うなぎ奢り奢られ決闘
稲生・紅衣・メメ・虎屋のスレ主「貴方が綱彌代継家さんですね」
「確かにそうだが お前は確か可城丸六席という名だったか」
メガネをクイと押し上げている目の前の男は手紙を持っている
「稲生五席から"演習試合"のお知らせを持ってきました」
先日の奢り奢られについて後で一勝負辻斬りでもと考えていたのだが、家に帰り次の日である今日に渡してきたという事は当日の内に色々と手をまわしていたのだろう。十三番隊仕事は投げ出した上で。
「先輩の仕事は僕が引き継いでおきましたよ なんだかこの手紙関係で忙しそうでしたので」
私が監視を始めた頃から可城丸六席は稲生五席とは仲が良く、滅却師が攻めてきた際には稲生五席が身を挺して守っていたこともあって六席はお節介を焼いているようだ。
手紙の内容は簡潔にすればこうだ
・京楽総隊長を見届け人として呼んだ
・万一の治療のために涅隊長と虎徹清音副隊長を呼んだ
・場所の提供と演習の結果を見て今後の対策を見てもらうため芦原教員を呼んだ
・場所は霊術院の訓練場の一つ(屋外)開催するのは明日
一日でこの人物たちを集められたのは...私が関わっていることとそもそもの友人関係の広さ故だろう。
「手紙の内容に関してはわかった それとタトゥーは中々に似合っているな」
「ええ...稲生先輩も結構前に『いかす!』と褒めてくれまして...」
辻斬り以外で勝負を挑むのは経験がない...一度過去の映像を見返して稲生五席の対策を考えるのも良いかもしれん、そう考えて今日は早めに家へと帰ることにした。
──当日──
「いやぁ昨日の今日なのに色々と手を回してもらってごめんね...先生」
「いえ構いませんよ 稲生さんも京楽さんも私の元生徒ですし継家さんも今回で生徒のようなものです 生徒の為ならどんとこいですよ」
「稲生五席早々にやられないように注意した前ヨ この前戦闘データを取ることが出来なかった分今回は詳細なデータを撮りたいのでネ」
「私が呼ばれたのは元十三番の四番隊だからですかね...?」
各々4人が好き勝手喋っているのが見える
「来たようじゃな綱彌代継家!うなぎの代金は吾が払わせてもらうぞ!」
無駄に元気いっぱいな140㎝BBAが声をかけてくる
「これだけの格の聴衆を集めて見るのがコレとは...随分と平和ボケしているな護廷十三隊は」
「お主が辻斬りで世間を騒がせるのを防ぐためなのじゃからこれも護廷の仕事じゃろう」
まぁごもっともである 追加するように京楽がこちら二人に声をかける
「ま そういうことだね 一応ルールとして稲生ちゃんは卍解したら負けだよ 家継はまだ卍解できないし始解同士でね」
「待て京楽!私は本気でやり合いたい 稲生五席の卍解の使用を許可しろ!」
露骨にニヤニヤしつつこちらを見る京楽に吠えてかかるが
「まぁ落ち着きなよ 直ぐに始解同士でケリをつけられたら直ぐに治して卍解ありでもやらせてあげるから ね?」
このままでは埒が明かない...さっさと始めてお互いに本気でやれるようにしよう
「それじゃあ行くよ~ 始め!」
初手はどうしたものか...相手は遠距離主体であり霊圧を鴉へと変換する以上霊圧さえどうにかしてしまえば大幅に弱体化する。ならば即座に懐に潜り込み一つでも"影"を当てるのが良いだろうか
「天望枯れ果て地を辿らん 『花典』」
「あっごめん 蛇腹腕(ろけっとぱんち)」
お互いに始解をし合うのかと思っていたが予想外の打撃を受けた...刃で受け止め影に触れさせたが既に肩から外れている。旧式の蛇腹腕を使用後直ぐに切り離す改造を施した物だろうか
「飛べ『堅獄鴉』!腕がないから補肉剤を使ってさっさと直すのじゃ」
始解した稲生五席の斬魄刀が変化し刀身が無くただ鍔があるだけの刀となる、それと同時にまるで噴水のように彼女の体や周辺ににじみ出た霊圧が鴉へと変換されて飛び立っていく おおよそ二千羽がほどだろうか
先ほどの不意打ちで距離が離され相手に鴉を出す猶予が出来てしまった、涅マユリがほくそ笑んでいるのを見えはしないが感じた。
再度接近を図りつつ影を伸ばす...一つ触れれば一つ奪う影
「おお...それが当たるとマズい奴じゃったか」
「実際に喰らってみれば涅のデータ取りの助けになるぞ」
