い。
……跳ぶ?
普通の胎児なら、少しの振動でも流産の危険があるらしい。この生物がどうかは知らないが、試してみる価値はあるだろう。
黒名は少し膝を曲げて、伸ばした。つま先を床から離す、……
「い"っっ!!!!」
着地の振動とともに走った激痛に、思わず身体を床に落とした。痛い、痛い痛い痛い。死ぬほど痛い。全身の神経がバリバリと引き裂かれるような耐え難い苦痛だ。それはあたかも腹の中の赤子が黒名の内側を引っ張ってきているみたいで。
"死にたくない"と必死にしがみついてくるようだった。
「ふぅーーっ、ぅ、」長引く痛みを少しでも和らげようと息を吐き出す。
ぬるりと太ももに違和感を感じてそちらを見ると、真っ赤だった。尻から血が垂れてきているらしい。
「……」流産、したか?
黒名は腹に手を当てる。
……
しばらくして。
腹の皮膚越しに手のひらを蹴られた。
「ッぁ、……」思わず手を振り上げる。
ダメだった。ダメだった。ダメだった。
こんなに痛いのにダメなら、流産するレベルの衝撃って、
想像するだけでゾッと背筋が凍った。もう収まったはずの、さっきの痛みが蘇ってくる気さえする。
多分、最初よりも腹がでかくなっているように感じるのも、気のせいじゃない。
何とかしなきゃ。
何とか。
どうにか殺さなきゃ。
この化け物を。
もう一度立ち上がろうと足の筋肉へ信号を送る。しかし、つい先程酷い痛みを植え付けられた身体は、言うことを聞かなくなっていた。
どんどん腹が大きくなる。倦怠感が身体を取り巻いて、正直もう動きたくない。
そんな事実に黒名が絶望した時。
がちゃん。部屋の、鍵が開く音が、遠くの方から聞こえた。