おかえし

おかえし

天翔ける翼の最高傑作

「完敗っス。今度から”姉貴”と呼ばせて貰っていいっスか?」


「なんだよーはんかくせー奴だなー、ってか『鬼婦人』を最初に『貴婦人』に戻したのはジェンティルと組んでの前回覇者なオルフェじゃねーか、アタシは二番目だから」


「いやいやいや、アレ例のジャパンカップで叩き合いに負けたんでウチが女にされちまっただけっス」


「ふたりとも全く褒めてませんわよね?海に沈めてやろうかしら……」


「まあまあ、カレンはベストデートの花道、全力で応援宣言しちゃいまーす!乾杯っ」


当日までデートが伏せられるという、激動のネオ・ドロワット後夜祭──ベストデートに選ばれたジェンティルドンナとゴールドシップ、会長特別賞に選ばれたオルフェーヴルとカレンチャン。

4人が揃い踏みの饗宴は、ほぼ同期にしてグッドルッキングウマ娘筆頭、エイシンフラッシュが溜息をつくほどに美しい光景だった。


「ほれ、カフェが死地へ赴くゴルシちゃんに餞別だとくれたすげー豆だ。ジェンティルも飲んでみろ、砂糖ねーのに甘くてたまげるぞ」


「なんですの死地に餞別って!今すぐマンハッタンカフェ様に謝りなさい!それ日本じゃまず味わえないわたくしでも驚く程の最高級品でしてよ!」


「嗅ぎゃわかるわ。いや何か、アタシとジェンティルがくっついてるといっつも草葉の陰でデジタル化してるおもしれーおじ様が見えるらしくてよ、だからオービタ・ディクタで貰った」


「それならそうと先に!そもそもこれではか、関節キスではありませんか!」


「オーラスでファーストキスを全観衆に見せつけといて今更何言ってるんスか、ほんっと2人とも最初から最後までもどかしくて堪らないっスね、忌憚の……」


連携と見紛う双方向からのタックルを、読めているとばかりに尻尾をたなびかせ躱すオルフェーヴル。手にしたグラスへ注がれた液体は、一滴の零れどころか波すらも見えない。


「オル。ふたりだけの世界にしようね」


「全くっスね、息ぴったりだしせいぜい末永く幸せにっス……え?」


互いの夜は、ブラインドで遮られた窓の外からの見えない星空で満たされてゆく。

「ふたりだけの世界って、自分がなりたかっただけじゃねーか。しかもドロワであいつらが流してたオルゴール、あれ『激愛』ってド直球な名前の劇中歌で映画名もそのまま『オルゴール』──もう完全求愛ダンスだろ、なあジェンティル?」


「え、ええ……まあ……」


「んだようっとりして。飲物一覧にアルコールはねえぞ」


「うるさいですわね、これではムードも何もありませんの」


オルフェーヴルがカレンチャンの手に連れられ、ふたりきり。『優勝者と受賞者が中央を占拠すると嫌味に見えてしまう』との判断故、位置は最端。


「ハーッハッハッハ!何と尊く血湧き肉躍る悲喜劇か!デジタル君の気持ちが少しばかり分かった気がするよ!ここは敢えてもう一度、再現して見せるとしようか!さあ、誰がボクの手を取ってくれるんだい?」


「テイオー君、今すぐ名乗りを上げるべきだ。この大役が務まるのは因果を同じくする君しかいない」


「もー!なんで先に言っちゃうのさーハヤヒデ!おっほん、ラストランがあの子と同じ長期休養の有マ4番人気から奇跡の復活!そんなワガハイがデートに立候補しちゃうぞよ!よきにはからえー」


中央にて惜しげもなく披露される、ドロワに心打たれたであろうテイエムオペラオーとトウカイテイオーによる即興劇。その記憶力と完成度の高さは、皆の視線を釘付けにしていた。


──魔が差した。今なら誰も、こちらに注目していない。ならば……


「10秒だけ、逃げないで下さいまし。お返ししますわ」


「……あ?」


強引さすら、絵になる乙女がそこにいた。

手をかけ顎を引かせ、我儘のままに、ゴールドシップの唇を奪った。自らの不相応な膂力に、これ程感謝したことはない。ひそやかでは、足りなかった。もっと、もっと、貴方が欲しい──


「バッカ!お前!オマエ!マジで酔って掛かってねーか!?」


「いいえ、これで貸し借りはなしというだけです。それにこれから──酔わせてくれるのでしょう?」


「あーあ……こりゃとんでもねーご令嬢に惚れちまったモンだぜ」


宴はまだ、始まったばかりだ。


continue?

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