「お主を倒してこの試合が終わった後に喰らっておけばおーけーじゃろう」
二人の間にある地面には空を飛ぶ鴉の影と花典の作り出す影がそれぞれの敵に向かっていた
「うーむそれじゃあ『ふぉーめいしょん 八』!輪になって鴉のさんばじゃ!」
「ダサい」「なんじゃとおぉ!?」
余りにダサいのでつい口に出たが状況は芳しくない、私の影は確かに強力だが稲生五席はかなり瞬歩が速くしっかりと追い詰めなければ当てることは難しい。
そして先ほどのフォーメイション8だったかは頭上の空に十羽単位で円を作り何やら詠唱している...恐らく縛道だろうか
「斬魄刀の能力による詠唱代行...痣城剣八の猿真似か」
「偶然被ったんじゃ!ぱくっておらぬ!」
≪≪縛道の五十三 五柱鉄貫≫≫
鴉どもが声をそろえて詠唱を終え私を束縛するためにいくつもの柱が殺到する...千本にすら届きそうな数で拘束どころか圧死しかねない量がこちらに来ている気もするが
「避けた上で行くしかないか」
縛道を避けつつ接近戦に持ち込む、鴉や先ほどの蛇腹腕の影に花典の影を忍ばせておいたのを使い逃げ道を塞ぐ
「縛道を避けながら斬術で吾を倒すつもりじゃな?」
「ああ 早く君の本気がみたいのでね」
稲生五席が始解を解き刀身を元に戻す...あちらも斬術で勝負する気らしい
お互いに踏み込み鍔迫り合いになると思っているとふと刀身が消え内側に潜り込んでいる
「卍解が出来ると解号なしで始解出来るからのぉ...刀身を一瞬消して潜り込んだんじゃ」
私の胸には深くはないが刀傷が付いた、距離をまた離される前に鬼道を練る
「破道の三十三 蒼火墜(そうかつい)!」
詠唱を破棄し相手に向かって手を向ける...だが手の一寸前にいたのは鴉
「さっき斬り合った時に作っておいたのじゃ そのまま自滅しておくれ」
私の手から放たれた破道は爆炎と煙と共に私の身を巻き込んで焼く...ある意味残念だがそこまで威力がなかったのが功を奏した
「一発で自滅できるほど鬼道には精通していなくてね!」
煙が煙幕の役割を果たし易々と近づくことが出来たようやくこれで届く!
「思うておったより元気じゃな!?」
今度こそは逃がさないはぐらかさせない...!確かに刀は鍔迫り合い影は相手に触れ両者は止まった。
「吾の霊圧も削られ 恐らく速度も削られたか...じゃあもうこれしかないのう」
──卍解 『黒匣堅獄鴉』
私の花典を受け止めていた堅獄鴉が白い鴉となり空を目指す
稲生五席は相手を失い突っ込んできた花典を受け止めそのままこちらを妨害してくる
影の手が飛び立ち始めた白い鴉を天から地へと引きずり落とそうとするが届かない
白い鴉は他の鴉と合流し四千と二の目を持ち千と二の口を持つ巨大な鴉へと変貌を遂げた
≪≪≪≪≪縛道の七十九 九曜縛≫≫≫≫≫
詠唱破棄により威力は低くなるが分担せず一羽一羽が放った縛道によって、とんでもない数の黒点が私を縛る
もはや指一本たりとも動かすことは出来ない
「これで...吾の負けじゃ 卍解してしもうたしのう」
京楽達がこちらに来ているのが見えた...卍解を引き出せたのは良いがこれでは格好がつかんな
「多分この後涅にあちこち調べられるんじゃろうな...待ち時間に菓子でも要求するかのう それにしても継家よ お主かなり根性もあって向上心もある...五番隊へ行かんか?」
「そこは十三番隊ではないのか稲生五席 そうやって五番隊びいきだから親戚のおばちゃんの扱いなのだぞ」
稲生五席をまたぷんすか怒らせつつ話を聞く、教員からは「斬魄刀の能力だけでなく歩法や鬼道など基礎から詰めていけば更に付け込まれることは少なくなると思います」と言われ必要であれば自分に聞きに来てほしいといった具合だった。
京楽は「いやぁ正直勝負の内容に関しては予想外だったねぇ 僕としては今後も辻斬りじゃなくてこういう試合形式ならどんどんやってくれていいよ!」と言ってきたので今後も辻斬りは続行が決定した。
涅隊長は既に稲生五席を回収して研究室へ向かっているようだ...清音副隊長の治療を受けつつ稲生五席に向かって叫ぶ
「海燕や浮竹の話を聞かせてもらう件ちゃんと果たしてもらうからな!」
遠くから気の抜けた肯定の言葉が響いてきたのを感じた。